国際的な政治イベントを見ていると、日本だけがおじさんばかり。2023年に行われたG7男女共同参画・女性活躍相会合では、女性の活躍をテーマにした会合に日本だけ男性が参加したことが話題になった。2025年10月に女性初の内閣総理大臣が誕生したが、まだまだ世界の国々に比べると女性の政治参加が遅れている印象がある。ではなぜ日本では、女性の政治参加が進まないのだろうか? ジェンダーと政治の関係に詳しい辻由希さんに聞いた。
女性の政治参加が進んでいる国と日本、どこが違う?
――2025年のジェンダーギャップ指数(※)で、日本は148カ国中118位と相変わらず低いままです。とくに「政治」のカテゴリーは148カ国中125位で前年(146カ国中113位)から低下しました。女性首相が初めて誕生したことで、日本の順位も今後は変わる可能性がありますが、今のところ日本よりも女性の政治参加が進んでいる国のほうが多い。なかでも進んでいる国というと、どこになりますか?
先進国では、やはり北欧諸国です。スウェーデン、フィンランド、ノルウェー、デンマークは70年代ぐらい、アイスランドはその少し後からぐっと女性議員が増えて、2025年現在はいずれの国も女性議員比率は40%を超えています。
イギリスやフランスはもっと遅れて、21世紀に入ってから増やし始めました。フランスでは2000年に、選挙候補者を男女同数(50%ずつ)にすることを義務づけた「パリテ法」が制定され、そこから女性議員がかなり増えましたね。
――コロナ禍のときはニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相、フィンランドのサンナ・マリン首相といった女性首相が大きな注目を浴びました。フィンランド以外にも、北欧の国々は、女性が首相や大統領を務めるのが当たり前になっている印象があります。こうした国々と日本との土壌の違いを感じます。
そうですね。女性の政治参加の歴史がありますし、国のリーダーになっている経験もありますので、性別云々の前に経歴や積んできた実績で評価されることが当たり前になっているのだと思います。
もうひとつは選挙制度が、政党を選ぶ比例代表制であることも大きいでしょう(ニュージーランドは比例代表制に小選挙区制の要素を加味した小選挙区比例代表併用制)。選ばれるために、政党としてはバラエティがあって、バランスのよい候補者を揃えようとしますから、女性の候補者を増やしやすい。小選挙区制度のように個人が選ばれるのと違って、有権者は政党が用意した候補者名簿を見て政党に投票します。
そのため、議員になってから出産・育児などで休暇が必要になった場合、同じ政党から代わりの人も立てやすくなります。ニュージーランドのアーダーンさんも首相在任中に産休を取得しましたよね。これは女性に限らずですが、政党主体の比例代表制だと、育児との両立やワークライフバランスが図りやすいといった点も大きいと思います。
※ジェンダーギャップ指数 世界経済フォーラムが2006年から発表。「経済」「教育」「健康」「政治」の4分野における男女格差を数値化したもの。全体の平均値がその国のスコアとなる。
衆議院で女性が増えない原因は与党にあり?
――それと比べて、日本は随分と立ち遅れています。2025年時点での日本の女性議員比率ってどうなっているのでしょうか?
衆議院選挙は2024年に行われましたが、そのときは候補者に占める女性の割合が23.4%で、当選者に占める女性の割合は15.7%でした。2025年の参議院選挙は、候補者に占める女性の割合が29.1%、当選者に占める女性の割合が33.6%でしたけれど、参院選は3年ごとの半数改選ですから、参議院全体の女性の割合としては29.4%となっています。国際的にはまずは30%を目指すとなっていますので、衆参ともに現時点ではベンチマークを超えていないということですね。
――それでも参議院は29.4%ですから、あとひと息と。一方の衆議院は15.7%ですか。どうしてこんなに低いのでしょう?
