【連載】投稿の広場◎マーサ・ナカムラ——第23回

「投稿の広場」は、詩の投稿を募り、その一部をご紹介するコーナーです。選者は詩のとびらの著者である詩人のマーサ・ナカムラさん。今回は2025年11月12日から12月12日の募集期間に投稿された二十七篇の中から選考を行い、全作品にマーサさんから講評をいただきました。 

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はだざさめ  あらいれいか 

誰もいないベンチに朝露が溜まり
おおきすぎる押し花をあさむ
私は渇いたサンダルと沖へ
怯えたりした、楕円の窓へ

おともなく あぶれゆく きのうへ

鉛灰色で。ふるい、
輪郭が しなびるはなびら
また父母の群れ
気嚢の域で
くちぐもるので
(飛び移り、促していく/にがく
(あかるいうちに。いくたびかの終奏を経て

呻きを纏ったシジマに膨張する.うるむ
肉づけする。/きよい さきゆく街の遠方
節が滲んでいる/くらい、くらい山

The neatly formed cirrus clouds
begin to shift into shapes
that seem to envelop themselves

覗き込んだ私をみつめ返す
葉の裏にひそむ撥音は
ゆっくりと肉体を忘れる
歯のうらにまで息がまた
剝いだ胚がまだ喋っている

薄くて青銅めいた凹凸に立ちのぼる峠は
払い戻したイノチをはやくちで煮沸して
うんだように しろい かぜのなか
折に触れてほどとおい、何かが揺れている
ボートでもブランコでもなかった
おれてしまいそうなそこに空回りする
拒んだまま光る群衆のクチバシたち
それきり黙って海をみつめた

ふながらす瞠るに焚く まなうらのロマ
ほんのわずか こじあける崖に色褪せて。
朔の抜け殻か、ゆびにふれる
無造作に ぱちりとしためめ
手をとるように通り濾して
潮騒になる 香炉をかざすと空転する
とけのこったシーケンスがさびしいのです

あの駅前の銀杏並木は直線を駆ける旅
せいを否定する落書きがどこかつらなり
濃淡は、ざらめの数をとり決め、ふるい
三つ足のユリカゴと称して、どうせ
眠りと腐敗のスキマに航路はある

苔が這い
(また半分あおぐ、)
蜃気楼より肉にちかく
あおざめた匂いがおる
soft bloom, under the lungwater
わたしがくみこまれる
まあるいすいそうを
おもいうかべる

冷房が止まった/さきよりまいを失い
わずかにくだり、ささやきあう
摑み掛る指先から踏み外し、足を運ぶ
草地に縛り上げた聖域は、きっと双翼
眼前にひとつまみ尖り〝うわずり〟
舌の根に値を張るお鰭をのばすだけで
とおりの部屋に落ちたしたのうえで
梯子でもかけて抱く 膚囁わたし
またおとずれる そおっとして おいて

Drifted subtlyやあらかによりずいた
Turning the scattered earth in my palmsあちこちのつちを ぁらへ
Pulling at reborn threads of skyうまれかわる かみをひき
A spark unfolds as I fold themてのひらで かえすと ひらめく
Spilling exaltingこぼれて たたえて
The silent weft hesitatesやんだ横糸は ためらいがある

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きず  アリサカ・ユキ

六等星が
きょうは見えない
たった
ひとりぼっち
体の鈴が
しゃりんしゃりん
と鳴る
口の中の
舌のように
存在を意識する
何もない
はずの
空間
人気のない
長い地下道

本棚や
テーブルや
全身鏡たち
あさ
くっきりと見える
新品を
やめて久しい
ぐるぐると
風景は回る
あなたとの
食事の席
道路を
ぼやけさせる
ガラスの
向こうのもや
命の色をした目を
あなたと交わす
籐の籠に
満たされた
真綿
それぞれが古くなり
黄色くなっている
取り替えないままに
渡してしまって
熱で
すべらか
になった
重い
溶けて
いちばん底にある
特別な
なにか
違うものになり
スマホが
定刻を告げる
歩く人や車や信号機や
自分というもの
避けながら
会社へ行く

うさぎの星座が
オオカミの星座より
小さい
よる
あなたに
どこかにやった?
と聞く
梨を
剝いてくれて
それを
渡される
塩水に
漬けるやり方が
好きではなかった
くだりとあがり
列車の二重音
その瞬間
あなたは
靴を磨き始める
背中が
がしっがしっ
と動く
イーゼルの画布は
固定したまま
三年間
太陽の同格として
月はあったが
消える日がある

部品の全てが
起動する
理由であり
部品の一つでも
失くすと
起動しなくなる
道の両端から
伸びる木
枝が
空を
覆っていた
隙間から
太陽が
こぼれる
錯綜する鼓動
記憶
ふたたびは
甦れない
不死鳥
欠落した
なにか
わからない
なにか

強く
決心していた
小学生のとき
リコーダーを
忘れまいと
誰かのを
使いたくなかった
冷たい水で
引き締められた
レモン
荷物の大きな
おばあさん一人
階段を上がる
親子連れの
お父さんが
子ども抱っこ
登っていく
わたしは
あなたを見て
ほっとする

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昼間の月  まつりぺきん

上から
徐々に淡くなる
舞台照明の青
だった日

芒洋には小径のみ
スケッチブックを広げ
静止している人の

おじいさんかおばあさんかわからない
その人は
汚れた軍手のまま
鉛筆の先で
象牙色をした波を差す

秋だと思っていたものも
終わりは白く
臨界に舞う

あれはな芒やない萩や

無限遠直線の
陽射しが迫り
青だったものは
縦へ縦へと
群青に

エアシューターみたいやな
いや
逆か
その人はひとりごちて

幾重にも
風は風へ
カサカサと
音が揺れだした

芒洋には小径のみ
くしゃみのように
スケッチブックは畳まれて

もうここでいいからと影 指紋暮れ

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秋   井上正行

ほたるは
夏に火をつけて
死んでいった

生きたまま燃える日々は
雨が降ってもなお熱く
消し炭の奥底は
いつまでも
ほの明るい

今日も風は
カレンダーに張り付いた
記憶を揺らす

思い出は
ほこりとともに舞い
いつの間にか古びた
家具や食器を白く濡らした

雲はガラスを透かし
空の手が遠い山並みを
撫でる様子を
返りみて
ちぎれていく

けば立つ木々の心に
溜まる色は
少しずつこぼれて
道端を
赤や黄色に染めた

錆びつく街は
往来の足音におびえて
霧のカーテンに揺れ

朝を抱く
森は
空に根を張り

枯葉は風の中で
こぼれて

去っていく
季節を
私はベランダで
ひんやりと
見上げている

講評は次ページに続きます

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