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【フォトエッセイ】星空をめぐる旅、そして物語◎永田絵美——第4回/春の星座を想う

第4回 春の星座を想う

 冬の星座が西空に沈むと、春の星座が東からのぼってきます。 
 みなさんは季節を星空で感じることがあるでしょうか? 
 冬の夜空は星座の中でも代表的なオリオン座がありますので、オリオン座を見て冬を感じるという方もいらっしゃるかもしれません。 

 春はいかがでしょうか? 
 たいてい、春の星座って何があるの?と言われてしまいます。 
 しかし春こそ、昔の人が神話の中に季節の目印を入れ込んだものがあるのです。 

 その代表的な星座がおとめ座です。 
 おとめ座は、ギリシャ神話で農業の女神デーメーテールの姿。 
 デーメーテールは一人娘のペルセフォネと仲良く暮らしていましたが、ある日花摘みに行ったペルセフォネを黄泉の国の王ハデスがさらってしまうのです。 
 ハデスはペルセフォネの美しさに惹かれ、無理やり黄泉の国の妃にするためにペルセフォネをさらったのでした。 

 いきなり娘がいなくなってしまい、デーメーテールは地上を探し回りました。 
 しかしいくら探してもペルセフォネは見つかりません。 
 やがて噂でハデスがさらったことを知ったデーメーテールは二度と娘に会うことができないと嘆き悲しみました。そして地上から姿を消してしまったのです。 
 デーメーテールは農業の女神でしたから、姿を消すと地上は冬になり農作物が一切実らなくなりました。 

 人々は食べるものがなくなり大変なことになりました。 
 この様子を見ていた大神ゼウスは、事態を重く見てハデスにペルセフォネをすぐに帰すよう命令しました。 
 さすがのハデスもゼウスの命令を無視することはできません。いやいやながらもペルセフォネを帰す約束をしました。 

 いよいよペルセフォネが帰る日になりました。 
 母デーメーテールにまた会えると喜んでいるペルセフォネにハデスはザクロを渡すと「途中喉がかわいたら食べると良い」と優しい言葉をかけました。 
 ペルセフォネは途中ザクロの実を四粒食べました。 

 地上に戻って二人は涙を流しながら再会を喜び合いました。 
 しかしハデスが持たせたザクロの実の話を聞いた途端、デーメーテールは嘆き悲しみました。実は黄泉の国には、そこでの食べ物を口にした者はその数だけ黄泉の国で暮らさなければならない掟があったのです。 
 そのため、今でも一年のうち四ヵ月は黄泉の国で暮らさなければならないペルセフォネ。 
 その間、デーメーテールは悲しみのあまり姿を消すため、今でも地上は冬になるという神話が残っています。 

 おとめ座がのぼってくると地上には春がやってきます。 
 神話に登場するしし座や、冬ごもりを終えたおおぐま座も夜空にのぼっています。 

春の星座たち。おおぐま座、しし座、乙女座

 春の夜空は春を待ち望んでいる星座たちで溢れているのです。 

おとめ座の2枚の写真は、旅する星空解説員・佐々木勇太さん提供 
永田 美絵

ながた・みえ コスモプラネタリウム渋谷チーフ解説員。東京・品川生まれ。東京理科大学理学部物理学科卒業。キャッチフレーズは「癒しの星空解説員」。2000年からNHKラジオ第一『子ども科学電話相談』の「天文・宇宙」の回答者を務める。ご自身の名がついた小惑星(11528)Mie がある。著書に『カリスマ解説員の楽しい星空入門』(ちくま新書、2017年)など、監修に『小学館の図鑑NEO まどあけずかん うちゅう』(小学館、2022年)、『季節をめぐる 星座のものがたり 春』(汐文社、2022年)などがある。 コスモプラネタリウム渋谷の公式ホームページはこちら