衆議院の場合は小選挙区制が主であることもあって、野党で女性の候補者が増えてもなかなか当選がむずかしい現状があります。小選挙区で勝てるところに女性候補者が増える必要があるのですけれども、今までのところ自民党の衆議院候補者は男性が多いんですね。与党だった公明党も男性のほうが多かったですし、与党の現職が男性ばかりですから、小選挙区で現職を勝たせようとすると必然的に男性ばかりになります。
また、勝てる候補として地元の推薦で出てくる候補となると、世襲であったり、地元の名士であったり、業界団体とかさまざまな団体の推薦が得られる人であったりすることが優先されて、そこであえて女性を候補者にしようといった動きは起こりにくい。
つまりは与党自民党が意識的に女性を増やそうとしてこなかった、その自民党が勝ち続けてきたということが衆議院で女性が増えない大きな原因だと考えられます。野党で女性をたくさん増やしても、男性ばかりの与党が勝ち続けてきたため、女性候補者の増加が女性当選者の増加に結びつきにくかったんです。
衆議院で15.7%になったのは、2018年に「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」が成立し、各政党が数値目標を立てて女性候補者を増やす取り組みを始めたということもあるのですけれど、一番の要因は自民党が議席を減らして野党の議席が増えたからです。それまでは10年間ぐらい、10%を超えるか超えないかのあたりをうろうろしていましたから。
――確かに野党のほうが女性候補の擁立に積極的に見えますね。
先の参院選では、政党別に見た場合、女性候補者を20名以上擁立していたのが立憲民主党、共産党、参政党ですね。自民党は17名でした。
――ということは自民党も頑張ったのではないですか?
ただ自民党全体の女性候補者率は21.5%です。野党第一党の立憲民主党は41%ですから、それと比べると少ないでしょう。
政治分野に女性が増えると何が変わるのか
――政治の分野に女性が増えていくと社会はどのように変わっていくでしょうか?
女性議員が増える効果として海外の研究では、「政策や議会の文化、仕組みが変わる」「ロール・モデルができることで女性の政治参加意識が高まる」「有権者の意識とか政治への信頼感が増す」といった点が挙げられています。
ただ政策に関しては、日本は党派性で結構強くわかれてしまう。とくにジェンダー関連の選択的夫婦別姓制度や同性婚については党によって考え方がまったく違いますし、与党である自民党が賛成していないことで膠着状態になっていて、この先もなかなか進まないかもしれません。
一方で、女性が増えることで今まで注目されなかったような困った状況に光が当たり、そこを変えていこうといった動きにつながっていく可能性はあります。高市首相も、女性の健康の問題や介護の問題に関心があると言っていましたし、女性をはじめ、いろいろな立場の人が増えると、これまで取り上げられてこなかった問題に焦点があたるといった変化が期待できます。
議会の中の文化も変わっていくのではないでしょうか。例えば、夜中まで採決があるとか、子ども連れで議場に入れないといった文化はなくなっていくかもしれない。地方議会では、女性議員が50%まで増えたことで、議員同士の議論の場が増えたり、下品な野次がなくなったりして、雰囲気が変わった実例もあります。
女性議員は当たり前、女性の閣僚や首相も当たり前になっていけば、次の世代の女性たちの立候補へのハードルも下がるでしょう。
――今はまだ女性が立候補しづらい、政治参加しづらい。これはどこがネックになっているんですか。
いろいろな要因がありますけれど、家庭への影響が大きいことで家族に反対されて、選挙協力が見込めない、立候補を止められるといったことがハードルになっているという話はよく耳にします。資金の問題ももちろんあるでしょう。
それから心理的な面ですね。なぜかはわからないのですが、「やってみない?」と言われて、「いやいや、自分なんて」と尻込みしてしまう人が女性には多いそうです。立候補者をリクルートしたい政党はどこも、どうやってその意識を変えていけるか悩んでいると聞きます。
政治への意識を高めていくことも大切
――女性たち自身の意識の問題もあると……。そこを変えていくには?
