【連載】トイレ事情を歩く◎石川未紀(世界共通トイレをめざす会) 第7回/視覚障害者の悩み1 「トイレはどこ?」

第7回 視覚障害者の悩み1 「トイレはどこ?」

 今回は、視覚障害者とその介助者・支援者に対しておこなった独自アンケートをもとに、視覚障害者の方のトイレの困りごとについて考えていきます! 

 まず最初にお伝えしたいのは、「視覚障害者=全盲=点字が読める」ではない、ということです。 
 と偉そうに申した私も、全盲の娘が盲学校へあがるまで「視覚障害者の多くは全盲で、一部、ロービジョン(弱視)の方もいる」という認識でした。しかしながら、実際は、視覚障害者のうちの約80%がロービジョンで、その方たちの多くは点字以外の方法で情報を入手しています。 
 ゆえに、視覚障害者全体の点字識字率は10%ほど。つまり、点字があれば「視覚障害者の方への配慮はできている」とはならないのです。 
 ロービジョンの方の見え方は、全体的にぼんやり、視野が欠ける、などそれぞれ違うため、「こうすれば視覚障害者のための配慮は完璧!」とはなりません。もちろん点字も一部の人にしか役に立ちません。

 冒頭のアンケートでは約100名の方にご協力いただきました。それによると、85%の人がトイレに困難を感じています。 

支援者を含めた結果でこの数字! 外出先のトイレの困難さがうかがえる 

 そういう意味でも共通仕様のトイレは、視覚障害者の方にとって大きな安心材料になる、と考えています。 
 また、共通仕様トイレになったら、少しでも外出がしやすくなると答えた人は80%を超えています。 

トイレ個室内のレイアウトに共通性があるほうが外出の際、安心感がある

 目が見える人にとっては、便座の向きが正面でも、横向きでも、あるいは流すボタンが右か左か決まっていなくても、たいした問題ではないかもしれませんが、視覚障害者の方にとっては一大事です! 
 ちなみに、同アンケートによると、視覚障害者の方の約70%は、常に単独、時折単独で外出しています。つまり、一人でトイレを探し、一人で個室で用を足す、そういう視覚障害者のほうが多数派なのです。 

単独で行動する視覚障害者も多い。盲導犬と一緒だとトイレもより困難に 
羽田空港ではほじょ犬と入れる専用トイレも登場。インターフォン式でドアがあく 

 同アンケートによるトイレの困りごとトップ2は、 
「トイレがどこにあるかわからない」 
「流すボタンがどこにあるかわからない」 
 でした。 

 まず、「トイレがどこにあるのかわからない」という問題について考えたいと思います。視覚に障害のない人たちにとっては、駅などの公共トイレ案内は比較的わかりやすく、案内版に沿って行けばいいのですが、そもそもその案内が見えないわけですから、視覚障害の方がトイレまでたどり着くのは簡単ではありません。 

 しかも、駅によってトイレの位置はバラバラ。 
 協力いただいている「トイレ勝手に調べ隊」の水口青さんによれば、東海道線の戸塚、藤沢、辻堂、茅ケ崎、二宮駅などは改札口前の同じような位置にトイレがあるとのこと。なるほど! 位置まで共通だとしたら、視覚障害者にとっては助かるかもしれません。とはいっても、大都市の東京や新宿・渋谷などの駅ではトイレの場所まで統一にするのは現実的ではありません。 

東京駅のトイレは複雑。トイレに入ったはいいが、その後、視覚障害者の方は方向性を見失いそう。
写真はアナログなトイレ案内図 

 東京駅では「視覚障害のある方をサポートしますので、お近くの係員にお声掛けを」というアナウンスもあるそうですが、「お近くの係員がどこにいるのかわからんのでは?」と突っ込みを入れたくもなります。 

時折見かける、人間の身長ほどの大きな男女トイレの案内。
多くの人にわかりやすいが、視野が欠ける人にとっては却ってわかりにくいという指摘もある 

 もし、あなたが戸惑っている視覚障害者の方に声をかけ「トイレに行きたい」と告げられたら……。 
 相手がとても急いでいる様子で、かつあなたに少し余裕があるならトイレの入り口まで送ってあげてもいいと思います。ただ、視覚障害者が異性だったら、「駅係員につなぎますか?」などひとこと声をかけたほうがいいかもしれません。痴漢目的で視覚障害者の方をねらう人もいるらしく、案内する振りをして体を触っていたり、バリアフリートイレに連れ込もうとする卑劣な人間もいます。誤解を防ぐ意味でも、そうした配慮が必要かもしれません。多くの人は親切心から、と思いたいのですが……。 

 視覚障害者の方への配慮として、音声案内やスマホによる道案内など、整備や技術はすすんでいますが、そのことで却って仕組みが複雑になり、使いこなせない人も出てくるでしょう。「声をかけやすい」あるいは、「助けて」と言いやすいソフト面での環境を築いていくことも大切だと考えます。 

 白杖を持っている人が、両手で、白杖を体の中心で掲げていたら「助けて」の合図です。そのときはぜひ積極的に声をかけてみてください。 

白杖を体の中心で掲げていたら声をかけて!

 次回は、視覚障害者の悩み2 「トイレ個室内」迷子問題について!

イベント情報

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石川未紀

いしかわ・みき 出版社勤務を経て、フリーライター&編集者。社会福祉士。重度重複障害がある次女との外出を妨げるトイレの悩みを解消したい。また、障害の有無にかかわらず、すべての人がトイレのために外出をためらわない社会の実現をめざして、2023年「世界共通トイレをめざす会」を一人で立ち上げる。現在、協力してくれる仲間とともに、年間100以上のトイレをめぐり、世界のトイレを調査中。 著書に『私たちは動物とどう向き合えばいいのか』(論創社)。

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