【望星インタビュー】長谷川真也さん――捨てられる熱から電気や冷熱をつくる⁉

日本は石油や石炭などの化石燃料資源が少なく、エネルギーのほとんどを海外からの輸入に頼っている。そのためエネルギー価格の変動の影響を受けやすい構造的な問題を抱えている。そんなエネルギー問題の解決策の一つとして、「捨てられる熱」を利用する方法が将来的に有効となるかもしれない。廃熱を利用した発電を目指し、熱音響エンジンを研究する長谷川真也さんに聞いた。 

音波から電力がつくれる!?

――長谷川先生がいま進めている研究について教えてください

「熱音響」という現象を活用した熱音響エンジンの研究開発を進めています。これは熱入力から音を介して、発電することが可能な装置です。 

――音で電力をつくることができるということですか?

 そうです。たとえば狭いパイプの中にメッシュ・フィルターをセットして、片側をバーナーで熱し、パイプを垂直にするとブォーという大きな音が生じます。パイプを垂直にすることで、上昇気流によってメッシュに温度差ができます。この温度差で空気が動き出し、それによって音がするわけですね。 

 音というのは空気の振動で起こります。この振動(音波)を利用して、冷却や加熱、発電を行うといった研究を進めています。

金属メッシュを入れたパイプの片側を加熱すると、音波が発生する

――熱音響エンジンとは、どのようなものなのでしょうか?

 簡単に構造を説明すると、ステンレスメッシュを何層にも重ねたフィルター、蓄熱器があって、それを「熱交換器」と呼ばれる機器でサンドイッチします。私たちは「コア」と呼んでいます。 

 中が空洞のパイプにコアを設置して、コアの片側だけを加熱し片側を冷却すると、コアをはさんで左右の側に温度差が生じます。その温度差によって空気が振動し、音波が発生します。 

――コアから出てくる音は大きいのですか?

 装置によりますが、1000 Pa(パスカル)を超える、かなり大きな音が発生することがあります。加圧すれば更に大きな圧力振動が発生します。パイプを密閉した場合は外に大きな音は漏れませんが、パイプ内のエネルギー密度は高いです。  

熱音響現象は室町時代には知られていた

――このような研究はいつごろから行われているのでしょうか?

 温度差が生じると音が発生するという不思議な現象は、1859年にオランダのレイケによって記載されています。でも、じつは日本には古くから熱音響現象を利用した神事があるんです。「鳴釜神事」ってご存じでしょうか? 

 桃太郎伝説のモデルで知られる岡山県岡山市の吉備津神社で行われている神事で、湯を沸かした窯の上にセイロを置き、湯気のあがったセイロの中に玄米を振り入れて、発生した音の大きさや長さで吉凶を占うというものです。1568年の『多聞院日記』には鳴釜神事の記載があるということですから、これが熱音響現象の世界最古の文献といってよいかもしれません。 

 現象としては知られていましたけれど、1980年代ごろから活発な研究が行われるようになり、本格的な社会応用研究が始まったのは21世紀に入ってからのことです。 

――長谷川先生は、なぜこの研究に関心をもたれたのですか?

 大学卒業後、英国の科学雑誌『ネイチャー』に記載してある熱音響現象に関する論文を読みました。大変面白い現象だと思いました。 

 私自身が熱音響現象の研究を始めたのは2007年ごろだったと思いますが、熱音響エンジンについての研究はかなり以前から進められていました。筑波大学の富永昭先生と愛知教育大学の矢崎太一先生が原理の解明も熱心にされていて、1998年には進行波型熱音響機関に関する論文も発表されています。 

 熱から音を介して発電できるなんて不思議だなと思いましたし、熱音響エンジンは、実用化されれば資源問題の解決や、温室効果ガスの発生を緩和する方法の一つになるかもしれません。これらは早急な対策が求められる根本的な社会問題のひとつです。 

 小さいころから研究が好きで、いずれは研究者になりたい、社会や人の役に立つ研究がしたいとずっと思ってきたこともあって、「熱音響エンジンの実用化に貢献したい」と思い、いろいろな人たちと共に研究開発に取り組んできました。 

比較的低温の排熱が使えて仕組みもシンプル 

――資源問題の解決、温室効果ガスの発生緩和にもなるというのはどうしてでしょうか? 

 熱音響エンジンの特徴は、ガソリンで動かすようなエンジンと違って、ピストンなどの可動部品を基本的には必要としない点です。ガソリンエンジンは緻密で複雑な可動部品が必要ですが、熱音響エンジンを動かすために必要なのは、ステンレスメッシュ・フィルターの蓄熱器と2つの熱交換器によるコアの部分とパイプのみですから、仕組みとしては非常にシンプルなんですね。 

 組み立てるのも簡単で、摩耗する機械部品を使わないため、装置内部のメンテナンスもほとんど必要ないのでは、と考えています。装置自体が壊れにくく、修理が必要な場合も簡単にすみます。一回つくれば、何十年と使い続けることが可能だと思います。 

 さらにコアを加熱する熱源として、未利用熱と呼ばれている排熱を再利用することができるんです。 

「熱音響エンジン」の実験装置。写真中央にあるコアの部分で音波を発生させる

――未利用熱とはどのようなものなのですか?

