【フォトエッセイ】星空をめぐる旅、そして物語◎永田美絵——第19回/南十字星を追いかけて

第19回 南十字星を追いかけて

 南十字星は北半球に住む人々にとって憧れの星ではないでしょうか? 
 四つの星が十字架の形に並んでいるのですが、1等星が二つ、2等星が二つの十字なので、たいへん目立って見えます。 
 南十字星(サザンクロス)は、みなみじゅうじ座という一つの星座です。八十八ある星座の中では最も小さいのですが、南半球の星座としては堂々人気第一位です。 

「南の島に南十字星を見に行く」なんて、聞いただけでロマンティックな気がします。日本でも南十字星は見ることができるのですが、残念ながら石垣島や宮古島、小笠原諸島など限られた場所でしか見ることができません。 
 見られる時期も限られます。いつがいいのかというと四月から五月がおすすめです。 
 日本からは、どんなに頑張っても地平線近くの低い空でしか見ることができません。十二月~三月ならば深夜から日の出前の空。七月~十一月ころは、そもそも夜空に昇ってこないので見ることができません。 
 日没後に昇ってきて、宵空で見られるのは四月~六月中旬なので、まさに今がおすすめです。 
 夏休みに沖縄に行って、南十字星を見ようと計画をされている方がいれば、一刻もはやく計画を変更してください。見えませんので。 
 夏休みに南十字星を見たい方は、思い切って南半球まで行きましょう。 

 そもそも南十字星は、南半球で見上げると天の南極方向を教えてくれる星。天の南極方向とは、地球の地軸を南へ伸ばした方向で、北半球で天の北極方向に位置しているのは北極星です。 
 もしも天の南極方向に星があれば「南極星」と名付けられたでしょうが、星がないため、南十字星を使って特定していました。 
 南十字星の縦の星の距離を4.5倍南へ伸ばした場所が天の南極方向です。その真下が真南。昔の船乗りはこの情報を知って、航海をしていたのです。 

 私は成人式を迎える前、父から「成人式の着物と海外旅行とどちらがいい?」と聞かれ、海外旅行と即答しました。もともと窮屈な晴れ着を着ることが苦手ということもありました。きっと私が好きな場所に連れていってくれるのだろうと考え、イギリス、フランス、エジプトもいいかも、などと思っていました。 

 しかし父は、行き先を自分が行きたいジャワ島ボロブドール遺跡に決め、予約をしていました。これは私の成人式のお祝いなのか? と当時は憤慨しましたが、たまには父との二人旅もいいかとあきらめ、ボロブドール遺跡へと旅立ったのです。 
 ボロブドール遺跡は、ジャワ島のジョグジャカルタ郊外にある寺院で、八世紀後半から九世紀前半にかけて建立されたと言われる世界最大級の仏教遺跡です。 
 千年も火山灰に埋もれていたのですが、1814年、上部の一部が発見され、掘り出してみると一辺120メートルの正方形、高さ40メートル近くの遺跡が出てきたのです。 
 仏像が各所に配置され、壁にはブッタの人生を伝えるレリーフが彫られている。それはそれは圧倒される遺跡でした。 

 私はそこで必ず南十字星を見ると心に誓っていました。しかし当時の私は、星は好きでしたが、南半球の星座の位置をしっかり把握していたわけではありません。そこで夜の観光に出かけた時に、現地のガイドさんに、「南十字星はどれですか?」と聞きました。ガイドさんは、躊躇することなく「あれですよ」と星を指さしました。私は感動し、南の空を見上げていたのです。 
 旅行から戻り、私はプラネタリウムでアルバイトをするようになるのですが、そこで初めて自分が見てきた星が南十字星ではないことに気がつきました。ジャワ島で見たのは、さそり座の横、いて座付近の星で、日本からも見える星でした。 

 大学四年になる前の春休みに、イギリスに短期留学をしたのですが、節約旅行のため南周りの飛行機を利用しました。そこで私はとうとう南十字星を見るのです。飛行機の窓から、くっきりと見えた美しい南十字星。この時の感動は今も忘れません。一人旅でしたが、思わず隣の席で寝ている知らない男性に、「南十字星が見えてますよ!」と声をかけ、起こしてしまいました。 
 その後、各地で南十字星を見る機会に恵まれましたが、やはりあの飛行機の窓から見えた南十字星は今でも忘れられません。 
 南十字星を見る機会を、ぜひみなさんもつくってみてくださいね。

写真提供=佐々木勇太(旅する星空解説員) 
南十字星の位置はこちら 
永田 美絵

ながた・みえ コスモプラネタリウム渋谷チーフ解説員。東京・品川生まれ。東京理科大学理学部物理学科卒業。キャッチフレーズは「癒しの星空解説員」。2000年からNHKラジオ第一『子ども科学電話相談』の「天文・宇宙」の回答者を務める。ご自身の名がついた小惑星(11528)Mie がある。著書に『カリスマ解説員の楽しい星空入門』(ちくま新書、2017年)など、監修に『小学館の図鑑NEO まどあけずかん うちゅう』(小学館、2022年)、『季節をめぐる 星座のものがたり 春』(汐文社、2022年)などがある。 コスモプラネタリウム渋谷の公式ホームページはこちら

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