【BOOKS】小川晋著/『トラック野郎 50年目の爆走讃歌』◎佐藤康智

東映東京撮影所という交差点 

〝一番星〟こと星桃次郎(菅原文太)が、〝やもめのジョナサン〟こと松下金造(愛川欽也)と、11トンと4.5トン、派手に飾ったデコトラ(デコレーション・トラック)の、ワッパ(ハンドル)をてんでに握りしめ、日本列島西ひがし、街道飛ばして荷を運ぶ。ドライブインでライバルと散らかしまくって大喧嘩。雛[ひな]には稀[まれ]なマドンナに惚れれば背後に瞬く星々。早トチリからすれ違い、実らぬ恋の終わりには、間に合うか否かスレスレの、死に物狂いの荷運びが待っている……。 

 といった感じのストーリーをもつ映画『トラック野郎』シリーズは、鈴木則文監督により、1975年の『御意見無用』から1979年の『故郷特急便』まで、全十作がつくられた。その誕生五十年を記念し、関係者総勢四十五名のインタビューをまとめたのが本書である。 

 これまで出版されたこの映画の関連本と比べ、本書の特長は、メインどころの俳優だけでなく、バイプレイヤー的な俳優や、裏方となるスタッフたちへの取材が極めて豊富なことだ。主役の菅原文太にはじまる俳優編では、たとえば、恰幅の良いトラッカー役で印象に残る佐藤晟也や、ジョナサン一家の次男を演じた当時子役の梅津昭典らが、脇役ならではの貴重な逸話を明かしている。スタッフ編も、撮影担当だった中嶋徹にはじまり、美術、スチール、衣装、助監督、撮影助手、照明助手、撮影所長、営業部長、宣伝部、惹句師、撮影協力のデコトラ愛好グループ哥麿[うたまろ]会、等々と、幅広い。 

 著者はたいてい、各人の生い立ちから聞き書きをはじめる。めいめいの〝道〟を歩んできた多士が、東映東京撮影所の『トラック野郎』という〝点〟で〝交差〟する、という、主題歌「一番星ブルース」の歌詞を想起させるような作りが素敵だ。ちなみに主題歌を制作した宇崎竜童と阿木燿子も、菅原文太のレコーディング秘話をそろって語っている。 

 年齢的に公開当時の盛況を知らない私が『トラック野郎』にハマったのは、度を越した下ネタを含む、底抜けギャグの数々にあてられたこともさることながら、やたら私の故郷である岩手(花巻)が出てきて、嬉しくなったのが大きい。第一作『御意見無用』は渋民村が舞台だし、第八作『一番星北へ帰る』では花巻が舞台になる。桃次郎は紫波郡にあったとされる「蟹澤村」(架空の地名)出身だし、かつて交通警察官だったころのジョナサンの仇名は〝花巻の鬼台貫[だいかん]〟だ。親近感を覚えずにいられない。 

 だから、古きよき故郷の風景と思って観ていたシーンの幾つかが、実は関東でロケされていたと知り、ちとがっかりしたが、まあそれが映画のマジックってものだろう。 

 反面、制作進行の瀬戸恒雄が回想する、第三作『望郷一番星』の札幌時計台のくだりのように、マジックではごまかせないシーンもある。運搬のギリギリ感を演出すべく、午後5時55分をさす札幌時計台の前を横切る桃次郎のデコトラ〝一番星号〟の画[え]が欲しい。今だったらCGでいかようにも処理できるだろうが、当時は実際に現地を走らせ、時間ぴったりにフィルムに焼きつけなければならない。映画で観ると、たった数秒の場面なのだが、その一瞬のため、大通りを必死でクルマ止めしたという体験談にヒリヒリさせられた(杉作J太郎・植地毅編著『トラック野郎 浪漫アルバム』所収の、助監督と脚本を担当した澤井信一郎へのインタビューと併せ読むとなおさらに)。 

 本作に限らず、二本立て興行時代の量産映画全般に通じる話ではあろうが、とにもかくにも時間に追われ、逼迫[ひっぱく]した状況下で作業した思い出を語るスタッフが多い。第一作からして、現像所から完成プリントが映画館に届いたのは、封切り当日、上映開始時刻の、わずか十五分前だったそう。 

 録音技師の林鑛一いわく「一番星号が劇中のラスト、ボロボロの姿で市場へ滑り込むように、毎回我々も限界スレスレで作品を完成させていたんです」 

 映画を観て爆走するトラックから吹いてくる熱風は、フィルムの裏側からも届けられていたのだ。 

トラック野郎 50年目の爆走讃歌

小川晋 著  

立東舎   3300円(税込) 

佐藤康智

さとう・やすとも 1978年生まれ。名古屋大学卒業。文芸評論家。 2003年 、「『奇蹟』の一角」で第46回 群像新人文学賞評論部門受賞。その後、各誌に評論やエッセイを執筆。『月刊望星』にも多くの文学的エッセイを寄稿した。新刊紹介のレギュラー評者。

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