【望星インタビュー】佐々木勇太さん――なぜ人は星を見上げるのか(後編)

紅色のオーロラを背景に尾を引くペルセウス座流星群、思わず両手ですくいたくなるような天の川、都心の光をよそに悠々と輝く木星と土星……。撮影したのは、1年5ヵ月をかけて43ヵ国145都市を回る「星を巡る世界一周の旅」をした佐々木勇太さん。永田美絵さんの連載「星空をめぐる旅、そして物語」で素晴らしい写真を提供してくれる佐々木さんに、星空の魅力を聞いた。 

前回の記事はこちら【望星インタビュー】佐々木勇太さん――なぜ人は星を見上げるのか(前編)

ありのままの姿と感動を写し、伝える

 プラネタリウムの星空解説員になった今でも、もちろん星を見る旅を続けています。目的は、星や天文現象を実際に見て、そのときに感じた素直な思いを人に伝えることですから、星の輝きや光の色、強さ、空の様子などをできる限り忠実に写真に残そうと意識しています。 

「世界一周の旅」のあと、星を見ることよりも、「撮影すること」が目的になってしまった時期もあったのですが、「自分の目で見る」という原点を思い出して方向修正。今は、目は星をしっかりと見たまま、手の感覚だけでカメラを扱えるように、を意識して撮影に臨んでいます。 

 ちなみに、風景を入れて撮った星の写真を「星景[せいけい]写真」、一つの星や星雲、銀河の写真は「天体写真」と呼びます。僕は星景写真が中心です。星景写真でポイントになるのは構図ですが、構図に迷った際に大いに参考になるのは、現地で販売しているポストカード。できれば昼間のうちに同じ撮影位置を特定できると、暗くなってからもあわてず撮影に臨めますよ。 

 星空解説員になってから、お客さまからしばしば、「どこの星が一番きれいでしたか?」と聞かれます。そんなとき最初のうちは、「パッと思いつくのはニュージーランド。南米ベネズエラのカナイマ国立公園内にあるテーブル山『ロライマ山』周辺や、ボリビアのウユニ塩湖などもおススメのスポットです」なんて答えていたんですが、しばらくすると「ちょっと違うな」と思うようになりました。こんな回答では、聞いた人が「あ、そうなんですね」で終わってしまうんじゃないかと。 

 それに何よりも、出会った星はすべてきれいでした。否、まだ出会っていない星も含めて、星はいつどこから見ても、すべてがそれぞれに美しいと思うんです。 

何よりも「体験」をサポートしたい

 これは解説員としての目標の一つでもあるんですが、自分の話を聞いてくれた人が、さっそくその日に空を見上げたり、星を見るために出かけたりというような行動を起こしてもらえる解説をしたいと思っています。実際に星を見て、自分自身で星空の広さや星の輝きを体験してもらえるようなサポートがしたい。だから最近は、「どこが一番きれいですか?」「おススメの場所は?」などと問われたら、逆にその人のライフスタイルや趣味、都合などを聞いて、それに合うプランや場所を伝えるようにしています。 

 たとえば、よく行く場所があったり夏休みの旅行先が決まっていたりしたら、その近くで星を楽しめるスポットを提案し、流星群が見られる時期が近ければ、その人が行ける範囲で流星が楽しめる場所を紹介するといった感じです。家族で山に行くなら、星が見えるホテルやその途中にある駐車場、カップルで行くならヨーロッパや北欧といったロマンチックな場所を勧めるとか……。 
 行動を起こしてもらうのが目標と言いましたが、何よりも動かしたいのは「心」。だから、「勧めてもらった場所に行ってきました!」「流星群を見て感激しました!」などと報告してもらったときは、本当にうれしいですね。 

 星は自分の目で見るのがいいと思いますし、ただ眺めているだけでも綺麗なのですが、星座が分かるとさらに楽しくなります。そのためにはプラネタリウムに行くのが一番。これは僕自身が経験したことでもありますが、プラネタリウムで星や星座の見つけ方、星にまつわる物語を知り、それから実際に夜空を眺めて目当ての星座を探し当てたときの喜びはひとしおです。プラネタリウムと星空の両方を訪れて、星の魅力を堪能してほしいと願っています。 

富士山と星空(乙女座)もちろん佐々木さん撮影 

星空は、自分と向き合える場所

 最近は、プラネタリウム以外の場所で星の解説をする機会も増えました。今は旅行会社とタイアップして、モンゴルやチベット、ネパールなどへのツアーやオーロラを見に行くツアーなどに、ガイドとして同行しています。星を巡る旅はもちろんプライベートでも。行きたい場所や見たい星空がまだまだたくさんありますから。 

 仕事でも個人的にも星と一緒にいられて楽しくて楽しくて……。「星人生」を積み重ねる中で、その原点となった学生時代のプラネタリウムでの感動は、時を経るにつれて磨かれてクリアになっている気がします。そして、そのとき解説員がつぶやいた、「どうして人は星空を見上げるのでしょうね」という問いに対する答えも、自分なりに一つ結論が見えてきました。 

 人が星空を見るのはなぜか。それは星空の下が、悩んだり迷ったりしたときに自分の考えをまとめるのにぴったりな「自分と向き合える場所」だから。もちろん、美しいからとか、ロマンチックだからという理由もあるでしょう。でもさらに突き詰めて考えてみれば、そんな感情を抱ける場所に行けば、そのうちに意識はもっと遠い外側や、反対に内側に繋がっていくような気がして。そうなった結果、一つの結論として、人は自分と向き合うために星を見るのではないか、と。 

 もともと僕は、「しあわせってなに?」「いきるってなに?」などと質問し続けて、母親を困惑させるような子どもでした。普遍的な問いについて考えることが好きで、大学では哲学を専攻したくらいです。「なぜ人は星空を見上げるか」――その問いに対してもずっと考え続けました。もちろん場所は星空の下。そして答えが出せたときは、また一つ大きな扉を開いたような達成感が得られました。 

 星の存在や宇宙の仕組みそのものが、自分の人生を切りひらくヒントになる。それに気付かせてくれたのも星を巡る旅でした。たとえば、「暗順応」という反応があります。明るい所から暗がりに入ったとき、最初は何も見えません。でもしばらくたつと目が慣れてきて少しずつ周囲が見えてきます。人間の目は暗がりにあるわずかな光を増幅させて、それまで見えなかったものを見えるようにしてくれるんですね。星空も最初は明るい星しか見えなくても、10分、20分とじっと眺めているうちに暗い星まで見えるようになってきます。 

 人生にもそれと似た部分があると思っていて、悩んだ状態を「お先真っ暗」などと表現しますが、悩んだときはまさに夜の闇の中に突き落とされたような状態です。どうしていいかわからない、立ち止まったまま動けない――そんなときは、「暗順応」を思い出してほしいんです。初めは何も見えないかもしれません。でも、きっと見上げ続けていれば、星がだんだんと見えてくるのと同じように、その先に光が見えてくるはずです。 

(了)

佐々木勇太

ささき・ゆうた 東京都町田市出身。蟹座。 学生時代から地元のプラネタリウムに通い、天文光学機器メーカー勤務を経て「星」をテーマとした世界一周の旅へ。世界各地にある天文台やプラネタリウム、星空の美しい場所を巡る。 帰国後、旅で得た経験を基に、都内のプラネタリウムで解説員として勤務する傍ら、国内外と旅を続け、出会う人に星を「読む、聴く、見る、体験させる」コンテンツを提供している。

バックナンバー一覧へ

  • URLをコピーしました!