【連載】私の○○な日々◎第5回/ぺんどらさん 私の〝小さな生き物たちに魅了される〟日々

第5回 私の〝小さな生き物たちに魅了される〟日々  ぺんどら

「ぺんどら」という名前で自然写真家として活動している。主な撮影対象は小さな生き物を主役としたミクロの世界である。名前の由来はオオムカデ属の学名Scolopendra。学生の頃にムカデが好きな後輩のおかげで(せいで)ムカデの魅力に気付かせてもらえたことをきっかけに、より多くの生き物に興味が持てるようになったことから、皆さんにも色んな生き物に興味を持ってもらいたいという願いをこめてこの名を使っている。

 これまで微小な虫たちの観察は、現地から持ち帰った落ち葉や土を光と熱で乾燥させて、その中から追い出した虫たちを採取するツルグレン法という手法が一般的であった。しかし、この方法だと虫たちが現地でどう生きているのかを知ることは難しい。そのため、体長1ミリ、2ミリの生き物が現地で自由に生活する様子を記録するなど無理だと諦めていた。

 転機をもたらしてくれたのが「粘菌」だ。アメーバ状の体から小さなキノコのような姿に変身する変わった生き物――粘菌の本がある時期、続けて出版され、テレビでも紹介されたことで、私はその奇妙な生態に興味を持ち、実際に探してみようと近くの山によく足を運ぶようになる。

 粘菌の大きさはひとつひとつは数ミリだが、密集して生えるので慣れれば見つけることは難しくない。そして粘菌の観察を続けていたある日、その周囲にはトビムシやダニなどのさらに小さな虫たちが暮らしていることに気付く。中でも粘菌を食べて育つイボトビムシの仲間は真っ赤で見つけやすく、素早くもなくて観察しやすい良い被写体となった。ヨチヨチとファンタジー世界のような粘菌の森を歩き、それらを美味しそうに食べる様子を観ていたら、すっかりこの世界に魅了されてしまった。

 粘菌の観察がきっかけで、小さなものを見つける目が身につき、諦めていた微小な虫たちが生き生きと暮らす様子を目の当たりにすることができた。以来、この目で観たからこそ得られる「こんなふうに生きているのか!」という発見とともに、小さな虫たちを主役にミクロな世界の撮影を始めることとなった。

粘菌(カンボクツノホコリ)とイボトビムシ(体長は2ミリほど)
ナミウズムシ(中央)とオドリコトビムシ(左上)。ナミウズムシの大きさは20ミリ、オドリコトビムシは0.4ミリほど

 私がよく行くのは主に山梨県の自宅周辺の山林だが、都市公園や道路脇に生える苔の中など土や植物があれば何かしらの種類が棲んでいるため、様々な環境が撮影場所となりうる。小さな生き物探しの醍醐味は意外な場所での出会いにある。十年色んな環境で探してきても未だに「こんなところに!?」ということも多い。例をあげると、あまり手入れされていない雑木林の中を通る小路の濡れた落ち葉で初めてクマムシを見つけた時には思わず声が出た。

 観察と撮影の方法はとにかく地味で、ここと決めた地面に座り込んでひたすら石や落ち葉をめくっては凝視し、ゴマ粒ケシ粒な生き物を探す……を繰り返す。その姿は、はたから見ると怪しいらしく、「何してるんですか?」と声をかけられがちだ。そんなこんなで被写体となる生き物を見つけると、カメラを手ブレ補正付きの〝虫眼鏡〟として使いながら観察する。カメラはピントを固定し、前後左右に微動させながら焦点を合わせ続けて、「お!」という瞬間にシャッターを切る。忘れてはいけないのは、めくったり動かしたりしたものは撮影後にできるだけ元に戻すこと。これは同じ場所でまた虫たちと再会するためにとても重要な作法である。

 小さな生き物の魅力はその現実離れした姿形や、漫画のキャラクターのようなコミカルな見た目にあると思うけれど、その見た目でどう動くのか、どう生活しているのかまで観察できた時に大きく魅了される。その生態も謎に包まれている種類が多く、ネットにもほとんど情報が無いような生き物が見つかるというところも大きな魅力かと思う。

 生き物の種類や個体それぞれに「〇〇な日々」があり、私は微かにでもそれを垣間見ることはできないかと観察を楽しんでいるが、小さな生き物は小さいが故に狭い範囲でその多種多様な見た目と生き方を一度にたくさん観ることができる。自分にとっては、そこも良い点である。座り込んだ場所でアタリを引いてしまい「今日はここから全く動かなかったな」という日があったり、気が付けばすっかりあたりが暗くなっている……なんてことも、あるあるだ。

「生き物が好き」と楽しんでいる方は「かわいい」や「美しい」などの成分を生き物から摂取することを目的としている人が大半だと思う。私ももちろんそうだけど、自分の価値観を揺さぶってくれる存在としても生き物を楽しみたい。その点、小さな生き物は変わり者も多く、色んな成分を含んだ見た目や生き様(死に様)で魅せてくれる者たちで溢れている。まだまだ彼らに魅了される日々は続きそうだ。

よく行くのは自宅周辺の山林だが、土や植物がある環境なら撮影場所となりうる(湿り気があるとなお良い)
体長0.8ミリほどのクマムシ。初めて見つけた時には思わず声が出た
葉脈と比べるとクマムシ(画面中央よりやや左にある白い物体)の小ささがおわかりいただけるだろう
ぺんどら

1983年愛知県生まれ、山梨県在住。自然写真家として、小さな生き物を主役としたミクロな世界を撮影している。2024年には撮り溜めた約十年分の写真を『足もとの楽園 ちっちゃな生き物たち』(さくら舎)として書籍化。テレビ番組、動物園、出版物等への映像と写真の提供も多数。小さな生き物を知ってもらうため、YouTubeやSNSでも発信を行っている。
X: https://x.com/100legs_NP
YouTube: https://www.youtube.com/c/pendra100legs

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