第7回 春の夜空は宇宙の窓
草花が咲き、日ごとに日の入り時刻が遅くなってくると、春の星座が夜空を飾ります。
春の夜には北斗七星が北の空高くにのぼり、南の空にはしし座やおとめ座が輝きます。
そんな春の夜空は「宇宙を見る窓」と呼ばれます。
なぜなのかというと、春の夜空には天の川が通っていないからです。
私たちが見ている星座の星は太陽と同じ仲間の恒星ですが、宇宙全体から見ると地球の近くにある星です。近いと言っても何光年、何十光年の距離ですが、一つの星として見えるだけでも近くにある星です。
遠くの星はどう見えるのかというと、一つの星ではなく、星の集まりとして見えます。たとえば近くにある木が一本ずつ見えるのに対して、遠くの木の集まりが山として見えるようなもの。この山にあたる遠くの星の集まりが天の川です。
天の川は2000億個以上の恒星の集まりです。そしてこの集まりは、私たちがいる太陽系も含む天の川銀河の星です。
太陽系は天の川銀河の中心から約2万7千光年離れた場所を周っています。
天の川銀河は上から見ると渦巻型ですが、横から見ると平たい形をしているので、太陽系から遠くの星を見ると平たい帯のようなものが続いて見えます。
天の川が帯状に見えるのは、私たちが地球から天の川銀河の遠くの星を見ているためなのです。
夏の夜空や冬の夜空には天の川が横断しているため、天の川の星々に遮られてさらに遠くの星を見ることができません。
ところが天の川が通っていない春の夜空は遠くの星を見ることができるのです。
遠くの星とは天の川銀河の外側にある別の銀河、星の集団です。
北斗七星を持つおおぐま座やおとめ座、しし座などの方向には銀河が無数にあります。 おおぐま座のうずまき銀河M81や不規則銀河M82、2000個ほどの銀河が集まっているおとめ座銀河団など春の星座の方向には多くの銀河があります。
2017年にはおとめ座銀河団の中のM87銀河の中心にあるブラックホールの撮影に成功しました(2019年公開)。
撮影したのはいろいろな国の天文学者が参加した国際協力チーム「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」。
地球上の八つの電波望遠鏡を使って同時にブラックホールを撮影しました。
実はどの銀河の中心にも巨大なブラックホールがあることがわかってきました。
もちろん私たちの天の川銀河の中にもあり、EHTは2022年にいて座A*(エースター)の画像を発表しています。
私たちは巨大な星の集まりである銀河の中にいます。
宇宙には銀河が数千億以上あり、調べれば調べるほど宇宙は広く、謎に満ちています。
私たちが日々生きている中では、あまりに遠くかけ離れた世界かもしれません。
しかし、私たちは今そんな世界に生きているのです。
夜空を見上げ、遠い銀河に想いを馳せてみるのもいいかもしれません。

星の軌跡の写真は、宇宙を覗く「窓」のよう
写真提供=「旅する星空解説員」佐々木勇太

ながた・みえ コスモプラネタリウム渋谷チーフ解説員。東京・品川生まれ。東京理科大学理学部物理学科卒業。キャッチフレーズは「癒しの星空解説員」。2000年からNHKラジオ第一『子ども科学電話相談』の「天文・宇宙」の回答者を務める。ご自身の名がついた小惑星(11528)Mie がある。著書に『カリスマ解説員の楽しい星空入門』(ちくま新書、2017年)など、監修に『小学館の図鑑NEO まどあけずかん うちゅう』(小学館、2022年)、『季節をめぐる 星座のものがたり 春』(汐文社、2022年)などがある。 コスモプラネタリウム渋谷の公式ホームページはこちら
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