【フォトエッセイ】虫めづる奇人の回想◎小松貴――第84回/コブスジコガネと三種の神器(後編)

第84回 コブスジコガネと三種の神器(後編)

前回の記事はこちら「コブスジコガネと三種の神器(前編)」

死んだ鳥獣の爪や羽毛などのケラチン質を好んで餌とする風変わりな甲虫・コブスジコガネ捕獲のために思いついた悪魔の実験――。それは「人間の爪」「毛髪」「バドミントンのシャトル羽根」という〝三種の神器〟をサギ山にしかけることだった。果たして、その結果やいかに?

 本来ならば、一ヵ月そこそこで様子を見に行こうかと思っていたら、悪天候やら降って湧いた想定外の雑務やらに阻まれ続け、あれよあれよという間に一ヵ月半以上も経ってしまった。明けるのか明けないのかもはっきりしない梅雨空の最中、これ以上先延ばしにしてもしょうがないと判断し、私はあの仕掛けの成果を見に行く事にした。

 からくも雨が落ちてこないタイミングで、あの三種の神器のある、サギ山の林まで辿り着いた。サギのコロニー内では、先の頃と比べて巣内のヒナがより数多く、より大きく育ってきているらしい。それに伴い、排泄物や墜落死亡個体の量も一段と増え、サギ山の林全体から異臭が周辺一帯に漏れ出しているようだった。

樹冠に止まるサギ類。数年繁殖に使われた林は、糞害により木が枯れていくことが多い
樹冠の巣から落ちたサギの雛。自力で巣に戻ることはできず、親もわざわざ助けないので、必ず死ぬ

 さて、仕掛けたブツはどこだろうか。探そうとしたが、このひと月余りの高温とふんだんなる降水により、林床の雑草があまりにも育ちすぎており、仕掛けの所在を探すのに一苦労した。しかも、ようやくその場所を見つけ出すも、何やら様子がおかしい。忌々しい獣の類に仕掛けを荒らされたようで、神器のうち毛髪と爪が綺麗さっぱり消えてしまっていた。あんな栄養もなさげな物、まさか食ったのか?

 残りのシャトル羽根も派手に蹴っ散らかされていたが、これはなんとか原型を保っていた。私はそこらの枝を使い、羽根の下の地面をほじくってみた。しばらくは何も出なかったが、やがて一つ丸っこい物体がコロンと出た。マルコブスジコガネだ。この場所の近辺に限り多いが、全国的にはなかなか見られない珍種である。さらに掘ると、死骸ながらもう一個体出た。つまり、シャトル羽根でコブスジコガネが誘引できたということだ!

 ただ、仕掛けた羽毛量から考えたら、もう少しは来ていても良かったと思う。そこから遠くない場所で、獣に食い荒らされて朽ちていた本物のサギの死体には、遥かに数多くのコブスジコガネ類が集結していたから。ケラチンを餌にする虫とはいえ、ケラチンのみならず腐肉が付随した方が、成績がよいということだろうか。

 今回の試みは、半分成功半分失敗といったところだった。毛髪と爪がどっかに行ってしまったため、これらがどれ程の誘引効果を持っていたのかを検証できなかったのは残念だ。また、シャトル羽根にしても、求める虫の生息の確実な場所でやった故の成果かもしれないので、いずれ行きずりの適当な林でやって同様の成果が得られるかが課題である。そのためには、また妻に羽根折れシャトルを無心せねばなるまい。そして、また二年かけて爪を集めなおさねばなるまい……。

大木の根元に仕掛けて置いたはずの神器は、全てその場から見当たらなくなっていた
朽ちたシャトル羽根の傍に来ていたマルコブスジコガネ(白い矢印の先。写真をクリックすると画像が拡大します)
繁殖が終わり、サギ類の出払った林。地面に点々と、羽毛と骨だけになったサギの残骸が散らばる
小松 貴

こまつ・たかし 1982年神奈川県生まれ。九州大学熱帯農学研究センターを経て、現在はフリーの昆虫学者として活動。『怪虫ざんまい―昆虫学者は今日も挙動不審』『昆虫学者はやめられない─裏山の奇人、徘徊の記』(ともに新潮社)など、著作多数。

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