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【BOOKS】シルヴィア・プラス著『ベル・ジャー』◎澤一澄

欧米でベストセラーとなった、早逝した詩人の伝説的小説

 シルヴィア・プラスはアメリカ出身の詩人で小説家。だが、その創作期間は短い。1932年ボストン生まれ。成績優秀で、詩と小説で早くから才能を芽吹かせた。

 大学卒業後イギリスに留学。のちのイギリスの桂冠詩人テッド・ヒューズと結婚。1960年のデビュー作の詩集は高い評価を受けた。ヒューズとの間に二人の子どもをもうけるも二年で離婚。1963年に別名で小説『ベル・ジャー』をイギリスで発表するが、評価されなかった。一年後、ガス自殺で逝去。三十年の短い人生を終えた。

 だが『ベル・ジャー』は、1971年にシルヴィア・プラスの名でアメリカで刊行されると、すぐベストセラーになった。1982年には彼女の詩集がピューリッツァ賞詩部門を受賞した。シルヴィア・プラスの評価はその死後に高まったが、残した作品は少ない。

『ベル・ジャー』はシルヴィア・プラスが心のうちを語った、ほぼ私小説。人物は名を変えてある。シルヴィア・プラスの小説での名はエスター・グリーンウッド。大学で優秀な成績を取り、将来は詩人や作家になって成功することを夢見ている。

 小説ではエスターの十九歳の夏から二十歳の冬の間の挫折と懊悩を綴る。エスターは大学の夏休み中、女性向け文芸誌の企画に応募してニューヨークへ赴く。その企画にはエスターのように物語や詩を書いて成功することを夢見る女性たちが集まっていた。女性たちは出版社が提供するショーやパーティなどを楽しみ、一方、編集者は彼女らが未来の書き手になり得るかを精査する。
 エスターは、大都会ニューヨークに混乱する。おしゃれで奔放な女子大学生に誘われて、夜の街に繰り出す。二人は見知らぬ男たちにナンパされるが、エスターは逃げだしてしまう。
 キャリアを築くこともうまくいかない。敏腕編集者からエスターは、あなたは将来何をやりたいの、と訊かれて言いよどんでしまう。以前なら、私は書く仕事がしたいです、とはっきり言えたのに。

 挫折感にどっぷり落ち込んで帰郷するエスターに、さらに一撃。有名作家の夏期講座に応募していたが不合格だったのだ。彼女は、夢見ていた詩人や作家になって成功する自分を失ったと思い、絶望する。
 将来をどうすればいいか、あてもなく思いつる。エスターは眠れず本も読めず、うつ状態になっていく。そして睡眠薬を過剰に飲んで自殺を図る。が、未遂に終わり精神病院に入院することになる。
 キャリアも良い夫も社会的地位も欲しい。でもひとつを選ぶとほかの全てを失うかもしれない、人生を決めるのが怖い。女性にキャリアを求めるが、結婚しないという選択肢はあり得ない時代。刹那的に行動するエスターは死を想うシルヴィア・プラスに重なる。

 べル・ジャーとは化学や医療で使う釣り鐘型のガラス瓶のこと。シルヴィア・プラスは、透明なガラスに閉じ込められたように、息苦しく感じていたのかもしれない。

『ベル・ジャー』

シルヴィア・プラス 著

小澤身和子 訳

晶文社 2,500円(税別)

澤 一澄

さわ・いずみ 1968年神奈川県生まれ。東海大学大学院博士課程前期修了。専攻は中世アイスランド社会史。出版社勤務を経て司書。公共図書館・博物館図書室・学校図書館勤務のあと、現在介護休業中。アイスランドへ行きたい毎日。写真は、今は亡き愛犬クリス。