 自動車や船、工場から出る排熱のことです。これらで使用された化石燃料が有する熱エネルギーの内、半分以上は未利用のまま捨てられているのが現状です。捨てられている熱の多くは300℃以下の低温度で、これぐらい低温度だと熱エネルギーとして再利用することがむずかしいんですね。 

 私たちが研究開発してきた熱音響エンジンでは、複数個のコアを連結することで低温でも動作します。これにより300℃以下の低温度の排熱を利用した動作が可能であることが示されています。  

――捨てられていた熱エネルギーを活用して音波を生じさせ、そこから電力をつくる。エネルギーを無駄なく循環させることができるわけですね。画期的ですね。

 たくさんの研究者の努力で研究が進歩しています。熱音響エンジンは装置の形状も、コアの部分があればパイプのつなぎ方次第でいろいろ変えられます。もちろん大きさも自由に変えられますから、たとえば工場で使うとしたら、その工場の環境に合わせて効率のよい装置をつくることが可能です。   

熱音響のイメージ図

熱音響での冷却はすでに一部試験的な導入が始まっている

――現在、熱音響エンジンの実用化はどのくらい進んでいるのですか? 

 熱音響を使った冷却システムに関しては、共同研究を行ってきた中央精機株式会社が「熱音響冷却システム」として試験販売を始めています。 

 中央精機は自動車用ホイールなどを手がける企業です。生産工場に熱音響冷却システムを実装し、工場排熱を使って冷却が可能かを実証実験してきたのですが、2024年から試験販売をスタートしたことがwebに記載されています。これから普及が進むと嬉しいですね。 

――熱音響冷却システムで冷凍することも可能なのでしょうか?

  可能です。研究室の装置でも、300℃以下の蓄熱器温度で、マイナス100℃くらいまで冷却することができています。断熱していない状態でもマイナス50℃くらいは冷やすことができます。

――マイナス50℃というと業務用冷凍庫と同じくらいですね。

 そうなんです。いろいろ活用できると思いますよ。熱音響冷却がよいのは排熱で冷やせるという点です。以前、漁船のエンジンの排熱で船の中の生け簀の冷却を目指した実験を行いました。

 漁船は獲った魚は生け簀で冷やす必要があり、生け簀の温度を保つのにも冷熱が必要です。今まで捨てていたエンジンの排熱を活用して、熱音響で冷蔵や冷凍ができたら、排熱をただ捨てるのではなく、有効に使うことができます。 

次に目指しているのは熱音響発電機の実用化 

――近いうちに熱音響冷却システムを実装した漁船を見かける日が来るかもしれませんね。冷却に関してはもうすでに試験的な販売が進み始めているわけですが、次に目指しているものは?

 冷却についてはうまくいき始めていますので、いまは熱音響現象を利用した発電の研究開発にシフトをしています。熱音響エンジンに熱音響ヒートポンプをつければ冷却になり、ヒートポンプを発電機に変えれば発電をすることができるんです。 

 研究室の実験では、市販のリニアモーターを用いて数十ワット位を発電することができています。数十ワットというと冷蔵庫やテレビを動かせるぐらいですが、将来的には一般家庭の電力が賄えるような装置をつくりたいと思っています。原理的にはつくれるはずですので、環境負荷の少ない大きな発電機をつくりたいですね。 

――はやく実用化させてほしいなと個人的にも思います。

 そうですよね。発電に関しては一般の方からの要望もかなり多いんです。東京ビッグサイトで開催される展示会などに熱音響エンジンを持っていくと、一般の方たちから「冷却もいいけれど、発電をしてほしい」といった声がやっぱりとても多くて。 

 今はとにかく全力でリニア発電機の研究をしているところです。今は市販品だけではなく、自らリニア発電機の試作を進めています。研究開発がうまくいけば社会実装も進むのではないかと思っています。 

――排熱を利用して発電できる熱音響発電機ができたら、それこそ資源問題の緩和につながりますし、家庭用に小型化できたら災害時にも役立ちそうです。 

 災害対策用の熱音響発電機も検討したことがあります。2021年に神奈川県秦野市主催のイベントで、ロケットストーブを用いた熱音響発電機のデモンストレーションを行ったことがあるんです。 

 ロケットストーブというのは、一斗缶やペール缶などを使った簡単なストーブで、間伐材や小枝などを燃やして暖をとったり、煮炊きもできたりするんですね。シンプルな構造なので、万一、災害で電気が止まってしまっても便利に使うことができます。このロケットストーブに熱音響エンジンをつけて発電すると、燃料材を燃やして、ストーブの火で暖をとり、煮炊きもしながら、熱を回収して電気をつくることができます。 

 将来的には発電した電気でスマートフォンの充電ができる可能性がありますし、ソーラーパネルなどが使えない夜間にも使用することができますから、災害用という意味でも熱音響発電機の実用化研究を進めたいと思っています。 

 資源問題を考えれば巨大な熱音響発電装置の実用化も必要ですけれど、小さくても壊れず、それなりに効率良く使える発電機もやはり必要だろうと思うんです。 

――電力構成のうち何割かが熱音響発電に切り替わったらすごいですよね。 

 少しだけでも貢献できれば嬉しいと思っています。もちろん、私たちの研究だけでうまくいくものではないですし、いろいろな研究をされている方がいて、多様な方法でエネルギー問題にアプローチしていくこと自体が大事なことですので、その中のひとつとして役立てていけたらと思っています。 

(構成・八木沢由香)

長谷川 真也

はせがわ・しんや 東海大学 工学部機械工学科教授。東海大学卒。専門は熱力学、熱音響工学。日本機械学会奨励賞、日本AEM学会奨励賞を受賞。

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