「投稿の広場」は、詩の投稿を募り、その一部をご紹介するコーナーです。選者は「詩のとびら」の著者である詩人のマーサ・ナカムラさん。今回は2024年10月22日から11月22日の募集期間に投稿された三十篇の中から選考を行い、三十篇すべてにマーサさんからの講評をいただきました。
金色の寺 花山徳康
ろうそくの四角い光
聴こえます
画面がなくて
色々なものが
跳ね返る
小さい服
わずかな布
これくらいの食事
手摺
一歩目
金木犀
雨が降る石
消える傘
「お元気で」と
風に溶けていく遊びは
引っ越しの日もやった
人 正直 町
ほんのちょっとの色が
追い付く
えっ? と初めて
叔母の後ろ側
何を見てるの?
ねぇ 本当に屋根の色になるでしょう
猫って
消えつつ細く燃えている秋の景色
夜空に柳が紛れていておどろいた
二つに割れていたものがまた丸くなる
去る定刻 碧 はる
サビが爛れた
バスの定刻表を
気づいたら眺めていた
潮
風たちの
小旅行が
もたらした結果だ
きみのウッド系
香水と
蒼ざめた
塩辛い香りが
柔らかく殴り合う
長かった生活の終わりを
祝うようにして
漣が広がる
「ひにくだ」
と思う
きみは
どちらとも取れないような
顔でいる
そんなところが
好きだった
から
から
に乾いた
心を
また枯らすようにして
滑り出した感情が
涙の流出に変わる
ごめ、ん だいじな
こと
にきづけなくて )ii
)
勝手に
悲しみ
涙に還し
青いベンチ
通り越し
下に
歩く蟻
からしたら洪水
涙波打ち
してると
滑り止めで
停まったみたいなバスが
その衝撃で
拍動する
お お き な
音を立てて
開く
ドアに
、 迷う人みたく
乗車した
去る生活
去る漣
去る男
去る
定刻
――ドアは勢いよく閉まる
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行って
しまった
あの人との
生活も
おわりー
まあーー
せいせいする?
あの人は
知らないんだから
なーんも
我が子は
学校でいじめられて
お父さんに
自分なりに
助けを求めてた
らしいじゃない
あの子は
繊細で
微かなことでも
心
心 (拾っちゃうんだから) 心
心
そんな
我が子の
SOSに
気付けないなんて
ほんと
誰の血を継承してるんだか
誰の血
だれのち って
あの子の血よ
あれはあの子の血よ
昨夜
引っ越し作業が片付いて
寝室も段ボールだらけ
真っ暗にすると
差し込む月明かりとの加減で
四角い
段ボールの影が
ぼこぼこ
部屋に
わたしたちのような
きょうどうたいに
穴をあけてる
みたいだった
寝返りを打ったとき
足の甲にダンボールがあたり
立てかけてあった
家族写真が落ちて、割れた
私は起き上がり
箒で掃除をした
中の写真から
もう一枚の紙が出てきた
[みんなぼくのことをけなすんだぎゅうにゅうでびしょびしょらんどせるがたまにあくごめんなさいってあやまってきょうかしょのーとぜんぶでてきてせんせいびっくりさせてまたごめんなさいそんなまいにち げんきにいってらっしゃいだからげんきにいくけどかなしくていらいらするときもあってそのへんのこんくりーとたたいてたら
ちがでちゃったけどがんばってつたえるためにかくえんぴついっぽんだけだからこのままかくたすけて ねえ おとーさんおかーさん]
夏の終焉、旅立ちの前夜 早乙女ボブ
空の青さで
目覚めてしまった
信号機は
墓標のペースで
点滅をする
ひとは
いても いなくても
さみしい
見えない世界で思い出す
銀に輝いていた
あなたの靴
眠りたい
ひたすら
0 に
なりたい
発車のベルが
祭祀の終わりを告げる
ひとたちの騒めき
手や足は
先のほうから
透きとおって
なきがらの傍
わたしは
病み肌にまみれ
零下の夜に灯をともす
想い出の切符は
明日、
届くだろう
空洞 三波 並
投げかけられた言葉の解釈で、自身を否定してしまう夜が存在する
あたたかな毛布に包まると、わたしの存在はぼやけていく
わたしの外側は、雨風にさらされなければ見えてこないし、
わたしの内側は、暗くて寒くてしんどくて、たいへん不明瞭である
そんなさみしい内側にも、いのちを育む空洞が存在するという
そこでは、海や大地や山々が広がり続け
かたちのままならぬ生き物が、増殖や衰退を繰り返している
とある一匹が、海から陸へはい上がろうとしている
雨風とともに、鈍い痛みが下腹部を満たす
いのちは蠢き、記憶はゆらめき、睡魔がわたしを包みこむ
浅い眠りにつく頃、空にうかんだ月をながめる一匹は
風を感じながら、深い呼吸をはじめた
ちいさな呼気で満たされ始めたわたしの内側は
まだ不明瞭なままではあったが
いのちを育む空洞であるという事実が
わたしの存在をささやかに肯定する
いのちの存在でしか肯定できないわたし自身を否定しない
空洞は、満たされていないから空洞なのである
講評は次ページに続きます