【BOOKS】沢田俊子 著/『サバンナで野生動物を守る』◎松永裕衣子

〝異次元〟をガイドする仕事

 南アフリカ共和国で、日本人女性唯一のサファリガイドとして働く太田ゆかさん。彼女の活躍についてはネット上はもちろん、テレビやラジオ、新聞・雑誌などのメディアでもたびたび取り上げられ、著書『私の職場はサバンナです!』 は2024年度の高等学校課題図書に選出、さらに今年度の中学校教科書にも掲載されており、とりわけ若い人たちにとってなじみ深い存在となっている。 

 彼女ひとりの活動によって、日本でも多くの人が遠いアフリカの地でのサファリツアーに興味をもつようになったのは稀有な出来事といえるが、実際に行われている日本人向けのツアーの内容にはさらに驚かされる。サバンナを歩いて体験する「野宿トレイルツアー」、サファリガイドを目指す人と同じハードな訓練を体験できる「スタディツアー」、太田さんがふだん活動しているクルーガー国立公園を彼女自身がドライブしながら生中継する「バーチャルサファリツアー」……。そこでは、ふだん私たちがよく目にする野生動物の自然番組や、人工的なサファリツアーで得られる情報・体験とはまったく違う、異次元の空間が広がっているのだ。 

〈サファリカーに乗っていると自然を観察する立場になりますが、同じサバンナの大地を歩いた瞬間、あなたは自然界の一員になります〉(オフィシャルサイト Yuka on Safariより)と、太田さんは語る。野宿ツアーやバーチャルツアーの様子については、上記サイトやYouTubeでも動画が配信されていて、興味がある人はいつでも見られるし、本書では八泊九日のスタディツアーの様子がくわしく紹介されている。ここでもハイライトはやはり、寝袋ひとつの野宿体験だ。参加者は交代で一時間の夜番をする。みなが寝静まっているなか、 遠吠えの声が聞こえるサバンナの真ん中で一人きりで過ごすのは、いったいどんな気分だろう。怖くはないのだろうか。 

〈大自然のなかにいる不思議な感覚につつまれます。大昔のくらしを想像する人もいます〉、そう本書の記述は続く。太田さんがいうように、危険と隣り合わせのこの野宿体験は、文明社会のなかで私たちがとうに失ってしまった「人間も動物で、自然の一部」という意識を取り戻 すきっかけとなるのかもしれない。 
 実際、ここまで追いつめられてしまった地球環境を目の当たりにしても、結局人々は自らの欲望を手放せなかったけれど、限られた生息域のなかで必死に生きる動物たちの姿にじかにふれ、彼らと同じ場所に身を置くことで見えてくるものは確かにあるのではないか、と思える。たとえば、野生動物は観察や保護の対象を超えて、いまここで共に生きている仲間なのだ、という感覚が自然に私たちの身の内に芽生えるといったように――。 
 ところで、昨年8月には WEBマガジン「かもめの本棚」(東海教育研究所)において、サファリツアーで体感できる自然の素晴らしさや生きものたちが直面している問題、環境保護への取り組みなど、太田さんへのインタビューを5回にわたり掲載している。多くの示唆に富むこれらの貴重な記事も、ぜひあわせて参照されたい(インタビュー記事はこちらから)。 

サバンナで野生動物を守る 』 

沢田俊子 著  

講談社 青い鳥文庫 858円(税込) 

著者略歴

沢田俊子[さわだ・としこ]  京都府生まれ。ノンフィクションから童話まで小学校初級から中級向けの作品を中心に幅広く執筆している。『盲導犬不合格物語』(学研教育出版)で、第52回産経児童出版文化賞を受賞。(同書は、加筆・修正のうえ講談社青い鳥文庫に収録)。ほかのおもな作品に『目の見えない子ねこ、どろっぷ』『犬たちよ、今、助けに行くからね』(講談社)、『盲導犬引退物語』『犬の車いす物語』(いずれも講談社青い鳥文庫)、『命の重さはみな同じ』『助かった命と、助からなかった命』(いずれも学研教育出版)などがある。日本児童文芸家協会会員。日本ペンクラブ会員。 

松永裕衣子

こちらの本(↑)もおすすめです。 
私の職場はサバンナです!』(太田ゆか著、河出書房新社、2023年) 

まつなが・ゆいこ 1967年東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。千代田区・文京区界隈の中小出版社で週刊美術雑誌、語学書、人文書等の編集部勤務を経て、 2013年より論創社編集長。

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