第2回 トイレの「合理的配慮」とは?
最近、全盲の娘とハーフマラソン大会の「ファンラン」というコースに参加しました。 毎年、沿道にはたくさんの応援の人!
障害者の娘を好奇な眼で見る人は誰もいません。走行距離も1キロ弱とあって、楽しい!楽チン!と、調子に乗っちゃった親が、毎年エントリーしています(笑)。
娘はそのコースの「障害者枠」で申し込みました。募集は全体の10パーセント。 ちなみにハーフマラソンにも障害者枠があり、こちらは募集全体の2パーセント。
あらかじめ配布されていたパンフレットには、近隣のコンビニなどのトイレは使用禁止。仮設トイレを使用するように注意喚起しています。トイレの位置などは地図に示されていましたが、「和式」なのか「洋式」なのか、「バリアフリートイレ」はどの位置にあるのか、という情報は見つけられませんでした。
大会当日。私が実際に中を見たトイレはステップ型の和式でした。男女兼用や男性用、女性用、洋式や和式の別、それらがそれぞれのトイレの扉にピクトグラムと英語で表示されていました。
人でごった返していたので、隅々までチェックできませんでしたが、見渡す限り、バリアフリートイレは見当たりません。本来なら、障害のある出場者の割合に合わせて、バリアフリートイレも完備すべきでは!?
障害者差別解消法(2024年4月1日施行)には、「障害がある人への『不当な差別的取扱い』を禁止し、『合理的配慮』及び『環境の整備』を行う」とあるぞ!と、ちょっと憤りました。
当事者と話し合ってこその「配慮」
憤っておいて、何ですが‥‥‥。
昨今、当事者(の親、支援者)からの声に対し、おもてなしの心がある日本人は、ついつい過剰な「合理的配慮」をしがちです。
障害者のランナーを募集する以上、配慮は必要だし、当事者の声に耳を傾けるべき。ただ、誤解を恐れずにいうのなら「当事者の声」をすべて聞き入れるのではなく、「落としどころ」を話し合うことが大事なんだと私自身は思っています。
結局は、それがお互いにとって、居心地の良い場所になる、と思うのは「障害児母」歴が長くなってきたからでしょうか?
事前に障害のある方と大会関係者が、個別にでも話し合いが行われ、その結果、あのようなトイレの配置になったのなら、問題ないと思っています。
ただ、ちょっと気になったのは、ファンランには10パーセントもある障害者枠。年々障害者の方の参加は減っているような……。
「トイレ」などの環境が整っていないために障害者が参加を躊躇しているのであれば、もったいない! 当事者(あるいは支援者)も、配慮を期待するだけでなく、どのような配慮が必要かを具体的に伝えていかないと――。
障害のない人は、「障害についてあれこれ聞いては失礼なのではないか」と気を使っている人も多いんです。
勘違いな配慮ではお互いが幸福になれませんし、使い勝手もよくなりませんね。
余談ながら、2024年に開催されたパリオリンピック開催中の仮設トイレはかなりオープンな作り。場所が変わればトイレの文化や考え方も多様です。【読売新聞オンライン パリの仮設トイレは気恥ずかしい「チラ見え」…フランス人は歯牙にもかけず「解放感抜群?」】
さて。ここまで読んでくださって、「今時、仮設とはいえ和式のトイレなんて遅れてる~」と思った、そこのあなた。
世界のスタンダードトイレは「洋式(座り型)」と決めつけていませんか?
次回は「座るのか、しゃがむのか、そこが問題だ」ということで、世界のトイレのお話を――。
いしかわ・みき 出版社勤務を経て、フリーライター&編集者。社会福祉士。重度重複障害がある次女との外出を妨げるトイレの悩みを解消したい。また、障害の有無にかかわらず、すべての人がトイレのために外出をためらわない社会の実現をめざして、2023年「世界共通トイレをめざす会」を一人で立ち上げる。現在、協力してくれる仲間とともに、年間100以上のトイレをめぐり、世界のトイレを調査中。