【新連載】「社会課題の楽しみ方」by 東京里山開拓団――第1回「さとごろりん」と薪ストーブ◎堀崎 茂 

社会課題に苦しんでいる人たちが大勢いるのに「楽しむ」なんて不謹慎! と思われますか? しかし社会課題に楽しく関われたとしたら――。そもそも社会課題は放っておいたら誰も関わろうとしないものです。でも、楽しさが見出せるなら、自ら喜んで関わろうとする人が出てくる。こうした理念をもって堀崎茂さんが立ち上げたのがNPO法人東京里山開拓団。「そんなのうまくいかないよ」とされる問題に目からウロコの方法で立ち向かう。「放置されている里山を使わせて!」「その空き家、タダで貸してください!」。この虫のいい申し出が意外な展開を生むのです。

第1回「さとごろりん」と薪ストーブ

 17年前、東京里山開拓団は、児童養護施設の子どもたちとともに荒れた山林や空き家を自らの手で再生し、「ふるさとをつくろう」というでっかい目標を掲げ活動を開始しました。 
 東京・八王子郊外で荒れ放題だった山林はツリーハウスやジップラインのある里山に、ふもとで廃屋だった古民家はふるさとの家「さとごろりん」に、都心の空き家四軒は家賃無料の自立応援の家に生まれ変わりました。しかも、国や自治体の補助金にも頼らずに心ある市民や企業の力で楽しみながら活動を続けています。 

 どうしてそんなことができたのか? その理由は、この活動を私が趣味とするアウトドア、そしてDIYの延長と位置付け、「楽しさ」を追求してきたからです。児童養護施設の子どもたちも、ボランティアの大人たちも、「いいこと」だからというより、純粋に「楽しい」から参加し続けてくれています。 
 荒れた山林や空き家問題、子どもの虐待や貧困など、しんどそうな社会課題のなかに、私たちがどんな楽しみを見出してどう取り組んでいるのかを紹介します。 

ふるさとの家づくり

 東京・八王子郊外にある児童養護施設のふるさとの家「さとごろりん」には、ドラム缶サイズの大きな薪ストーブがあります。2023年春、廃墟となっていた古民家を提供してくださる方が見つかり、大量の生活廃材をせっせと片付けながら、土間にはでっかい薪ストーブをおこうと決めていました。

  冬は都心よりかなり寒く、最低気温は氷点下になります。しかも大きな太い大黒柱と梁で支えられた築三百年の古民家は、今どきの家より極端に寒いのです。囲炉裏やかまどの煙が屋根裏から外に抜ける造りになっているからです。だからこそ家全体が煙でいぶされて虫もつかず長持ちするのですが、暖気はいとも簡単に外へ逃げてしまいます。たとえ家庭用のストーブや空調を全室に取り付けてガンガン動かしてもみても、まったく暖まりません。土間に水を張ったバケツを置いておくと、朝には分厚い氷が張るくらいですから。 

 そこで薪ストーブが大活躍します。燃えさかるとうっかり顔を近づけようものなら焼け焦げてしまいそうな熱さになります。ストーブというより、家の中で焚火をしているようなものです。 
 燃料はこの古民家や庭を掃除する際に出てきた廃材や枯れ木。私の魂胆は、空き家や山林にあふれるゴミを片付けながら、家全体を暖め、ついでにあったかい料理も作って、楽しんでしまおうというものでした。 

 薪ストーブはこのふるさとの家にあって、まるで「代謝」のような重要な役割を果たしています。代謝とは一般的には、体内で栄養素をエネルギーに変えたり、体を作る物質を合成・分解したりする一連の化学反応のことで、それは生命活動にとって不可欠な役割を果たしています。ここでは、薪ストーブこそが空き家や荒れた山林から出てきた「ゴミ」をどんどん熱エネルギーに変えてくれるのです。そしてその熱こそが数年前まで廃屋だった古民家を生き返らせて居心地のいい空間に変えてくれます。 

 さらに、熱々の料理は、赤の他人だった人々を、同じ釜の飯を食った仲間に変えてくれます。大したお金なんかかけず、ほとんど自分たちの力だけで、児童養護施設の子どもたちにとって願っても叶うことのなかった、そして児童福祉の専門家たちにとって想像もしなかった「ふるさとの家」という究極の心の安定基盤ができたのです。 
 薪ストーブは、社会の歪みが拡大する一方の世の中にあって、魔法のように楽しさを生み出してくれる「社会的な代謝促進装置」となっているのです。 

