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【連載】トイレ事情を歩く◎石川未紀(世界共通トイレをめざす会) 第3回/座るのか、しゃがむのか、そこが問題だ! 

第3回 座るのか、しゃがむのか、そこが問題だ! 

 日本には大きく分けると「和式」と「洋式」トイレがありますね。 
 今も、公共の場では、和式トイレも少し需要があるようです。 
 使うかどうかはともかく、和式・洋式トイレの使用方法は、ほとんどの方が知っていると思います。そんな日本でも、数十年前までは、公衆トイレの個室内に「洋式トイレの使い方」という張り紙があったそうです。 

 実は、先日、あるカフェのトイレに入ったら、「洋式トイレの使い方」の注意書きがありました。そして、なんと!日本語はありません(入ったのはもちろん日本のカフェです) 。
 英語、中国語、韓国語、そしてピクトグラムで解説が。 

カフェのトイレには日本語のない注意書き!

 私としたことが、世界のスタンダートは、「座るタイプの洋式トイレ」と思い込んでいましたが、実はそうでもないのかもしれません。 
 そんなとき、ヨコタ村上孝之氏の『世界のしゃがみ方 和式/洋式トイレの謎を探る』(平凡社新書)という本に出合いました。 

私のトイレの常識を軽々と覆した一冊!

 詳しくはぜひ読んでいただきたいので、ここではざっくりと。 

 本によるとロシアや東欧圏ではしゃがみ式が主流だというのです。日本の「和式」とは少し形態は違うものの使い方はほぼ一緒です。いわゆる座るタイプの洋式トイレに対して、しゃがみ式のトイレのことを西欧では「トルコ式」と呼ぶそうなので、トルコも同様にしゃがみ式が主流だったのでしょう。 

 もちろん、今は空港やホテルなどでは座るタイプの洋式トイレが主流です。 

 ユニバーサルなデザインはどちらか?と問われると、圧倒的に「座るタイプ」になるでしょうか? 
 実は、フランスに座る式の洋式トイレが導入された時は、直接肌に触れる便座に抵抗を示す人も少なくなかったと言います。日本でも公共の場で和式トイレが存在するのは同様の理由からだと思われます。 

 おそらく空港などを利用してきた外国人観光客の方の多くは、洋式の使い方を知らないのではなく、抵抗があって座らないのではないかと――。 
 座るのに抵抗があるから便座に足を乗せる→汚れる→だから次に入る人も足を乗せる→もっと汚れる、という悪循環が生まれたのではないでしょうか? 

 障害者の方以外にも洋式しか使えない人は増えています。 
 高齢者や、ひざや腰を痛めている方も使えません。若者でも足首がかたくてしゃがめないという人も結構います。 
 ひょっとしたら、世界のスタンダードトイレには、「しゃがみ型」と「座り型」の二種類が必要なのかも?? 

 アンケートによれば、公共のトイレを使う人にとって、「清潔」と「安全」は大事な大事な、二大要素。 
「清潔」の確保は最重要課題でもあるのです。 

トイレに求めるものは「清潔」と「安全」が圧倒的に多い 

 啓蒙すべきは「座り型トイレ」の使い方よりも、「しゃがみ型トイレ(日本の場合は和式トイレ)」の使い方なのかも。これが周知されれば、「肌に触れるのはいや。しゃがむことは問題なし」という人が使うようになりますよね。そうなれば、「座り型」の便座に足を乗せる人もいなくなって、「座り型(洋式)トイレ」の清潔が保たれるのではないか、という淡い期待……。 

 体になんらかの疾患や障害がある人も、今や世界を駆け巡る時代。そういう人が安心して座れる「洋式トイレ」確保のためにも、「和式トイレ」は必要なのかもしれません。 
 ちなみに、2010年に開業した羽田空港第三ターミナルにも和式トイレがありました。もちろん使用方法が説明されています。 

 足腰を鍛えるため、衰え具合を確かめるために、ときどき和式トイレに入ってみるという人もいました。 
 その話を聞いて、私も和式トイレを使ってみました。まだ、いけそうです(笑)。 

 さて、皆さんはどう思われますか? 

石川未紀

いしかわ・みき 出版社勤務を経て、フリーライター&編集者。社会福祉士。重度重複障害がある次女との外出を妨げるトイレの悩みを解消したい。また、障害の有無にかかわらず、すべての人がトイレのために外出をためらわない社会の実現をめざして、2023年「世界共通トイレをめざす会」を一人で立ち上げる。現在、協力してくれる仲間とともに、年間100以上のトイレをめぐり、世界のトイレを調査中。