【連載】トイレ事情を歩く◎石川未紀(世界共通トイレをめざす会) 第15回 特別編/インタビュー 関野吉晴さん 

第15回 特別編インタビュー 関野吉晴さん 
初監督作品、映画『うんこと死体の復権』についてお聞きします 

医師であり、人力のみで世界を旅する探検家でもある関野吉晴さんが、映画監督に初挑戦した。テーマは「うんこと死体」。ふだんから忌避されがちなテーマに光を当てた関野さんに、その理由を聞いた。「うんこ」と向き合えば、自然とのあるべき向き合い方も見えてくる――? 

映画『うんこと死体の復権』のポスター

――『うんこと死体の復権』……衝撃的なタイトルですが、なぜ「うんこと死体」に着眼したのでしょうか? 

 僕は医師として、また探検家として活動しながら、いろいろなことに挑戦してきました。それらはすべて、僕の中では一本の線でつながっています。その根っこにあるのが、アマゾンの先住民たちの生き方です。 
 アマゾンで暮らすマチゲンガ族やヤノマミ族の人たちとは五十年以上の付き合いになりますが、彼らは自然の中で暮らしていて、バナナの皮や敷物、壊れた弓矢など、生活で出るゴミはヤシの葉で作った箒で掃き集めて森に捨てに行きます。うんこも森でしています。人間の死体は土葬や魚葬にします。そこでは、生活ゴミや排泄物だけでなく、人間も野生動物もすべてが自然に還ります。 
 この映画では、そんな循環の視点から「うんこと死体」を見つめています。登場するのは、半世紀にわたって「野糞」を続ける糞土師の伊沢正名さん、うんこから生き物と自然のリンクを考察する生態学者の高槻成紀さん、死体喰いの生き物たちを観察し続ける絵本作家の舘野鴻さん。彼らの活動を通して「持続可能な未来」のヒントを探っています。 

『うんこになって考える』 伊沢正名 著

――映画では、土中でうんこが変化していく様子を伊沢さんと観察されていましたね。 

 彼はもともと菌類やコケ類などの植物の写真家でしたが、写真を撮りながら被写体、あるいは自然に対して、何かお返し出来ているのだろうかと考えるようになったそうです。そこで始めたのが「野糞」です。当初は「ばい菌をばらまいている」と非難されたそうですが、今回の観察で、うんこはおおよそ三十日で完全に土に戻ることがわかり、自分がやってきたことに間違いはなかったと喜んでいます。においも二週間ほどで消えていきます。うんこは多くの虫や微生物によって分解され、土も豊かになっていきました。 
 彼は「自分が死んでも土葬されれば、命はつながっていく。そう考えると死も怖くなくなった」と語っていました。 

――土に還れば、自然の循環の輪に入ることができるという考え方ですね。 

 そうですね。今、よく言われているSDGsは素晴らしい考え方だと思いますが、ひとつ欠点があるとしたら、それは「人間中心的な発想」であることです。 
 チベットやネパールの仏教徒たちは日々、「生きとし生けるものすべてが幸せになりますように」と祈っています。そこには人間だけでなく、動物も植物も含めたすべてと共に生きるという姿勢があります。アメリカインディアンやアイヌ、日本の古い文化にもそのような考え方がありました。欧米人はこうしたアジア人の考え方を「遅れている」と捉えがちだけれども、僕はその視点こそが大切だと思っています。 

――関野さんは「地球永住計画」というプロジェクトを遂行中だとか。 

 はい。2015年から進めています。「火星移住計画」が話題になったころ、「おいおい、火星に移住している場合じゃないだろう」と思ったのがきっかけで始めました。 
 地球は太陽からちょうどよい距離にあり、人間が適温のもとで生きられる場所にあります。大気があるおかげで気温が安定し、水も液体のまま保たれています。太陽風が送り出す微粒子を弾き返しています。磁場がなかったら高等な生物は生まれなかったと言われています。まさに奇跡が重なって、私たちはこの地球で暮らすことができているのです。 
 ほかにも地球にあって火星にない大事なものは何だと思いますか? 
 それは土です。 
 岩石を砂のようになるまで砕いても、土にはならない。有機物が必要だ。そのため、海で生まれた生命が陸上に上がって死体やうんこがあってはじめて土ができたのです。 

――なるほど!  

