第19回/車いすユーザーのトイレの困りごと ―その2―
前回に続き、「車いすでトイレに入ること」について、皆さんと考えてみたいと思います。
若かりし頃、私は、病院で自走式の車いすを使用しました。当時、腕力はあったもののうまくエレベーターに乗りこめず、途中であきらめた、という経験があります。意外と「運転」は難しいのです。

想像力を持つことは大事ですが、それだけでは、やはり限界があります。
そこで、介護福祉士で自身も介護経験があるという栗原佳世さんに話を聞いたところ、次のような指摘をいただきました。
・バリアフリートイレは圧倒的に数が少ない。一人に時間がかかるから、待ち時間も長い。ここしか使えない人にとっては切実
・時折見かける片側だけの手すりは、片麻痺の人には非常に使いづらい
・トイレまでのスロープは介護者がいることが前提。一人で上り下りするためにはアスリート並みの腕力と技術が必要
・折りたたみのベッドや子どものおむつ替えのシート、そして便座。これらは『元に戻す』のが鉄則。 車いすの方にとっては、スペースに入れなかったり、自分では戻せなかったりするので、まさに死活問題
・リクライニング車いす使用者で便座に座れる人にとって、背もたれは必須。介助する側にとっても大切
・トイレの床が濡れていれば、移乗の際に滑るリスクが倍増
たしかに、車いすでは、ひとつひとつが難儀なことになります。バリアフリートイレはハード面の課題のみならず、使う人のモラルも問われますね。

独自の聞き取りアンケートでは、バリアフリートイレは障害者手帳を持つ人専用にするなど、必要のない人は使えない仕組みを、という趣旨の話もありました。それも、もちろん一つの方法ですが、急な病気やケガで使う必要が生じる場合もあるでしょう。
一方、オストメイトの方は見た目ではわからないため、バリアフリートイレから出てくるとき、気まずい思いをされるという話も聞きます。
私自身は、制度や決まりを作るのではなく、バリアフリートイレを使う必要があるかどうかは、それぞれの人が判断してほしい。

そう願うのは、きれいごとすぎるでしょうか?
ルールで縛る前に、まずは「お互いの事情」を知ることから始めたいのです。
最近では、小さな子どもやベビーカーが入れる大きめの一般トイレも増えています。普通トイレの広めの個室の一部にはオストメイトに対応しているところもあります。
できれば、並ぶ前にわかりやすく表示してくれれば、そこを利用しようという人も多いのではないでしょうか。提供側がうまく分散使用を促せれば、本当に必要な人が待つことなくバリアフリートイレを使用できると思います。もちろん、私たち使う側のモラルや意識も問われていると思います。
「世界に誇れる日本のトイレ」はハード面だけでなく、使う側のモラルとセットであってほしいと願います。

さて、ここで「誰もが自由に行き先を選べる社会」を目指し、車いすでの外出を支援している「一般社団法人Ayumi」を紹介したいと思います。 2021年に山口広登さんが設立しました。
山口さんは、車いすユーザーの従兄弟との旅行をきっかけに、ハード面、ソフト面でのバリアを感じ、その事情をより具体的に知りたいと考え、聞き取り調査に加えて、なんと四ヵ月間、自らも車いす生活を経験したと言います。
トイレに特化したわけではありませんが、「Ayumi」が運営するサイトでは、実際に車いすの方と歩きながらバリアフリー情報を検証しており、動画も多数公開しています。

車いす利用者への情報提供の一方、Ayumiでは福祉サービスの提供側にも、合理的配慮や心のバリアフリー向上を目的としたセミナーの実施や、当事者視点で店舗のバリア状況を正しく伝えるための撮影マニュアルの配布など、情報格差の解消や事業者と当事者のマッチングを進めています。
車いすユーザーの方が「仕方ない」「申し訳ない」「迷惑がかかる」と、問い合わせをすることに二の足を踏むという現実があることを踏まえつつ、まずは「対話」をためらわない空気を作っていきたいという想いにも共感します。
車いすでトイレに入ることにどんな困難があるのかに加え、その解決のヒントも見えてくるので、一度アクセスしてみてほしいと思います。
「一般社団法人Ayumi」バリアフリー情報サイト「ふらっと。」
団体主旨はこちら https://the-ayumi.jp/ja/
バリアフリー情報はこちら https://the-ayumi.jp/ja/media/

いしかわ・みき 出版社勤務を経て、フリーライター&編集者。社会福祉士。重度重複障害がある次女との外出を妨げるトイレの悩みを解消したい。また、障害の有無にかかわらず、すべての人がトイレのために外出をためらわない社会の実現をめざして、2023年「世界共通トイレをめざす会」を一人で立ち上げる。現在、協力してくれる仲間とともに、年間100以上のトイレをめぐり、世界のトイレを調査中。 著書に『私たちは動物とどう向き合えばいいのか』(論創社)。

