【連載】トイレ事情を歩く◎石川未紀(世界共通トイレをめざす会) 第9回/大阪万博に「オールジェンダートイレ」登場

第9回 大阪万博に「オールジェンダートイレ」登場

 4月に開幕した大阪・関西万博も折り返しを過ぎ、残すところ3ヵ月。多彩なパビリオンやイベントで盛り上がるなか、トイレも何かと話題になっています。 
 若手建築家たちがデザインした8つのトイレが設置されたり、性別に関係なく誰でも利用できる「オールジェンダートイレ」が登場したり、さらには「入口と出口が違うトイレ」が注目されたり……。こうしたトイレはSNSで数多く発信され、メディアでも報道されました。 

 これはやはり自分の目で確かめねば……というわけで、一大決心をして障害のある次女も連れていくことに。 

開幕当初、「入口と出口が違う」と困惑の声が寄せられた「トイレ1」。今は注意書きもあるため混乱はないが、「一回入ってみようか?」という人もいるのか混んでいた。もはやこれも「パビリオン」!?  ちなみに、〝入口から出口までを通り抜けると、開催地・夢洲の生態系を楽しめる〟とのコンセプトで設計されたそう

 万博会場の入口は西ゲートと東ゲートの2ヵ所。この日は西から入り、まずは「アクセシビリティセンター」に立ち寄りました。ここは、車いすや歩行補助器具などの貸し出しをはじめ、筆談や手話による対応といったさまざまな配慮を必要とする人への総合サービス拠点。バリアフリートイレが一番入りやすい手前に並び、その奥に男性、女性用トイレがありました。 

「西ゲートアクセシビリティセンター」のバリアフリートイレ前。清潔感はある。
会場内外のバリアフリートイレのほとんどに介護用ベッドがあるのは画期的。
可動式手すりが左右どちらにあるのか事前に調べられるのもすばらしい

 バリアフリートイレは広々として清潔感にあふれ、介護用ベッドも設置されています。一定のプライバシーを保つとともに人目が多いため悪用される心配もなく、安心して使えます。 

 さて、アクセシビリティセンターを出ると、トイレ状況は一変します。話題となっただけあって若手デザイナーによるトイレは斬新で、「来たぞ!万博」というワクワク感はバッチリです! 中には、近くまで行ってもトイレと認識できないものもありました。 

 そのせいかどうかはわかりませんが、トイレを案内する主催者側も大変だったようです。もともとあった案内に加え、開幕後に説明書きを加えたと思われる張り紙や、案内用の三角コーン(下写真)が置かれていました。 

公式キャラクター「ミャクミャク」がトイレをご案内。開幕後に急いで準備されたようだが、意外と力を発揮!  

 あくまでも私が見た限りですが、イベント会場にありがちな「トイレの前は大行列!」という現場はこの日はほとんどなく、冒頭の写真の「トイレ1」が混んでいるという程度でした。 
 今回の万博でさまざまなタイプのトイレが登場し、話題になったことはうれしい限り。新しいことにチャレンジして賛否両論が巻き起こってこそ「国際博覧会」でしょう。 

 中でも特に注目したのは、「オールジェンダートイレ」の登場です。公式ホームページによればその数108個。ジェンダーについて関心が高まっている2025年の今、これを多いとみるか、それとも少ないとみるか……。 

 実は、万博会場のオールジェンダートイレはあまり使われていないようでした。女性の多くは女性用トイレを利用していましたし、男性小便器のトイレの隣にあったオールジェンダートイレからは、小学生くらいの子どもが「ここは無理」と鼻をつまみながら出てきたのを目にしました。風が抜けにくい場所で、かつ、当日は30度を超える暑さという状況もあったのかもしれません。女性たちが、開放的な造りの女性専用トイレに並んでいたのも少し納得しました。 

オールジェンダートイレの試行錯誤は続く? 

 しかし、オールジェンダートイレがあまり使われていない理由は、それだけではないのかもしれません。実は万博行きの前日、大阪市内にある「まちライブラリー@もりのみやキューズ」で実施されたトイレに関するトークイベントでも、ジェンダーフリーのトイレが話題になりました。 

「カフェや居酒屋などはトイレが一つしかないところもあるのだから男女別にこだわるのはおかしいし、神経質すぎるのでは? 新幹線の車内や飛行機内も男女兼用ではないか」という話に、皆、大いに納得。 
 一方で、「オールジェンダートイレと女性専用のトイレの両方が空いていたらどちらに入る?」という問いには、私も含めた女性全員が「女性専用」と答えました。 

 少し前の話になりますが、私は、東京・渋谷で「オールジェンダートイレ」に遭遇した際にも、一番奥にあった女性専用を使用しました。新宿・歌舞伎町でも「オールジェンダートイレ」が導入されましたが、「安心して使えない」「異性の待ち伏せがあったら怖い」などの抗議が寄せられたため廃止されています。 

 また、車いすユーザーの方からは、「バリアーフリートイレも男女別にしてほしい」との声もあがっていた。「同性しか使用していないほうが安心感があると思うのも自然なのでは」という意見もあり、これにも納得! 

 どのようなトイレを使うかを「本人が選べる」ことが肝要と考えます。この万博をきっかけに、オールジェンダートイレについても大いに議論されることを願います。 

 今回の万博では、トイレが「イベント会場の片隅にひっそりと備えるもの」ではなくなったことにも、新しい扉が開かれていると感じました。さらに、男女別のトイレの数が「女性トイレ>男性トイレ(小便器+大便器)」となっていることも、注目に値すると思います。 

 若手デザイナーの設計によるトイレを使用したのは3ヵ所。内装は個性的ですが、便器はよく見るふつうのタイプでした。
 気になる方は、ぜひ皆さん自身の目で確かめてきてください!  

若手デザイナー設計によるトイレは8つ。すべて探し当てるのは至難の業!? 

 最後に……本題とは関係ありませんが、「アクセシビリティセンター」とか「オールジェンダートイレ」とか、舌をかみそうなカタカナ言葉が多かったように思いました。特に、アクセシビリティセンターは高齢者や障害者など手助けが必要な人が利用するのだから、もうちょっと万人にわかりやすい表現にならなかったのかな? 

【参考】 大阪・関西万博公式ホームページ「トイレ・ベビーケアルーム

石川未紀

いしかわ・みき 出版社勤務を経て、フリーライター&編集者。社会福祉士。重度重複障害がある次女との外出を妨げるトイレの悩みを解消したい。また、障害の有無にかかわらず、すべての人がトイレのために外出をためらわない社会の実現をめざして、2023年「世界共通トイレをめざす会」を一人で立ち上げる。現在、協力してくれる仲間とともに、年間100以上のトイレをめぐり、世界のトイレを調査中。 著書に『私たちは動物とどう向き合えばいいのか』(論創社)。

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