 薪ストーブ本体の周囲には、子どもたちの火傷防止のために「鉄柵」を設置してあります。といっても、千円ほどで購入した鉄筋格子に体重をかけて曲げ、でっぱりを折り曲げて立たせただけです。一番近くの壁板には念のため難燃性の石膏ボードを張って茶色に塗装しました。 
 費用は合計で8万円ほど。ほとんどは定評のある老舗メーカー・本間製作所製の薪ストーブ本体や煙突部材の購入費です。普通ならそれ以上に大きな設置工事費がかかるのですが、私たちはボランティアのリフォーム業者の方からアドバイスと協力が得られたので設置工事費はゼロ。さらにいうと、廃材や枯れ木を燃やすので燃料代もゼロなのです。 

「ついで」こそがキーワード

 私たちの社会課題の克服方法のキーワードの一つは「ついで」です。 
 荒れた山林や空き家を片付けて、廃材を燃やす「ついで」に暖まって、さらに「ついで」においしい料理をつくる。そうすることで仲間たちと過ごせる楽しい空間ができます。こうした「ついで」の延長に、児童養護施設の子どもたちにとっての「ふるさとの家」までできあがるのではと思って取り組んできたのです。 

 もっとストレートに言うと、私は、空き家や荒れた山林、子どもの虐待や貧困といった社会課題を勉強して専門性を磨き、それを仕事として正面から取り組もうとはしていません。それよりは何より楽しさを追求し、「ついで」に取り組むほうが、問題の解決に近づく可能性が大きいと感じているからです。 
 なぜ仕事として正面から取り組むより「ついで」に取り組む方がいいのか? 多くの人は、まじめに仕事として取り組むより、「ついで」「片手間」「いい加減」にやる方が成果が出るなんてありえないと考えるでしょう。そんな考えは勤勉をモットーとする農耕民族たる日本人になじまない! なんて怒る人までいるかもしれません。 

 なぜ「ついで」なのか? それは圧倒的にコストをかけずに持続できるからです。仕事として向き合うと、自らの人件費をはじめとした大きなコストがかかります。誰かがそのコストを担ってくれるうちはいいのですが、担えなくなると途端に続けられなくなり、挫折します。こんにち存在する多くの社会課題の多くは、コストの担い手が見つからず仕事として持続できないからとり残されているのです。 
 ちょっと想像してみてください。長年にわたって、莫大な税金と労力が様々な社会課題に投じられてきています。本来であれば、もうとっくに様々な問題は解決しているはずです(莫大な税金が、問題解決に当たる現場に届くころ、細々となってしまう構造上の問題があるのですが)。 

 解決されない社会課題について、私は克服の方法論として、荒れた山林や空き家という「埋もれた資源」に価値を見出し、「開拓者精神」を発揮して、社会課題の克服を趣味の「ついで」に楽しみながら、「ボランティア」として関わる方法に注目し実践し続けてきました。 

 私たちの立ち上げた児童養護施設とのふるさとづくりの価値は、これからどこまで継続できるかにかかっています。本当にふるさとができあがることが分かれば、きっともっと多くの人が自分でもやってみたくなり、もっと社会に浸透していくはずです。 

 それが、大したお金をかけずに実践できるところまでは証明できました。これから継続するところについても、それほど高いハードルがあるとは思えません。なぜなら、「さとごろりん」で仲間や子どもたちと薪ストーブを囲んでいることが楽しいから。みんな楽しみたくて仕方ないのです。楽しいのであれば続いていく。そして拡がっていく。そう確信しています。 

NPO法人 東京里山開拓団のホームページ https://satoyamapioneers.web.fc2.com/

堀崎 茂

ほりさき・しげる 1971年愛知県生まれ、東京在住、二児の父。サラリーマン生活の傍ら、2009年から「児童養護施設とのふるさとづくり」という、環境保全と児童福祉の一石二鳥の前例のないボランティア活動を立ち上げて環境大臣&厚生労働省からダブル表彰。現在は脱サラしてNPO運営やSDGs講演に注力しながら、課題の山積する現代にあっても心豊かな暮らしや社会をどうしたら実現できるか試行錯誤中。 

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