【フォトエッセイ】草木を訪ねて三千里◎藤井義晴――第32回/馬がつく植物と毒の関係を探る

第32回  馬がつく植物と毒の関係を探る

 午年にちなんで、馬の名前がつく植物を取り上げてみます。毒草が多いという感想を持たれるかもしれません。 

 ウマノアシガタ(馬の足形)は、キンポウゲ科で、葉の形が馬の足の裏の形に似ていることが由来のようです。馬や牛の放牧地では、牧場一面に黄色い花が咲いていることがありますが、それはウマノアシガタが毒草で、馬や牛が食べ残すからです。葉の汁にはプロトアネモニンという物質が含まれていて、皮膚や粘膜につくと、水ぶくれや発疹を引き起こします。 

 若いとき、アメリカ合衆国のオクラホマ州立大学で客員研究員をしていました。オクラホマ州は馬と牛を合わせた数が人間以上といわれ、至る所に牧場があります。そこではウマノアシガタに近縁のバターカップ(和名はキンポウゲ=金鳳花)の黄色い花が咲いてきれいでした。花畑は人間が作ったのではなく、馬や牛が食べ残したものだったのです。  

ウマノアシガタの花(5月上旬) 
バターカップ。和名はキンポウゲ(5月中旬)

 ヘクソカズラ(屁糞葛)は別名「馬食わず」。茎葉に悪臭のメチルメルカプタンとペデロサイドが含まれています。オナラやウンチの匂いだといわれますが、それほど強烈ではありません。昔の日本人は雑穀や野菜が主食で、肉を食べなかったので、それほど臭くなかったからでしょう。ヘクソカズラの成分には虫を寄せ付けない作用があり、虫から身体を守っています。 

ヘクソカズラの花(9月中旬)
ヘクソカズラの果実(10月中旬)

 ウマノスズクサ(馬の鈴草)は、東北地方以南の日本全域と、中国の中南部に分布している在来植物です。葉の形が馬の顔に似ており、花が馬の首につける鈴に似ているので名付けられたようです。葉は柔らかくおいしそうですが、虫食いの葉はほとんど見られません。植物全体にアリストロキア酸という毒成分を含み、虫や病原菌に強いためです。 
 しかし、ジャコウアゲハの幼虫はウマノスズクサを好んで食べます。毒成分を体内に貯め、全身が有毒となることで身を守ります。幼虫は派手な色をしており、自分に毒があることをアピールしています。棒でつつくと頭から角を出し、ヘンな匂いを放ちます。 

ウマノスズクサの葉(7月中旬) 
ウマノスズクサの花
ジャコウアゲハの幼虫
ウマノスズクサの葉をもりもり食べる 

 アセビ(馬酔木)は、葉に有毒成分が含まれ、馬が葉を食べると酔ったようになることから、その名がつけられました。この名は1300年前の『万葉集』でも詠まれ、大伴家持は、 

池水に影さへ見えて咲きにほふ 馬酔木[あしび]の花を袖に扱入[こき]れな

(巻20・4512)

と詠んでいます。池の水面に影を映し、良い匂いを放っている馬酔木の花を集め、袖に入れて、ほのかに香る匂いを楽しんだのでしょう。 
 芭蕉の句に「道の辺の木槿[むくげ]は馬に喰はれけり」がありますが、本歌どりした私の一句「道の辺の馬酔木は馬に喰はれずに」はどうでしょうか(お粗末でした)。 

白い花が咲くアセビの木(3月下旬)
アセビの花

 アセビの有毒成分はアセボトキシンといい、名古屋大学の平田義正教授らのグループが発見したので、日本語を元に命名されています。 
 かつて日本の天然物化学の研究は世界一で、多くの天然物質に日本語由来の名前が付けられました。しかし最近は、中国やアメリカがこの分野に多額の研究資金を投入、世界をリードしています。日本では大学や国公立研究所の予算が削減され、研究室自体が減っている事態が起きています。 
 私は農水省の農業環境技術研究所の他感物質研究室に所属し、三十年間に約四十種類の他感物質を発見、そのうち二種は新規物質だったので、学名にちなんだ名前を付け、特許も取得しました。しかしこの研究室も廃止されてしまいました。大学を退官後、自宅の近くに築50年の廃屋を買い、「他感作用研究所」と名付けました。今のところ研究員は私ひとりだけ。分析機器も研究費もないので、雑草の栽培と白昼夢にふける毎日です。 

