【フォトエッセイ】星空をめぐる旅、そして物語◎永田美絵——第12回/今年は土星の環が真横になる15年に一度の年 

第12回 今年は土星の環が真横になる15年に一度の年 

「永田さんが好きな星はなんですか?」 
 よく聞かれる質問です。 
 私は迷わず「土星です!」と答えるのですが、それはそもそも私が天文学の道に進むきっかけになったのが土星だからです。 
 学生時代、ボイジャー1号という探査機が次々と惑星を探査し、その中の土星の画像に私は心を奪われました。 
 神秘的な環を持つ土星。宇宙にはこんな素敵な星があるのかと感激し、当時は常に土星の写真を持ち歩いていました。 

ボイジャー1号が撮影した土星 ©NASA

 環がトレードマークの土星は太陽系の惑星の中でも人気の高い星です。 
 土星は肉眼でも見えますから、もちろん昔から知られていました。 
 しかし土星に環があることが発見されたのは、望遠鏡が作られてからのこと。 
 1610年に天文学者ガリレオ・ガリレイは自作の望遠鏡を作って初めて土星に向けました。 
 その時にガリレオは信じがたい姿を見たのです。 

「土星には耳がついている!」 

 ガリレオの作った望遠鏡では、土星の環を見分けることができなかったのです。 
 1655年、クリスティアーン・ホイヘンスは、ガリレオが見た耳は環だったことを確認しました。 
 土星の環は地球からどんな大きな望遠鏡でも詳しい様子を知ることができませんでした。そこでボイジャー1号が土星に接近して人類が見たことのない多くの画像を送ってくれたのです。その土星の画像が、私に天文学の道を開いてくれたのです。 

 土星の環は、地球から見ると30年かけて傾きを変えるように見えます。 
 15年に一度、環が真横に見えるのですが、ガリレオが望遠鏡で土星を見た1610年の2年後の1612年に輪が真横にきました。 
 ガリレオの見た土星は輪が大きく開いていない状態だったのですね。 

 実は、今年2025年はまさに15年に一度の年。 
 11月25日頃に地球から見て土星の環がほぼ真横を向きます。 
 土星の環は幅は広いのですが、厚みが薄いため、真横にくるとほとんど見えなくなります。 
 これを土星の環の消失と呼んでいます。環がトレードマークなのに、環が見えなくなるのです。本当に土星は私たちに不思議な姿を見せてくれます。 

 ところで土星の環はたくさんの氷が集まって本体の周りをまわっています。 
 最近の研究によると、土星の環は本体に少しずつ落ちているそうです。 
 トレードマークの土星の環は、あと数億年後に消滅し、水素の塊の惑星になるのでしょうか。そう考えると土星の環は今の時代だけのものかもしれません。 

 土星は環があるからこそ、という気がしますので、遠い将来、環が消えるという話はとても寂しい気がします。ですが、それはずっと先のことですから、今は環があるかわいい土星を楽しみましょう。 

 今は土星が見ごろです。 
 日没後東に見え、真夜中に南、明け方には西。 
 まるで私たちをずっと見守ってくれているようです。 
 みなさんも土星を見つけてみてください。 

毎回、素晴らしい写真を提供してくれる「旅する星空解説員」の佐々木勇太さんが、なんと東京・渋谷のビルの屋上から望遠鏡で撮った木星と土星(右)。土星の環は、左右にはみ出るように見えている  

写真提供=「旅する星空解説員」佐々木勇太

永田 美絵

ながた・みえ コスモプラネタリウム渋谷チーフ解説員。東京・品川生まれ。東京理科大学理学部物理学科卒業。キャッチフレーズは「癒しの星空解説員」。2000年からNHKラジオ第一『子ども科学電話相談』の「天文・宇宙」の回答者を務める。ご自身の名がついた小惑星(11528)Mie がある。著書に『カリスマ解説員の楽しい星空入門』(ちくま新書、2017年)など、監修に『小学館の図鑑NEO まどあけずかん うちゅう』(小学館、2022年)、『季節をめぐる 星座のものがたり 春』(汐文社、2022年)などがある。 コスモプラネタリウム渋谷の公式ホームページはこちら

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