【望星インタビュー】佐々木勇太さん――なぜ人は星を見上げるのか(前編)

紅色のオーロラを背景に尾を引くペルセウス座流星群、思わず両手ですくいたくなるような天の川、都心の光をよそに悠々と輝く木星と土星……。撮影したのは、1年5ヵ月をかけて43ヵ国145都市を回る「星を巡る世界一周の旅」をした佐々木勇太さん。永田美絵さんの連載「星空をめぐる旅、そして物語」で素晴らしい写真を提供してくれる佐々木さんに、星空の魅力を聞いた。 

始まりは地元のプラネタリウム

 僕が撮影した星空の写真を気に入ってくださってうれしいです。でも、「カメラマン」と言われれるのは恐れ多い気がします。星を見たい一心で世界一周の旅に出た29歳のときにようやくそれなりのカメラを手にして現地で試行錯誤しながら撮影するという状況で、今もその延長ですから。 

 今でこそ星空と深く付き合っていますが、高校生までは、ほぼ無縁でした。バスケットボールに熱中したり、バンド活動に夢中になったりという日々で……。星に目覚めるきっかけになったのは、大学に入学したころに立ち寄った自宅近くのプラネタリウムです。たまたま看板が目に入り、開館記念日で無料だったので、「それじゃあ」と(笑)。入ったのは小学生の校外学習以来でした。 

 ドームの中で天井に映し出された星々を眺めて、「ああ、きれいだな」「オリオン座はこうやって見つけるのか」なんていい気持ちになっていると、ふと解説員の方が、「どうして人は星を見上げるんでしょうね」とつぶやいた。語りかけるようでもあり、自問するようでもあったその一言が、なぜか耳に残りました。「そう言われてみれば、なぜだろう――」と。 

 思えばこのときが、自分の「星人生」の始まりだったように思います。それからプラネタリウム通いを始めました。投影される星がきれいなのはもちろんですが、雰囲気もいいし癒される。プログラムが終わると建物の屋上で解説してもらったばかりの星を探したり、気になる星の名前を調べたりしていました。 

星空解説員になりたい、でも知識がない

 大学4年生になると就職先を考えなければなりません。僕が考えた道は二つ。一つはアルバイトとしてかかわっていた舞台照明家の道で、もう一つはプラネタリウムの星空解説員になる道でした。星空解説員への憧れもあって、結局、選んだのは後者です。縁あって、通い続けていた自宅近くのプラネタリウムで働けるようになりました。しかし、残念ながら1年後に閉館になってしまい、他を探したのですが見つからない。解説員どころか、スタッフを募集しているプラネタリウムもありません。 

 あきらめきれずに〝つて〟を頼り、あるプラネタリウム機器の製造会社に電話しました。一旦は断られたんですが、「自分は御社が関連するプラネタリウムでアルバイトをしていた。どうしてもこの業界で働きたい。どんな仕事でもいいので面接を受けさせてほしい」と食い下がったところ、「ああ、あのプラネタリウムにいたの」と風向きが変わり、なんとか入社させてもらえました。 

 その会社では、プラネタリウムで流す番組の制作などを担当しました。営業で訪れた全国各地のプラネタリウムでさまざまな解説員とも知り合えて楽しかったのですが、突き付けられたのは圧倒的な知識の差。子どものころから望遠鏡で星を観察していた人、天文学を専門に学んだ人……自分とは比べ物になりません。「このままでは解説員になれない」と焦り始め、仕事にも身が入らなくなって、挙句の果ては大きなミスをする始末。 

「仕事を辞めてしまいたい。でも辞めたらプラネタリウム業界から離れてしまう。どうすればいい? 何がしたい?」。そう自分に問いかけたときに浮かんだのが、「旅に出たい。世界一周してみたい」という思いでした。実は、プラネタリウムの解説員でも、南半球の星座やオーロラなど、見たことがないまま話している人も少なくないんです。「ならば、自分は現地へ行ってこの目で実物を見よう。そして、それを語れる解説員になればいい!」、そう思ったら、立ち込めた雲がみるみる晴れて光が差したように感じました。 

星と人に導かれて世界の旅へ

「プラネタリウムの解説員になりたいんだから、まずは星空のきれいな場所に行こう。世界各地のプラネタリウムも巡り、星にまつわる神話や伝説も集めたい――」。心がどんどん世界に向かい始める一方で、「お金はあるのか?」「危険なんじゃないか?」なんて、行けない(行かない)理由を考えてしまう自分もいました。 

 ところが、調べてみると「150万円ほどで世界を回れる」と分かって自分の貯金を調べてみたら200万円あってお金の問題は解決。旅の経験がある大学時代の友人も「あ、いいじゃん、行ってくれば」と背中を押してくれて、行けない(行かない)理由がなくなってしまいました。 

「最後の一押し」となったのは、僕に「星人生」のきっかけをくれたプラネタリウム解説員の言葉です。実は、一度だけ星空解説を担当させてもらったことがあるんですが、そのときに受けたのが、「自分が本当に思っていること、本当に感動したことを話せば、絶対に人に伝わる」というアドバイス。その実現のためにも本物の星を見なければ、と一歩を踏み出す決意が固まりました。 

旅の途中のスナップ

 出発は2012年11月。旅の始まりとして選んだのはオーストラリアでした。ちょうどそのころに皆既日食が見られると分かったからです。では、次どこへ行くか……。星を見る旅なので、まずは天文現象が起こる場所と時期、プラネタリウムや天文台などの施設、星と関連がありそうな遺跡などを調べて地図にピンを打っていく。そこに、以前から訪れたいと思っていたアンコールワットやマチュピチュといった場所を足していくと、およそのルートができました。 
 結果、巡ったのは43カ国145都市。オーストラリアからインドネシア、中国、モンゴル、インド、中東、ヨーロッパ、北欧、南米を通ってハワイまで、1年5ヵ月の旅になりました。 

 見たいと思っていた星空を堪能できたことはもちろん、行く先々で出会った人から、星が美しく見える 〝とっておき〟のスポットや、地域や民族に伝わる星の伝説などを教えてもらえたのもうれしかったですね。ゆるやかに決めておいた行程ですから好奇心のおもむくままに変更し、思いもよらない場所に立ち寄ったり、想像もしなかった星空に胸を躍らせたりという刺激的な毎日でした。 

 この旅を輝かせてくれたのは紛れもなく星たちです。そして、帰国後に念願だった「プラネタリウムの星空解説員」になれたのも、星の導きがあったからかもしれません。 

(後編につづく)

佐々木勇太

ささき・ゆうた 東京都町田市出身。蟹座。 学生時代から地元のプラネタリウムに通い、天文光学機器メーカー勤務を経て「星」をテーマとした世界一周の旅へ。世界各地にある天文台やプラネタリウム、星空の美しい場所を巡る。 帰国後、旅で得た経験を基に、都内のプラネタリウムで解説員として勤務する傍ら、国内外と旅を続け、出会う人に星を「読む、聴く、見る、体験させる」コンテンツを提供している。

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