【連載】今日もサメ日和◎沼口麻子——第9回/サメの学習拠点をつくる!

第9回 サメの学習拠点をつくる!

 2026年3月9日で終了を迎えたクラウドファンディング。お陰様で目標を大きく上回り、204%で達成することができました。サメサメ・サメ博物館のオープンに向けて、ご支援くださった皆様に心から感謝いたします。本当にありがとうございました! 

 サメの学習拠点となるサメサメ・サメ博物館をつくりたい。宮城県に引っ越して、空き家を活用した施設にする――。東海大学海洋学部を卒業し、シャークジャーナリストとして活動して13年。フリーランスである私が、こう決断したのは2023年7月のことだった。 

 そもそも博物館の定義とは? 博物館ってどうやって作るの? 空き家を利用ってどうやってやるの? という初歩的な問いから始まり、手探りで歩み進めた2年半。サメサメ・サメ博物館を作るプロジェクトにおいて、どんな課題があり、私は何をしていたのか。今回はそんな話をしてみたい。 

そもそも博物館ってどんなもの?

 サメ好きであるならば、頭の片隅に理想のサメ博物館のようなものがある。きっと水族館や博物館のサメ展示コーナーを見ながら、「コレコレ! これなんだよ!」と心の中でひとり、熱く叫んだことがあるはずだ。 

 自分の中にある「脳内サメ博物館」と擦り合わせて一喜一憂することがサメ好きの楽しみの一つだと言っても過言ではないだろう。その「脳内サメ博物館」を具現化することこそがこのプロジェクトの醍醐味である。その前に博物館がどんな機能を持つ施設であるのかを明確にしておきたい。 

 文化庁のサイトによれば、「博物館は、資料収集・保存、調査研究、展示、教育普及といった活動を一体的に行う施設であり、実物資料を通じて人々の学習活動を支援する施設としても、重要な役割を果たして」いるという。 

 補足をすると以下のようになる。
①資料収集・保存:サメのサンプルを集め、良い保存状態で保管する。
②調査研究:サメを専門的に調べる。
③展示:サメにまつわる情報を一般にわかりやすく公開する。
④教育普及:サメに関するワークショップや解説などにより、学習支援を行う。

 これら全てを網羅したサメの博物館をつくることがあるべき姿なのではあるが、雀の涙ほどの自己資金でスタートするには、いささかハードルが高い。そこで第1フェーズとして、2026年のオープン時までに実現させることを明確にした。 

 私はこれまでサメの教育普及活動を全国各地で行ってきた。その経験から、既存の水族館や博物館とサメサメ・サメ博物館とを差別化できるポイントは、④の教育普及であると考えた。本物のサメの標本に触れ、感じ、考える場をつくる。ここを強化し、サメの魅力を一人でも多くの人に伝えたい。 

メガロドンの歯の化石をモチーフにした銅版画作り体験。写真は沼口作の銅版画。銅版画の知識がない私でも楽しく集中して作業することができた。教育手法については常にアップデートが必要である 

 その他の機能については、公的資金力のある博物館の方が有利になる。①の資料収集・保存については、母校である東海大学海洋学部の協力を得る。また、2026年度においては②の調査研究を切り捨てることにした。そして、③の展示についてはクラウドファンディングで資金を得て実現する。 

東海大学静岡キャンパスにて、液浸標本を寄贈いただいた。田中彰先生、堀江琢先生、ありがとうございました! 

 次に私がやったことは、博物館を開館するために何が必要なのか調べるということ。「博物館を一から作る方法」をネット上で探してみたが、見つからなかった。そのような手引書らしきものは世の中にないらしい。さて、どうするか。 

 大学で学んだ授業について振り返ってみた。学芸員資格を取得するための授業で、博物館法について学んだことを思い出した。確か、博物館には、登録博物館というものがある。それに準拠するためには、設置主体や年間開館日数、施設規模などにおいて厳しい制限があった。 

 宮城県教育委員会に詳細を問い合わせてみたところ、サメサメ・サメ博物館の運営体制では登録博物館への登録や、博物館相当施設に指定することができないという返答が返ってきた。 

