第6回 ヘルクレスの冒険星座
宵空に見える、かに座、しし座、うみへび座、東の空からはヘルクレス座。これらは全てヘルクレスの冒険神話に出てくる星座です。
ヘルクレスとはギリシャ一の力持ち。ふつうヘラクレスと呼ばれますが、星座名はヘルクレス座といいます。
ヘルクレスは大神ゼウスと人間の王女アルクメネの間に生まれた子どもでした。ゼウスにはヘラという妻がいたので、ヘルクレスは浮気相手の子。これに腹を立てたヘラは生まれたばかりのヘルクレスに毒蛇を贈るのです。しかし赤ん坊のヘルクレスは、片手で毒蛇を握りつぶしてしまいます。
ヘラはヘルクレスに恨みを抱き、成長してから十二の怪物退治に出かけるよう仕向けます。
最初の冒険はネメアの谷の人食いライオン退治でした。
村人は人食いライオンに襲われるため大変困っていました。力自慢のヘルクレスは、最初こん棒でライオンの頭を叩くのですが、こん棒は真っ二つに折れてしまいました。そこでヘルクレスは素手で戦いました。ぎゅうぎゅうと首を絞め、三日三晩かかって、ようやく人食いライオンを退治することができました。
その後ヘルクレスはうみへび退治に出かけました。
このうみへびはヒドラという九つの頭を持つ化け物でした。ヘルクレスは、剣でヒドラの首を切り落としますが、なんと切った首の付け根から新しい首がいくつもはえてくるのです。ヒドラの首は何十本にもなりヘルクレスに襲い掛かってきました。
ヘルクレスはこん棒に火をつけ、切った首の付け根を焼いていきました。焼かれた首からは新しい首がはえてきません。ところが、ようやく首は最後の一本になったのですが、この首は不死身。そこでヘルクレスは大きな岩をヒドラの頭に落とし、ようやく退治することができました。
そんな様子を物陰から見ていたのがカニでした。
カニはヘルクレスの足もとにやってきて足を切ろうとするのですが、ヘルクレスは大きな足でカニをふみつぶしてしまいました。こうしてカニはあっという間にやられてしまいます。
さて、かに座のみなさん。この話、どう思われますか?
実は私はかに座生まれなので、小さいころ、この神話を読んだ時、がっかりしました。かに座がかっこ悪く思ったのです。そんな思いがあったからでしょうか、プラネタリウムでかに座の話をすることが、少し申し訳ないような想いになっていました。
ところがある時、プラネタリウムを見た学生の方がこんなことを言ってくださいました。
「私、かに座生まれなんですが、かに座で本当に良かったです!」
「どうしてですか?」
「だって、かに座って友だち思いのいい星座じゃないですか!」
確かに仲間であるヒドラを助けるためにヘルクレスに挑みかかったカニ。自分の命をかけてまで仲間を助けようとしたのですから、いいカニです。それ以来、私は、かに座は友だち想いのいい星座と解説しています。
かに座は、春の夜空の中で、仲間のしし座、うみへび座とともにひっそりと輝いています。


写真提供=「旅する星空解説員」佐々木勇太

ながた・みえ コスモプラネタリウム渋谷チーフ解説員。東京・品川生まれ。東京理科大学理学部物理学科卒業。キャッチフレーズは「癒しの星空解説員」。2000年からNHKラジオ第一『子ども科学電話相談』の「天文・宇宙」の回答者を務める。ご自身の名がついた小惑星(11528)Mie がある。著書に『カリスマ解説員の楽しい星空入門』(ちくま新書、2017年)など、監修に『小学館の図鑑NEO まどあけずかん うちゅう』(小学館、2022年)、『季節をめぐる 星座のものがたり 春』(汐文社、2022年)などがある。 コスモプラネタリウム渋谷の公式ホームページはこちら
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