第2回 星から生まれた私たち
天文学は、人間が地球に生まれ、最初にできた学問とも言われています。
人類は長い時間をかけて、宇宙の謎を解き明かしてきました。その中でも永遠のテーマが「私たちはどこから来たのだろう?」だと思います。
私が天文学を勉強する中で一番感銘を受けたのは、この答えを星が教えてくれたことでした。
私たちと星との繋がりはとても深いものです。
すべてのものは細かく分けていくと元素でできています。地球上にあるすべてのものは元素の集まりですが、その元素はいったいどこからやってきたと思いますか?
それは星が作り出したのです。
宇宙には星間ガスと呼ばれるものがたくさんありますが、特に水素が宇宙の中でも最も多い元素です。
そんな水素などのガスが集まっていくと、さらに多くのガスを集めていきます。ガスが集まると中心の温度が上昇し、1000万度を超えると水素をヘリウムに変える核融合反応が起こります。
これが星の誕生です。
太陽くらいの重さの星は核融合反応により水素からヘリウムを作り出しエネルギーを出しています。太陽の寿命は100億年くらいですから、あと50億年ほどは今と同じように輝き続けます。しかし、やがて燃料になる水素がなくなっていくと、次第に不安定になり、最後は輝きを失って一生を終えます。
しかし質量が大きな星は核融合反応が進み炭素や窒素、そして鉄までを星が作ります。鉄は非常に安定した元素なので、これ以上核融合反応は進みません。
しかし年をとった非常に重たい星は、最後に大爆発を起こします。これが超新星爆発。この時に星のカケラが宇宙に放たれ、さらに重たい元素ができます。
こうして星は一生の中で、さまざまな元素を作り出し、やがて宇宙空間にさまざまな元素を散らしていくのです。
こうした元素が集まって今から50億年ほど前に太陽が誕生しました。太陽になり切れなかったガスや岩石が集まり地球や他の惑星が誕生しました。
そして星が作り出したものはそれだけではありません。
みなさんのからだの中には骨の中にカルシウム、血の中には鉄が含まれていますが、それも元を正せば星が作ったもの。
そう考えると私たちと星は深い繋がりがあることがわかり、さらに私たちはみんな星から生まれたといえるのではないでしょうか。
星は輝きながら次の世代の星の材料を作り上げています。
その材料であるあらゆる元素は、次の世代へと繋がっていくのです。
私たちはみんな星から生まれて星にかえっていく。だからこそ、今ひとときを精一杯生きることが大切だと思えるのです。宇宙を知ることは、地球を知り、その中で生きる私たちの命の大切さを知ることでもあります。
みなさんの命は、遥か昔に星が作り出した星のカケラでできていて、命を繋げているのです。
みなさんが今ここにいる確率を数学的にいうと10の4万乗分の1だそうです。例えればバラバラに壊した時計の部品をプールに投げ入れて、その部品が水の流れだけで元に戻る確率だそうです。
私たちの身の回りの全てが奇跡。これを知って本当に今戦争が必要だと思うでしょうか? 私は天文学が教えてくれた地球の素晴らしさや命の素晴らしさを、もっと知ってほしいと願っています。
ながた・みえ コスモプラネタリウム渋谷チーフ解説員。東京・品川生まれ。東京理科大学理学部物理学科卒業。キャッチフレーズは「癒しの星空解説員」。2000年からNHKラジオ第一『子ども科学電話相談』の「天文・宇宙」の回答者を務める。ご自身の名がついた小惑星(11528)Mie がある。著書に『カリスマ解説員の楽しい星空入門』(ちくま新書、2017年)など、監修に『小学館の図鑑NEO まどあけずかん うちゅう』(小学館、2022年)、『季節をめぐる 星座のものがたり 春』(汐文社、2022年)などがある。 コスモプラネタリウム渋谷の公式ホームページはこちら