アメリカの研究では、政治の知識がちょっと入り始める年代のときに家庭の中で親と政治的な事柄について会話をしたり、学校の児童会や生徒会の選挙に出たりしたことのある人のほうが、将来の選択肢として「政治家もあり」と答える割合は高かったと報告されています。女の子であっても、子どものときから家庭で政治の話題を増やしたり、生徒会への立候補を後押ししたりすることは大切かもしれません。
政治のイメージも重要ですよね。権力闘争や利害の対立といったイメージがどうしてもありますけれど、議員や政治家の仕事は、困っている人の困りごとを聞いて、それを解決するために制度や法律をどう変えていくかというところに本質があるはずです。そこに面白さがあると話す女性議員たちもいます。政治とはそういうやりがいのある、いい仕事なんだというイメージが浸透すると、心理的な抵抗感は多少減るのではないかなと思います。
――北欧の国デンマークは家庭でも政治の話題が多く、学校では模擬選挙などで主権者教育をしているため、国民みんなの政治への参加意識が高いと聞いたことがあります。
主権者教育も、政治への抵抗感をなくすうえではとても大事です。18歳で選挙権をもてるようになりましたので、できれば高校生になる前の早い段階で始めたほうがいいと思います。模擬選挙もいいですし、政治的なイシューについて議論をすることも経験してほしいなと思います。政治的中立性を主権者教育に求める必要はなく、右派的でも左派的でも、両方の立場から意見を述べ合って、いろいろな考え方があることを学べばいいんです。
女性議員を増やすためにできる工夫
――女性比率を上げるうえでは教育からどう変えていくかも大切ですし、フランスのように法律をつくることはむずかしくても、人種や性別などを基準に、一定の比率で人数を割り当てるクオータ制(※)を導入するとか、制度から変えてしまうのも早道な気がするのですが。
強制的に、短期間だけでもクオータ制を導入すればグッと変わるでしょうね。ただ日本では強制的に進めることへの反発が強くて、それゆえ政党も「自分たちで数値目標をつくり、自分たちで努力しよう」というところで留まってしまっているんです。

――そこを打開する方法はないのでしょうか?
世界では法律でクオータ制度を導入して女性議員を増やしている国も多いのですが、カナダは完全小選挙区制で、なおかつクオータ制度を導入していません。そのカナダが女性議員を増やすため、どんな工夫をしているのか調査したことがあります。
カナダの場合は政党ごとに取り組んでいて、たとえば現在の与党である自由党は、トルドー首相のときに女性やマイノリティ出身の候補者を増やす取り組みを進めました。各選挙区の最終候補者は選挙区の党員たちが選ぶのですけれど、そのための候補者リストには女性やマイノリティの人たちが必ず入っていないといけない。複数の予備候補がいる場合は、多様性を確保したうえで、その人たちの中から最終候補を選ぶ仕組みにしているんです。そうしたリストをつくらないと最終候補選びに進めないため、女性候補を一生懸命探しますし、リクルートも熱心でした。
――そうした工夫は日本でもできそうですね。
最終候補者を決める前に、どう探しているのか、どう選んでいるのかが見えることも結構大事だと思います。日本の政党は、その点をあまり透明化してくれないので、外からチェックできるように法律で「透明化しましょう」ということはできると思います。
あとはリクルートのときに、「私なんて」と一回断られても諦めず、「ぜひ、あなたにやってほしい」と熱心に口説く。何回も声をかけることで「やってみようかな」となる人も出てくるはずです。そうした努力も女性議員を増やすことにつながると思います。
※クオータ制 格差是正のために構成メンバーの一定比率をマイノリティに割り当てるポジティブ・アクションの手法の一つ。政治分野においては、議会の男女間格差の是正を目的に、性別を基準に女性または両性の比率を割り当てる制度。
(構成・八木沢由香)
つじ・ゆき 東海大学政治経済学部教授。専門分野はジェンダー政治論、福祉国家論。著書に『家族主義福祉レジームの再編とジェンダー政治』(2012年、ミネルヴァ書房)、論文に「自民党の女性たちのサブカルチャー――月刊女性誌『りぶる』を手がかりに」(田村哲樹(編)『日常生活と政治――国家中心的政治像の再検討』岩波書店、2019年、第6章)、「ジェンダー政治の三〇年―― 平等で包摂的な社会に向けた成果と課題」(山口二郎・中北浩爾編著『日本政治 再建の条件――失われた30年を超えて』筑摩選書、2025年、第3章)など。

