第11回 サメサメキッズ学芸員との博物館づくり
「サメの顎は多くの水族館や博物館で展示されていますが、裏側から見ることができるのは、大抵の場合、巨大なメガロドンのレプリカや、ホホジロザメなど、大きな顎ばかりです。小さなサメであっても歯は生え変わるという特徴は変わりません。小さなサメの歯を裏側からじっくり観察できる展示があれば、僕は見てみたいと思います」
サメサメ・サメ博物館をつくるためのオンライン会議でそう話してくれたのは、Aさんだ。続いてBさんが発言する。
「私もサメの歯を裏側から見てみたいです。鏡とかを置くのではなくて、人が裏側に回って見られるようにするのがいいと思います」
サメを象徴する展示物の一つが、サメ顎の乾燥標本である。サメやエイを含む板鰓類[ばんさいるい]は、生きている間じゅう、歯が永遠に生え変わるという特徴がある。サメの顎標本を作ると、顎の裏の筋肉の下に、生え変わりを待つ歯が何層にもなっていることが見てとれる。あるサメの研究者によれば、サメの歯は一生の間に3万本以上が生え変わるという。


オンライン会議に参加しているメンバーに、「標本の裏に回ってみることができる展示がいいと思う人は手をあげてください」と問いかけたところ、満場一致だった。司会を務めるサメサメ・サメ博物館の研修生ヨッシーは、「では〝食べる〟をテーマにした展示コーナーでは、そのような棚を設けて、企画を進めたいと思います。今日はご参加くださり、ありがとうございました」と言って、会議を締め括った。
私はサメ好きが高じてシャークジャーナリストになり、更にサメ三昧の日々を送るため、2026年夏にサメに特化した博物施設をオープンさせる。しかしながら、博物館ってどうやって作ればいいの? 展示ってどうすれば効果的なの? という課題に日々直面している。
そんな私を助けてくれるのが、「サメサメキッズ学芸員」のみんなである。先月の記事では「サメサメキッズ・シロワニ調査隊」の活動をレポートした。今月は「サメサメキッズ学芸員」の活動について紹介したい。
サメサメキッズ学芸員の活動
まずは一般的な学芸員について説明する。学芸員は英語ではキュレーター(curator)と呼ばれ、博物館、美術館、科学館、動物園、水族館、植物園などの施設で働く専門の職業である。
学芸員になるためには、大学で所定の単位を履修した上で学芸員資格を取得することが条件となる。また、資格を取得するためには、座学以外に博物館での実習が必須となっており、学生自身が実習先の博物館を探すケースが多い。私も大学在学中に目黒寄生虫館に自ら申し込んで、2週間ほど博物館実習をさせてもらった経験がある。
主な学芸員の仕事は、①資料の収集・整理・保存(資料の管理)、②調査研究(展示資料の学術的調査)、③展示企画・設営(展覧会のテーマ決め、展示構成)、④教育普及(講演会、ワークショップ、解説の実施)だ。
サメサメキッズ学芸員は、私が主宰する「サメサメ倶楽部」に所属する小学生~中学生たちなのであるが、先のようなオンライン会議を毎週行い、③展示企画・設営(展覧会のテーマ決め、展示構成)についてディスカッションをしているのだ。

