第20回/バリアフリートイレは誰が使う? 使い手のモラルを考える その1
今回は、バリアフリートイレの使い手のモラルについて考えてみます。
バリアフリートイレを一時「だれでもトイレ」と呼称したことで、多くの人が「自分も使っていいんだ」と感じたはずです。私は、時と場合によっては、いわゆる「健常者」も使っていいと思っています。しかし、その「だれでも」という言葉が、本来最優先されるべき人たちがいることを希薄にさせてしまった側面があるのも否定できません。

先日、休日のJR大宮駅でこんな光景を見ました。
普通トイレは休日とあって長蛇の列――。そこで10人ほどの団体旅行者がバリアフリートイレをかわるがわる利用していました。旅行用のカバンをドアの前に置いて、「こっち、こっち」と手招きして、独占しています。周囲の冷ややかな視線もどこ吹く風。さすがにこれはよくないよ、と多くの人が思ったに違いありません。
こんな困った人たちを回避できそうなトイレを見つけました。
一つはインターホン方式のトイレです。秋葉原駅などはバリアフリートイレの前にインターホンがあり、押すと駅員さんが遠隔操作で開けてくれます。車いすユーザーの人曰く、スムーズに入ることができるそう。

もう一つはあるイベント会場にありました。子ども向けのショーが開かれていたので、開演前や休憩時間は親子連れでトイレもごった返します。普通トイレの個室は便座前に少しスペースがあり、乳幼児連れでも入れます。そこで運営側はバリアフリートイレ前にテープを張り、「必要な方は近くの係員にお声掛けください」と貼り紙をしていました。
なるほど、これは「今、自分は本当にバリアフリートイレが必要か」と思いめぐらすきっかけとなり、いいアイデアだと思います。
現在は、バリアフリートイレの前に「車いすの方、障害者の方、高齢者の方、妊婦の方、乳幼児・ベビーカー連れ、オストメイト等の方優先」と文字やピクトグラムで表示されていますが、私はこのような人たちの中にも優先順位があると思っています。
最も優先されるのは、介助が不可欠な車いすユーザーの方や、重度であっても自立して単独で車いすで移動されている方など、バリアフリートイレ以外の選択肢がない方たちです。
一方、自戒を込めて言えば、私と次女の場合、次女は重度障害ではあるものの、歩行は可能。だから、個室スペースが広めのトイレであれば必ずしもバリアフリーでなくても使用可能です。同様に個室が広めのトイレなら、妊婦さんやキャリーバッグを持っている人、着替えたい人や乳幼児連れでも使用できるでしょう。ベビーカーを使っている人も、子どもは一人か複数か、保護者も一人か複数か、で使用する優先度は変化すると思います。
そして、このような人たちがどれだけ譲り合いの気持ちを持てるかが、多くの人がバリアフリートイレを気持ちよく使えるか否かにかかっているのではないでしょうか。
使ってはいけないというのではありません。ただ、このような立場の人たちが一瞬立ち止まって、「今、本当に必要かな?」あるいは「先にこの人に譲ったほうがいいかな」と考える。この行為は無駄ではないはずです。差し迫った状況でないならば、「突然さしこみがきて切羽詰まっている健常者」に譲ってもいい、いや、譲ってあげてほしいと私は思っています。
障害など、より困難を抱えている人が最優先であることは間違いないバリアフリートイレですが、トイレ利用の問題などできちんとルールを作ると、逆に齟齬が生じ、「使える」「使えない」といった困った事態を引き起こしかねません。 だからこそ人々のモラルが大切なのです。
バリアフリートイレが、冒頭で紹介した大宮駅のケースのように不適切に使われることがないよう、国土交通省が広報に努めることはもちろん大事です。分散使用を進めている施設では、積極的に普通トイレの中にも「子どもと入れるトイレあり」「着替えができるスペースあり」「オストメイト対応」などと明記してほしい。


そのうえで、今、本当にバリアフリートイレを使う必要があるかどうかは、その人自身が決めてほしいと思います。
ただし、バリアフリートイレでなければ用をたせない誰かがすぐに来るかもしれないという想像力は大切です。快適だからといって、長居は禁物です。

いしかわ・みき 出版社勤務を経て、フリーライター&編集者。社会福祉士。重度重複障害がある次女との外出を妨げるトイレの悩みを解消したい。また、障害の有無にかかわらず、すべての人がトイレのために外出をためらわない社会の実現をめざして、2023年「世界共通トイレをめざす会」を一人で立ち上げる。現在、協力してくれる仲間とともに、年間100以上のトイレをめぐり、世界のトイレを調査中。 著書に『私たちは動物とどう向き合えばいいのか』(論創社)。

