【連載】私の○○な日々◎第1回/仲野徹さん 私の(できるだけ)健康的な日々

第1回 私の(できるだけ)健康的な日々  仲野 徹

 健康なほうだと思う。もうすぐ69歳だが、病気らしい病気はしたことがない。新型コロナにもかからなかったし、インフルエンザもずいぶん長い間ごぶさただ。奏功しているかどうかわからないが、できるだけ健康に気をつけた日々をおくってはいる。

 まずは適正体重の維持である。ちょっとした自慢は、27歳で初めて誂えたスーツをいまでも着られること。一時は太っていて無理だったが、現状は誂えた時より3キロほど減っていて少しゆるいくらい。いろんなダイエットを試みては諦めを繰り返してきたが、体重のレコーディング――毎日グラフ用紙に折れ線グラフで記録する――だけは20年近く続けている。自制心を強く持たねばならないのがつらいところだが、これだけで適正体重は維持できる。

 とはいえ、BMI=体重(kg)÷身長(m)の2乗、は23コンマいくらと正常上限値ぎりぎりだ。もう少し減らした方がいいのかもしれないが、高齢者が痩せるのはあまりよろしくないらしい。それに、やや太り気味の方が死亡率は低いというエビデンスもあるので、これくらいでまけといてほしい。

 還暦の頃から健康が気になり出し、ウォーキングを心がけるようになった。一日8000歩でいいという話もあるが、1万歩を最低目標にしている。仕事をしていた時は職場の二駅前からできるだけ早足で歩くことにしていた。四年近く前に定年退職していまや隠居の身だが、生活のリズムを作る目的もあって、早朝のウォーキングを欠かさない。それもラジオ体操付きである。

 ラジオ体操歴も長くて、かれこれ二十年になる。きっかけになったのは、2004年に刊行された上大岡トメさん往年の大ベストセラー『キッパリ! たった5分間で自分を変える方法』(幻冬舎)で、生活習慣を変えるための30項目のうちのひとつが「ラジオ体操をする」だった。昔は朝6時25分からのNHK Eテレ「テレビ体操」を終えて出勤するというのを日課にしていたが、現在は会場の公園まで時速約6.5㎞で歩いて6時半からのラジオ体操だ。もちろん真冬も参加する。夏は200人以上集まるが、「越冬隊」は50人以下に減ってしまう。誰も誉めてはくれないが、すでに三年連続で越冬隊員を勤め上げたことを密かな誇りにしている。

日課のラジオ体操は、家から早足で30分ほどのところにある公園で

 その帰路にはスポーツジムで筋トレだ。毎日なので30分くらいずつだけれど、上半身、体幹、下半身をローテートで。厚労省の健康な生活のためのガイドライン(「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」)、以前はウォーキングなどの有酸素運動だけだったが、最新版からは筋トレも推奨されている。筋肉量を増やすことも大事だが、筋トレをすることによって筋肉から「マイオカイン」と総称される物質が分泌され、がんや生活習慣病、認知症にまで効果があるらしい。それほど強く信じているわけではないが、なんとなくよさげやないの。

 ジムに通う必要はなくて、スクワットや腹筋などといった道具を使わない自重トレーニングで十分らしい。なので最初は家でやり始めたのだが、いつでもできると思うせいか、つい怠けてしまうばかりだった。それではと、すでに習慣化できているラジオ体操+散歩に紐付けた次第。毎月7000円近くはもったいないような気もするが、いたしかたなし。

 筋トレの効果はあなどれない。妻は驚くほどのへなちょこハイカーで、どうしたらこんなところでと思えるような道でへなへなとよく転けていた。それが筋トレを始めてからはまったくなくなった。自分のことではないが、この驚くべき改善効果から筋トレの効果を確信している。

 加齢と共に筋肉量は減っていくが、筋トレによってある程度は防ぐことができる。それに対して、バランス感覚は筋肉量以上に加齢変化が著しくて、トレーニングによる改善が難しいとされている。それでもなんとか抗おうと、一年ほど前から乗馬を習いだした。けっこう費用のかさむのが難点だが、少なくとも馬上での姿勢とバランス感覚はずいぶんとよくなってきている。

 ChatGPTさまに「毎朝のラジオ体操付き速歩と筋トレ+週一回の乗馬で、できるだけ健康的な日々といっていいですか?」と尋ねたら、「かなり理想形に近い組み合わせです。医学的に見ても、机上でベストプランを考えたらこうなるというレベル」とのお褒めをいただいた。ふっふっふ、そうであろうぞ。

乗馬はバランス感覚が養える。おまけに、実に爽快!

 もうひとつ、義太夫――文楽の語り――を習って十年少しになる。健康のためではなく、親炙する武道家・思想家である内田樹先生の「歳をとったら旦那芸のひとつくらいは身につけるべき」との教えに従って始めたものだ。上達の度合いは遅々としているが、大きな声を出すのは健康によさそう。これもChatGPTさまに尋ねたら「呼吸器・自律神経・脳機能に良い激で、本物の健康法ではない健康法」とのこと。速歩、筋トレ、乗馬の三つとあわせて「健康志向というより、健康に愛されているおじい」とのお墨付きをいただいた。嬉しすぎるやないの。

 このような日々ではあるが、いつまでも健康に生きるなどということは望むべくもなかろう。いずれ怪我か病魔が襲ってくるはず。でも、その時までは、「陽気に元気にいきいきと!」。そんなおじいで暮らしたい。

十年以上前から、毎年何かひとつは新しいことをはじめると決めてきた仲野さん。義太夫もそのひとつ
仲野 徹

なかの・とおる 1957年、大阪府生まれ。元・大阪大学医学系研究科/生命機能研究科・病理学教授。現在は隠居。著書や共著、書籍の監修や監訳も多数。近著に『仲野教授の この座右の銘が効きまっせ!』(ミシマ社)などがある。

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