 僕は東京生まれのシティボーイなんですが(笑)、都市で生活しているときは、完全に自然の循環の外にいます。エネルギーを得るため、ゴミ処理のため、とにかく燃焼によって二酸化炭素を出し続けているし、都市生活を送っている僕らは地球にとって役に立つことを何もしていない。そう考えると、人間がいちばんの「害獣」かもしれません。 
 それでも、人間なんて滅んだほうがいい、とはなりませんね。やはり僕だって生きたい。 
 ただ、自分たちこそが害獣かもしれないという謙虚な姿勢で、自然とどう向き合って生きていけばいいのか、考える必要があると思います。 

――そうした考えは、自分たちの生き方を見つめなおすことにもつながりますね。 

 ええ。ただ、うんこが土を豊かにするからといって、都市で暮らす人が、勝手に「野糞」をしてはダメです。法律的には私有地であれば問題ありませんが、近隣への配慮が必要で、隣家との距離も考慮しなければなりません。糞土師の伊沢さんは、自分が持っている山(私有地)で「野糞」をしていて、おしりを拭く植物も栽培しています。 

――例えばですが、災害地でトイレが使えない場合など、私有地の裏山などに「野糞」をするのは、選択肢の一つになるかもしれませんね。 

 そうですね。大切なのは「作法」。まず、穴を掘ってそこにします。においが漏れないくらいに土をかけて、三本の割り箸または小枝を三角に組みます。その中央に割り箸などで日付を書いて挿しておく。こうしておけば、誰かが間違えて踏みつけてしまうのを回避できますし、三十日経ったら、またそこですることもできます。映画では10センチほどの穴を掘っていますが、実際にはもう少し浅めのほうが分解が早くなります。 
 自然界の報道写真家として活動する宮崎学さんは、実際に、2メートル×2メートルの土地で実際に野糞してます。端からはじめて、少しずつずらして排便するそうです。365日目に排便する頃には、最初の排便の8割以上は土になっているそうです。持続可能な排便ですね。 
 今回の映画では「尿」については触れませんでしたが、尿は便と違って大腸菌などの菌はいません。しかし、アンモニア臭が残りますので、人の生活している近くではしないほうが賢明です。 

――関野さんは医師でもありますが、「野糞」をするにあたって、医師の視点からの注意点はありますか? 

 赤痢などの感染症にかかっている人は、野糞をしてはいけません。感染症拡大の恐れがありますから。抗生剤などの薬を飲んでいる人は、分解が遅くなる可能性があります。 
 便は人間の健康のバロメーターで、だれだって、いいうんこが出たら気分が良い。「便は土を豊かにする」という視点で考えれば、野糞もそういううんこがいいんです。健康なうんこは土に還りやすく、土壌も豊かにするわけです。 
 僕たちは、人間が地球の環境をコントロールしているかのように錯覚しがちです。先にも話しましたが、もっと謙虚にこの地球と向き合っていく姿勢が必要だと思っています。映画を通し、「うんこと死体」を見つめることによって、今一度、私たち現代人の生活を問い直してほしいと思っています。糞土師の伊沢さんのような生き方や、アマゾンで暮らす人たちから学ぶこともたくさんあります。 
『うんこと死体の復権』はなんと、文部科学省選定の映画です! これからも各地で上映する予定ですので、ぜひご覧になってください!  

★『うんこと死体の復権』映画上映最新情報はこちら 
 
★「地球永住計画 公式ウェブサイト」はこちら
関野吉晴

せきの・よしはる  1949年東京都生まれ。探検家、医師。武蔵野美術大学名誉教授(文化人類学)。一橋大学在学中に探検部を創設。1971年アマゾン全域を下る。以後 25年間、通算10年以上、南米への旅を重ね、狩猟採集民と生活を共にする。1982年横浜市立大学医学部卒業。1993年から2002年にかけて、アフリカに誕生した人類がユーラシア大陸を通ってアメリカ大陸にまで拡散していった約5万3千キロの行程を自らの脚力と腕力だけをたよりに遡行する旅「グレートジャーニー」を、また2004年から2011年には、人類が日本列島にやってきた複数のルートをたどる「新グレートジャーニー」を踏破した。1999年植村直己冒険賞を受賞。近著に人類学者・山極寿一氏との対話集『人類は何を失いつつあるのか』(朝日文庫)があるほか、著書・共著多数。 

石川未紀

いしかわ・みき 出版社勤務を経て、フリーライター&編集者。社会福祉士。重度重複障害がある次女との外出を妨げるトイレの悩みを解消したい。また、障害の有無にかかわらず、すべての人がトイレのために外出をためらわない社会の実現をめざして、2023年「世界共通トイレをめざす会」を一人で立ち上げる。現在、協力してくれる仲間とともに、年間100以上のトイレをめぐり、世界のトイレを調査中。 著書に『私たちは動物とどう向き合えばいいのか』(論創社)。

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