【連載】トイレ事情を歩く◎石川未紀(世界共通トイレをめざす会) 第17回 /トイレの共通仕様は可能か? トイレのドア編

第17回/トイレの共通仕様は可能か? トイレのドア編

 公共トイレの鍵やドアの開け方は、場所によって少しずつ異なります。 
 もし、誰にとっても直感的に使い方がわかる「共通仕様」のトイレがあったら――。 
 先日、そんなことを考えさせられた出来事がありました。 

 公園のトイレで、小学生がドアの開け方がわからなくなり、個室から出られなくなっていたのです。子どもの「開かない! 助けて!」の声に、近くにいた大人が気づき声をかけ、なんとか自力で開けて出てきましたが、その子の頬は真っ赤で、汗もびっしょりかいていました。 

 焦れば、大人でも起こり得ることです。 

公共のトイレの存在はありがたいが……

 公共性の高いトイレは、ある程度仕様を共通化し、誰にでもわかるようにしてほしい、そう強く思った出来事でした。 

 今回は、一般トイレとバリアフリートイレの鍵とドアの形態について考えていきたいと思います。 

 一般トイレのドアの鍵は、学校などでなじみ深い横スライド式が多く採用されています。最近では、内側からつまみを軽く回転させて施解錠できるタイプ(打掛錠)も見かけます。握力の弱い方や麻痺がある方でも使いやすくなっています。視覚障害の方も、その方式さえ理解できれば迷うことは少ないようです。  

公共トイレで多く使用されているスライド式の鍵。鍵が二ヵ所あるトイレもある
打掛錠タイプの鍵

 内開きか外開きのドアが多く、ベビーカーなども一緒に入れる広めのトイレにはスライド式のドアも見かけます。利用者へのヒアリングをすると、ドアの形態にはそれぞれ一長一短がありました。 
 内開きのドアは、開閉時に個室内が狭くなるため、大きな荷物を持っている人や乳幼児連れには不便です。一方、外開きのドアは、開ける際に通路を通る人に接触する危険性があります。また、常に閉まった状態になるため、外から使用中かどうかがわかりにくいという声もあり、どちらが良いか一概には言えない難しさがあります。 

 前回、東京国際空港(羽田空港)の国際線旅客ターミナル(現・第3ターミナル)のトイレを紹介しましたが、ここの一般トイレのドアは、なんと「折れ戸」でした。 
 初めて使ったときは「開閉に少しコツがいるかな」と思いましたが、ドア自体が軽く、何より個室内を広く使えます。スーツケースはもちろん、自走式車いすも入れる設計だそうです。 
 内開きのドアでこのスペースを確保するには広い面積が必要になりますが、折れ戸は省スペースを実現できる合理的な発想といえます。 
 大きな荷物を持った人、自立して移乗できる車いすユーザー、ベビーカーでお出かけ中の親子などが一般トイレを使えれば、バリアフリートイレの混雑を解消することができます。 
 さらに、ドアが開いているときは遠くからでも状況がわかるよう、色のコントラストも工夫されていました。 
 一般トイレも、ここまでできるのか!という印象を受けました。 

羽田空港第3ターミナルの一般トイレ。使用中か否かがわかりやすい

 次に、バリアフリートイレの鍵とドアについて――。 

 世界各国のトイレ事情を聞くと、東アジアでは、ドアの開閉はボタンによる電動式が多く採用されていますが、それ以外の地域では手動の鍵やドアが主流のようです。中東や東南アジアでは便器脇に洗浄用シャワーが設置されているトイレが多く、水濡れによる故障リスクを避けるため、電気系統の設置を控える傾向があるのかもしれません。 

シャワー付きのトイレ

 日本では、新設されるバリアフリートイレの多くがボタン式です。なかでも光るタイプは、車いすユーザーはもちろん、ロービジョンの方にもわかりやすいと好評です。 
 一方で、乳幼児連れの場合、親の使用中に子どもが光るボタンを面白がって押してしまうという「開放事故(あるいは未遂)」はよく聞く話です。 

 バリアフリートイレにおいては、排泄に困難を抱える人に寄り添う設計であることはもちろんですが、多くの施設に「共通仕様」を普及させるには、導入のしやすさも不可欠です。使い勝手の良さに加え、汚れにくい、壊れにくい、そしてローコストであることも重要な要素です。 

 公共トイレの中でも、先に紹介した東京国際空港のトイレは大人用ベッドを備えるなど最先端のユニバーサルデザインを誇ります。しかし、意外にも「多機能トイレ(バリアフリートイレ)」のドアは、手動のスライド式です。 
 その理由を尋ねると、停電や故障時のリスクに加え、次のような答えが返ってきました。 
「重度障害者の方が介助者同伴で利用する場合、介助者は移乗を手伝った後、一度外に出ることが多いのです。電動ドアだと、その都度、ドアが全開になり、中が丸見えになってしまいます」 

 なるほど、これは盲点でした。 

 ハイテク化が進む中で、あえてローテク(手動)を選ぶことが、実は細やかなプライバシー配慮につながっていたのです。 

 ちなみに、このドアは開閉の途中で止まる「フリーストップ機構」を備え、車いすの方や力の弱い方でも軽く扱えるよう工夫されています。 

 もちろんボタン式を好む人や必要とする人もいるでしょう。しかし、公共トイレにおいては、あらゆる状況を想定した上で、「落としどころ」をどこに見極めるか――。それもまた大切な視点ではないでしょうか。 

2025年大阪万博のバリアフリートイレも手動式ドアを取り入れていた

「だれもが迷うことなく、安全に使える」——。まずは、その考え方を共有することが、現実的な共通化への第一歩だと思います。 

 これは、「特別な配慮」ではなく、公共性の基本だと考えますが、皆さんはどう思われますか? 

 次回は車いすユーザーのトイレの困難について、ヒアリングをもとに書いてまいります! 

石川未紀

いしかわ・みき 出版社勤務を経て、フリーライター&編集者。社会福祉士。重度重複障害がある次女との外出を妨げるトイレの悩みを解消したい。また、障害の有無にかかわらず、すべての人がトイレのために外出をためらわない社会の実現をめざして、2023年「世界共通トイレをめざす会」を一人で立ち上げる。現在、協力してくれる仲間とともに、年間100以上のトイレをめぐり、世界のトイレを調査中。 著書に『私たちは動物とどう向き合えばいいのか』(論創社)。

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