第10回 キャンディの包み紙
煮詰めた砂糖を再結晶化させた菓子キャンディ(candy)の言葉の起源はインドにあるという。サトウキビの栽培と精糖技術を発展させたインドで、2000年以上前に水晶のような固形の砂糖を指していたと考えられているサンスクリットの言葉、サルカラ(sarkara)とカンダ(khanda)は、キャンディのインド起源説の由来となっている。
砂糖を溶かしたシロップをキャンディにするためには、煮詰めていく温度を100℃から150℃の間で保つ必要がある。高温で煮詰めて水分量が2%程度になったものは、ハードキャンディと呼ばれる固い飴になり、低温で煮詰めて水分量が6%以上になったものは、ソフトキャンディと呼ばれる柔らかい飴に仕上がる。菓子職人の工房で、あるいは工場で製造されたキャンディは、飴同士がいつまでもくっつかない状態にある工夫が不可欠である。その役割は、缶入りのドロップなどのハードキャンディでは粉末のオブラートが果たし、ソフトキャンディでは包み紙が果たしてきた。キャンディの包みに好適な紙として多く使われてきたのは、耐脂紙の一種であるグラシン紙である。
19世紀後半のヨーロッパで工業的な製造法が確立されたグラシン紙は、化学パルプを粘状叩解[こうかい]して抄造したのち、「スーパーカレンダー」と呼ばれる高圧ローラーで仕上げた薄葉紙の一種である。グラシン(glassine)と呼ばれている理由は、この紙がガラス状の光沢と透明性を持っていることに由来している。食品包装の用途ではパラフィンワックスをコーティングをしたものが多いので、パラフィン紙と呼ばれたりもする。国産のグラシン紙の製造は、昭和4(1929)年に王子製紙淀川工場で始められたのが嚆矢だという。
ここにある包み紙に包まれていたキャンディの色や形、味は謎めいていて、今はまぼろしであるのだが、包装紙の配色やデザイン、残された商品名やキャッチコピーには、なんとも言えない時の味わいを思うものがある。

〔参考文献〕
R・メイソン著、龍和子訳『キャンディと砂糖菓子の歴史物語』(原書房、2018年)
M・バッカー編、越山了一ほか訳『パッケージ大百科 普及版』(朝倉書店、2005年)
田山正雄「グラシンペーパーについて」『製紙工業』第9巻第10号(1960年10月)
【上ヶ島さんのキャンディの包み紙コレクション】
上ヶ島オサムさんのコレクションから秘蔵のキャンディの包み紙を紹介します。まぼろしの味を想像してみてはいかがでしょうか?(画像をクリックすると拡大表示されます)
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かみがしま・おさむ 紙物収集家。1957年北海道生まれ。東海大学工学部卒。著書に『レトロ包装シール・コレクション』(グラフィック社)、『絵はがきのなかの札幌』(北海道新聞社)、『さっぽろ燐寸ラベルグラフィティー』(亜璃西社)などがある。