この日は、かつて病院のレントゲン室だった部屋を利用したサメ展示ルームの生態コーナーについてディスカッションを行った。標本の裏側を観察するために展示ケースを壁につけるのではなく、壁から離して設置することになった。展示ケースと壁の間は何センチの設計にすれば良いのかという問いに対して、サメサメキッズ学芸員はすぐに計測してくれた。
みんなの肩幅や親御さんの肩幅を測ってもらった結果、小学一年生くらいであれば幅は30~40cm、大人であれば60cmは必要という回答が導き出された。サメサメ・サメ博物館の展示は7歳ぐらいをメインターゲットとして設計することも決まった。
一般的に、イベントや展示を設計する際、ターゲット像をできる限り明確に設定することが推奨されている。サメサメ・サメ博物館の展示ルームでは7歳のヤンチャな男の子をターゲットとすることにした。
イメージとしては、新小学一年生で、東京から宮城県に遊びに来た。生き物やサメが好き。お盆休みにお祖父さんと一緒に来訪。少し飽きっぽくてよく喋る。体を動かすのが大好き。時間があれば海で泳いだり、釣りをする。五人兄弟の末っ子だ。
身長が120cmだと仮定して、覗き込む展示は最大でも高さ80cmまで、正面から見る展示の中心部分は100cmを目安に設計することになった。上を見上げるのではなく、目線の高さ以下であると見やすいと考えたからだ。
大人からすると全体的にちょっと低めの展示にはなるが、サメに特化した博物館で、その年齢層向けに作り込んだものは見たことがない。更に展示企画をしているのは小中学生だ。完成したら唯一無二のサメ博物館になるのではないかと今からワクワクしている。
サメサメ・サメ博物館のレントゲン室サメ展示ルームがどのような部屋になるのか。まだこれから変更する可能性もあるが、現状の6つのゾーンに分けた展示案を紹介したい。
ゾーン1 イルカとサメと魚って何が違うの?
ゾーン2-1 骨が全部なんこつでできている生き物を観察してみよう
ゾーン2-2 サメのからだのとくちょう25選
ゾーン3 ヨシキリザメの謎解きチャート
ゾーン4-1 ジョーズの裏側の世界
ゾーン4-2 サメのお腹の中の世界
サメサメキッズ学芸員のCさんが、5月の大型連休を使ってサメサメ・サメ博物館に来てくれた。東京から車で5時間。プレオープン中のサメハウスも、ご家族3人で2泊3日の利用をしてくれた。この期間、オンラインミーティングで話した内容をもとに展示物を作成した。
先のオンライン会議で、サメの顎の裏側も見える展示が決まったが、その前の会議では、サメの歯型が観察できるような展示も欲しいという意見が出た。それを具現化するために、紙粘土数種類を用意して、サメの歯型の型押しをしてみたり、実際に魚の形に作った紙粘土に、本物のサメの顎を嚙み付かせてどのような歯型ができるのか実験してみたりといった具合だ。
まだどのように展示するかは試行錯誤中ではあるが、引き続き、オンラインミーティングで展示を深掘りしていきたいと思う。

将来は博物館実習の受け入れができる博物館に!
昨日、こんな問い合わせがあった。サメサメ・サメ博物館にて、学芸員資格取得のための博物館実習の受け入れをお願いできないかというもの。サメが大好きで、将来はサメの研究に携わりたいという学生さんからの丁寧なメールだった。
現在、サメサメ・サメ博物館は、都道府県教育委員会の登録を受けた博物館ではないので、残念ながら、受け入れが難しい。彼女には、資格取得はできないが、私が教鞭をとっている専門学校ではインターンシップの受け入れがあること、その他、一般からのボランティアを募集する予定があることを説明し、興味があれば夏のボランティアにぜひ参加して欲しいという旨の返信をした。
面識のない学生さんからの実習の問い合わせは初めてだ。今回、要望には応えられなかったが、サメサメ・サメ博物館という名前がじわじわと広がっているかもしれないと感じて、頬が緩んだ。そして、私の心の中には、ある目標が見えた。それは、博物館実習を受け入れられる博物館に、サメサメ・サメ博物館を成長させることだ。
教える者が知識のない学習者に効率的に知識を伝える場が学校であるとしたら、博物館はその対極に位置しなければならないというのは、「構成主義」という学習理論だ。伝えられた新しい知識は、学習者の持つ知識や経験などに照らし合わされて、意味付けされ、理解され、知識が再構成される。
サメサメ・サメ博物館は、ただ単にサメの知識を押し付ける施設になってはならない。サメの魅力を一般の方々に広める、いわゆる世の中のシャーキビリティ向上推進活動を促進させるため、シャークエデュケーターを育成するオリジナルのプログラムも構築しなくてはならないだろう。ここがサメの寺子屋になり、サメで活躍する多くの人の通過点になりますように。
今日も今日とてサメ日和。よろシャーク。

ぬまぐち・あさこ 1980年生まれ。東海大学海洋学部を卒業後、
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