 コマクサ(駒草)は、花の形が駒(馬)の顔に似ていることから名付けられました。花はピンク色で、可憐で上品な姿から、高山植物の女王と呼ばれます。しかしケシ科で、ケシの麻薬成分であるモルヒネに似たプロトピンなどのアルカロイドを含み、葉を食べると、呼吸麻痺・心臓麻痺を起こす危険な植物です。しかし、天然記念物のウスバキチョウの幼虫はコマクサを食草にしています。 
 コマクサの近縁のムラサキケマン(紫華鬘)もプロトピンを含む毒草で、全国各地に雑草として生えています。写真は府中市の東京農工大構内で写したものです。4月に咲き、春の訪れを教えてくれます。ムラサキケマンはウスバシロチョウの幼虫の食草になります。ケシ科植物の葉の乳液は有毒ですが、アゲハチョウの仲間はうまく利用しているようです。 

コマクサの花(6月上旬)
ムラサキケマンの花(4月上旬)

 オシダ(雄羊歯)は、その根が生薬の「綿馬[めんま]」になるので、植物名もメンマとも呼ばれます。根と葉柄基部に強い駆虫成分が含まれています。多量に食べると痙攣をおこし、失明したり、最悪の場合は1時間で死亡することもある強い毒草です。 
 ラーメンに入れるメンマ(麺麻)はオシダの根ではなく、麻竹[まちく]というタケノコから作ったものなので食べても安心です。日本ではシナチク(支那竹)と呼んでいましたが、「シナ」の使用を嫌悪する中国からの抗議を受け、麺にのせる麻竹なのでメンマと言い換えたということです。中国や台湾で食べる本場のラーメンにはメンマが入っていたことがないので、日本発祥のものだったと知りました。 

オシダ(4月下旬、筑波植物園)

 名前に馬がつく植物は毒草ばかりという印象を持たれるかもしれませんが、ぜんぶではありませんから、ご安心を。 
 ウマゴヤシ(馬肥)、マテバシイ(馬刀葉椎)、ウマスギゴケ(馬杉苔)、コマツナギ(駒繋)などは毒草ではありません。ウマゴヤシとコマツナギの葉は馬が好んで食べる植物です。バレイショ(馬鈴薯)も、芽に含まれるソラニンは毒ですが、調理加工して重要な食べ物になっています。 

 今年は六十年に一度巡ってくる丙午[ひのえうま]。江戸時代から、この年生まれの女性は気性が激しく、夫の命を縮めるという迷信があり、丙午の年は出生率が減りました。前回の1966年には前年と比べ25%も減少、約136万人となり話題になりました。しかし、日本の出生率はその後どんどん減少し、昨年は67万人となっています。 
 小学生のころ、祖母に「人間は何のために生きるのですか」と尋ねたことがあります。祖母は、「結婚して子どもを生み育て、馬や牛にも踏まれないようになるまで大きくすること」と教えてくれました。祖母には孫が20人以上おり、にぎやかで楽しそうでした。 
 子どもを産むカップルが増え、いろいろな研究が再び盛んになり、将来に希望を抱ける国になることを私は願っています。 

藤井義晴
モロッコのワルザザード渓谷で

ふじい・よしはる 1955年兵庫県生まれ。博士(農学)。東京農工大学名誉教授。鯉渕学園農業栄養専門学校教授。2009年、植物のアレロパシー研究で文部科学大臣表彰科学技術賞受賞。『植物たちの静かな戦い』(化学同人)ほか著書多数。 

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