 悲しかったが、これが現実だと受け止めた。しかしながら、世の中には登録博物館や博物館相当施設ではない、博物館や水族館が多く存在するという。だとすれば、サメサメ・サメ博物館は自称博物館として運営していくことは問題なさそうだ。博物館ってどうやって作るの? についての解は、博物館と名乗ればよいという結論に着地した。 

参考=文化庁による法律上の位置付けがある登録博物館・指定施設を紹介するサイト『文化庁 博物館総合サイト「全国の博物館」』。

実現に向けて直面する課題 

 そして、その次に調べるべきは、空き家を利用するにあたり、具体的に何をする必要があるのかということ。サメサメ・サメ博物館として今回利用するのは、7年ほど空き家になっている鉄筋コンクリートの廃病院。築40年以上だと推測される。というのは、当時の建築図面など詳しい資料が残っていなかったので、近所の人にいつごろ建てられたのか聞き込みをして推定したからである。 

 結果、これがこのプロジェクト最大のネックとなることが判明する。まず、博物館として利用できるかどうかを判断するために、この空き家に住んでみた。住むにあたって私がやったことは以下である。残置物の処分、清掃、ガス・水道・電気などインフラ周りの調査と修繕、外壁・内壁塗装、エアコンや暖房器具・トイレ・LEDライトなどの入れ替えなど。鉄筋コンクリートのため、配線一つにしても調査、修繕は一筋縄ではいかなかった。 

 また、寒冷地に住むということに関して、私自身が明るくなかったことも悲劇を生む要因の一つであった。冬場に水道管が破裂してしまい(氷点下になる予報が出たら、水道の水を蛇口からちょろちょろと出しっぱなしにしなければならなかったが、やっていなかった)、その修理に高額な費用がかかったり、存在すら知らなかった融雪器のメンテナンス費用が発生したりするなど、引っ越してすぐに予定外の出費がかさんだのだ。 

 これらかかった費用を積み上げていくと、新築で物件を建てた方が安かったような気もしたのだが、調査や修繕は住みながらやるしか選択肢がなかったので、このプロジェクトは走り出したら最後、けっして後戻りはできなかった。 

 さらに次の課題がのしかかる。博物館を開業するためには、市役所にて該当物件の使用用途の変更届を提出する必要があることがわかった。現状、病院施設となっている情報を抹消し、博物館施設として再登録をするのだが、そのためには、物件の図面を市役所に提出しなければならないという。 

 基本的には図面は市が管理しているものであるが、該当物件の図面は保管されていなかった。担当者曰く、図面の提出義務が発生する前に建築された可能性があり、その場合は新たに図面を起こして提出しなければならないという。病院施設が特殊なためか、図面起こしにかかる費用は高額だった。予定外であったため、資金調達が難しく、頭を抱えた。 

 しかし、よくよく調べ進めてみると、200 ㎡より小さい場合は該当しないことがわかった。博物館として利用予定の建物の一部である病院部分は幸いにもそれより小さい。そのため、変更届の申請は不要となる。現状のまま博物館を開業することが条例違反にはならないことがわかったので、私は胸を撫で下ろした。 

 五月雨式の課題に押しつぶされそうになる中、この春からは次の段階へ進む。3月9日に成立したクラウドファンディングの資金を使い、③の展示を実現するのだ。そう、ついに「脳内サメ博物館」を具現化していくフェーズへ入る。サメ好きの皆さん、ぜひ一緒にワクワクする展示を考えてみませんか。 

 今日も今日とてサメ日和。よろシャーク 。

沼口麻子

ぬまぐち・あさこ 1980年生まれ。東海大学海洋学部を卒業後、同大学院海洋学研究科水産学専攻修士課程修了。在学中は小笠原諸島周辺海域におけるサメ相調査とその寄生虫(Cestoda条虫綱)の出現調査を行う。現在は、世界で唯一の「シャークジャーナリスト」として、世界中のサメを取材し、その魅力をメディアなどで発信している。著書に『ほぼ命がけサメ図鑑』(講談社)、『ホホジロザメ』(福音館の科学シリーズ)。

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