【連載】トイレ事情を歩く◎石川未紀(世界共通トイレをめざす会) 第16回 /トイレの共通仕様は可能か? トイレットペーパーと流すボタン位置編 

第16回/トイレの共通仕様は可能か? トイレットペーパーと流すボタン位置編

 古今東西のトイレを調べたり、学んだりしていると、つくづくトイレはそれぞれの国や地域の文化を表す「装置」だと感じます。そして私は、できるならその多様性を残してほしいと願っています。 

 それでもなお、公共性の高い場所のトイレは共通仕様であってほしいと考える原点には、全盲の娘の存在があります。しかし、それだけではありません。共通仕様のトイレが、私のため、ひいては世の中の多くの人のためになると思うからです。 

 例えば、空港や駅のトイレ――。旅の緊張や慣れない食事の影響で、トイレに行きたくなる人もいるでしょう。飛行機は離発着時にトイレを使用できませんし、そもそもトイレが設置されていない電車もあります。急いで駆け込んだトイレが初めて遭遇するタイプのトイレで使い方が分からなかったら……? 

 私だったら慌てると思います。こういう場合には、深く悩まずともさっと用を足せるトイレであってほしいと誰もが願うでしょう。 

 実は、大便器まわりの操作系設備配置等の共通ルールとして、2007年3月に「JIS S 0026」が設けられています(「高齢者・障害者配慮設計指針」)。 

「JIS S 0026」による配置の基本的な考え方
※一般社団法人日本レストルーム工業会のホームページより

 一般社団法人日本レストルーム工業会のホームページによれば、「JIS S 0026」の規格の概要は、「紙巻器・便器洗浄ボタン・呼出しボタンは大便器の左右いずれか一方の壁にまとめて配置し、紙巻器の真上に便器洗浄ボタン、その水平後方に呼出しボタンを配置する」となっています。 
https://www.sanitary-net.com/trend/rules_for_public_restroom.html

 国土交通省や経済産業省のホームページでは、さらに「ボタン類の色使いには、見つけやすいよう周囲とのコントラストに配慮し、非常呼出しボタンには(赤色等)その役割が伝わりやすい色を採用すること」などと記されています。これらを基にISO(国際標準化機構)の規格が2015年に定められています(ISO 19026)。 

 このJIS規格は、バリアフリー法(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律。2006年施行)に基づく各種ガイドラインで参照されており、 さらに、2021年3月の改正では、一般トイレの整備内容も「JISに基づく配置が望ましい」から「JISに基づくものとする」へと、より踏み込んだ表現に変更されました。 

 それなら、私などが「世界共通仕様のトイレを」と叫ばなくてもいいのでは?と思われるかもしれませんが、そう単純な話でもないようです。実際、街なかでこの規格に沿ったトイレを見かけることは、まだ多くありません。 

街中のトイレ。JIS規格に沿った配置の並びは、左下のみ

 実は、バリアフリー法の適合義務が発生するのは、学校や病院、劇場、百貨店など多くの人々が集う特別特定建築物のうち床面積が2000m²以上の施設で、そのほかの建築物については努力義務にとどまり、罰則もありません。そのため、ガイドラインで示された仕様を導入するかどうかは、設置する側(施主や設計・施工者等)の判断に任されます。 

 既存のトイレのスタイルがバラバラなのは致し方ない部分があるとして、残念なのは、新しく作られるトイレでも、この基準に沿っていないケースが多いことです。配管や設計上、あるいはコストの関係でJIS規格に沿うことが難しい、というわけではなさそうなトイレも頻繁に遭遇します。 

 JIS規格に沿ったトイレ設置の〝義務〟はないとしても、イベント会場や日ごろ多くの人が集まる商業施設のビルなどは、奇抜なデザインや奢侈な装飾を施したトイレだけでなく、誰もが迷わず使えるトイレの設置を最優先に考えてほしいと切に願います。 

 とは言え、着実に進んでいるケースもあります。 
 2010年に東京国際空港(羽田空港)に開業した国際線旅客ターミナル(現・第3ターミナル)では、多機能トイレはもちろん一般のトイレにもJIS規格に準拠した仕様が用いられました。 
 東京国際空港ターミナル株式会社は新ターミナルの建設に当たり、「どこでも、誰でも、自由に、使いやすい」施設を目指し、計画段階から「ユニバーサルデザイン検討委員会」を設置。有識者や障害者をはじめ、国交省や大田区、鉄道事業者、航空事業者が、4年間にわたりワークショップを重ねて検討したそうで、誰もが使いやすいトイレになっています。ちなみにこの施設は2015年に、内閣官房が優れたトイレを表彰する「日本トイレ大賞」で「国土交通大臣賞」を受賞しました。 

羽田空港国際線旅客ターミナル(現・第3ターミナル)の多機能トイレ 

 世界中の人々が集う国際空港ですから、使いやすい共通仕様のトイレのメリットは大きいはずです。これらのJIS規格、ISO規格を知り、そして、これらの規格が「〇〇では採用されている」と分かれば、もっと安心して出かけられるのではないでしょうか。 

 次回は、「トイレの共通仕様は可能か? トイレの扉編」をお送りします。 

石川未紀

いしかわ・みき 出版社勤務を経て、フリーライター&編集者。社会福祉士。重度重複障害がある次女との外出を妨げるトイレの悩みを解消したい。また、障害の有無にかかわらず、すべての人がトイレのために外出をためらわない社会の実現をめざして、2023年「世界共通トイレをめざす会」を一人で立ち上げる。現在、協力してくれる仲間とともに、年間100以上のトイレをめぐり、世界のトイレを調査中。 著書に『私たちは動物とどう向き合えばいいのか』(論創社)。

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