【フォトエッセイ】星空をめぐる旅、そして物語◎永田絵美——第5回/地動説と天動説

第5回 地動説と天動説

 最近話題になった『チ。―地球の運動について―』(小学館)という漫画があります。 
 手塚治虫文化賞マンガ大賞をはじめ数々の賞を取り、アニメ化され、今年3月までNHKで放送されていました。 
 この漫画は地動説を証明するために命をかけた人たちの物語です。 

 天動説と地動説、みなさんは聞いたことがありますか? 
 古代の人々は宇宙の中心は地球で、その周りをすべての星が回っていると考えていました。これを天動説と言います。 
 実際、夜空を見ると太陽は朝、東からのぼり西へ沈んでいきます。 
 月も星も同じように天を西から東へと動きます。しかし私たちがいる地球の大地は止まっているように感じます。 

 現代の私たちは知識として宇宙の中心は地球でないことを知っていますから、地球が宇宙の中心と考えていたなんてと笑うかもしれません。 
 しかし実際、みなさんは地球が動いていることを証明できますか? 
 地球が止まっていて、その周りを星が回っていると考えるほうが自然だったことは理解できます。 

 古代から多くの天文学者が星を観測し、正しい宇宙の姿を考えてきました。 
 実は太陽の周りを地球が回る地動説は、案外古くから考えられていました。 
 古代ギリシャのアリスタルコスは太陽を中心とした太陽系の姿を唱えていたのです。 
 しかしなぜ地動説が受け入れられなかったのか、というと2世紀の天文学者プトレマイオスが考えた宇宙の姿が、当時の観測結果と非常に合っていたからです。 

 天動説の弱点は惑星の動きでした。 
 惑星は夜空を行ったり来たり不思議な動きをします。特に火星は不気味にも、止まったり、西から東へ動いたかと思うと東から西へ戻ったりするのです。 
 この動きをプトレマイオスは、惑星は地球の周りを回りながら、さらに惑星自身も円を描いて回ると考えました。これを周転円説といいます。 

 当時は望遠鏡が発明されていない時代ですからすべて肉眼観測。 
 それでも天文学者は相当な精度で星を観測し、多少の誤差はあっても、地動説より誤差が少なかった天動説の考えが正しいと判断したのです。 

 長い間常識だった天動説の考えが少しずつ崩れてきたのは16世紀ころでした。 
 ガリレオ・ガリレイ(1564-1642)は自作の望遠鏡を使って惑星を観測し、宇宙の中心は太陽だと考えて発表しました。しかしこの時代のローマ・カソリック教会の考えは天動説。ガリレオは異端とされ軟禁されてしまいます。 

 同じ時期に登場したドイツの天文学者ヨハネス・ケプラー(1571-1630)は、数学を使い宇宙の姿を解き明かそうとしました。ケプラーは膨大な観測データをもとに数年にも及ぶ天文計算をして、地球は太陽の周りを一つの焦点を中心に楕円軌道を描いて公転していることをつきとめました。 
 昔の地動説が観測結果と合わなかったのは楕円軌道でなく円軌道で計算していたためだったのです。 

 宇宙観を根底から変える大発見を成し遂げたケプラーですが、残念ながらケプラーの一生は暗く、どこに埋葬されているのがわかっていません。 
 教会がガリレオの裁判が間違っていたと訂正したのは1992年、実はつい最近のこと。 
 私たちは今の時代、すべてわかっていると思いがちですが、百年後の未来人から見たら、そんなふうに考えていたのか、なんてと笑われるかもしれません。 
 大切なのは、大勢の人が言うから正しいのだと思いこまず、自分の中で真実を探求することかもしれませんね。 

『チ。―地球の運動について―』(小学館)
「近代科学の父」「天文学の父」と呼ばれる
ガリレオ・ガリレイ 
1636年の肖像画(ユストゥス・スステルマンス 画) 
ヨハネス・ケプラー
天体の運行法則に関する「ケプラーの法則」を唱え、
天体物理学の先駆者といわれる 
永田 美絵

ながた・みえ コスモプラネタリウム渋谷チーフ解説員。東京・品川生まれ。東京理科大学理学部物理学科卒業。キャッチフレーズは「癒しの星空解説員」。2000年からNHKラジオ第一『子ども科学電話相談』の「天文・宇宙」の回答者を務める。ご自身の名がついた小惑星(11528)Mie がある。著書に『カリスマ解説員の楽しい星空入門』(ちくま新書、2017年)など、監修に『小学館の図鑑NEO まどあけずかん うちゅう』(小学館、2022年)、『季節をめぐる 星座のものがたり 春』(汐文社、2022年)などがある。 コスモプラネタリウム渋谷の公式ホームページはこちら

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