第7回 食材として人気が高いネズミザメ
2026年になりました。本年もよろシャークお願い申し上げます。皆様の益々のシャーキビリティの向上を心より、お祈り申し上げます。

上記の写真は宮城県気仙沼の郷土料理「もうかの星」だ。「もうか」とは標準和名ネズミザメのこと。真鱶[マフカ]がモウカになったとか、体表の斑点模様が鹿に似ているから毛鹿[モウカ]と呼ばれたなど、語源にはいろいろな説がある。代表的な食用のサメとして全国流通する本種は、東北ではモウカザメという通称で呼ばれることがほとんどだ(以下、ネズミザメと表記する) 。
そして、「星」とは心臓を意味する。「もうかの星」とは、ネズミザメの心臓のお刺身のこと。真っ赤な血の色が毒々しいと思うかもしれないが、これが酒飲みにはたまらない肴となる。口の中に含んだ際の多幸感は何ものにも代えがたい。もともとは地元の漁師だけが知る珍味だったという。
しかしながら、近年、人気の食材となっており、品薄や価格高騰といった理由で、地元でも入手が難しくなってしまった。先日、「もうかの星」が大好きという方から、「もうかの星は1尾のサメから一つしかとれないのですか?」という質問があった。心臓だからもちろん一つしかないとお答えしたが、そんな質問をしたくなるくらい、引く手あまたの食材ということだろう。
全国的に人気になったのには理由がある。禁断のレバ刺しにそっくりの味と食感だからだ。2012年7月より食品衛生法に基づき、牛のレバーは生食用としての販売・提供が法律で禁止された。その代替品として、「もうかの星」を好んで食べる人が増えたのではないか。
新鮮なものは臭みが一切ない。酢味噌と合わせるのが定番だが、朝どれのネズミザメから採集した心臓は、レバ刺し同様、ごま油と塩で食べるのが断然おすすめである。「サメで一番美味しい部位はどこですか?」と聞かれたら、私は間違いなく心臓と答える。
ネズミザメは最大3mほどになる大型のサメで、ホホジロザメと同じ仲間。サメらしいかっこいいフォルムのサメである。気仙沼では大目流網[おおめながしあみ]漁法で漁獲されることが多い。目あい15cmほどの網を固定せず、海に落とす。潮流に乗ってやってきたサメやカジキ類が遊泳中に突っ込み、編み目に頭が刺さることで漁獲される。
気仙沼のネズミザメの水揚げ方法も独特である。同じ港で水揚げされるヨシキリザメは「ドレス状態」と言って、頭と内臓を除去した状態で水揚げされるのだが、ネズミザメは刃物を入れることなく、まるまるの状態で水揚げされる。
頭や内臓を除去しない状態で水揚げされるのは、「もうかの星」を確実に採集したいからだろう。サメの心臓は頭部の付け根と胸びれ付け根の間くらいに位置し、一心房一心室。大きい個体のものだと男性の拳よりも大きい。水揚げされた後、お腹を包丁で切り、最初に心臓だけが採集される。
美味しい「もうかの星」を食べたいのであれば、水揚げされたその日、もしくは翌日に港の近隣の魚屋で購入すると良い。ネズミザメがいつ水揚げされているかわからないじゃないかという声が聞こえてきそうだが、確実に水揚げされるかどうかわかる便利なサイトがある。
《気仙沼市魚市場 入船情報》
このページの一番上にある「はえ縄・大目・陸送」をクリックすると、気仙沼漁港に水揚げされる魚種とその数量の最新情報が表示される。ここで「もうか」という項目の数値をチェックしてみよう。モウカザメは1尾単位で入札がかかるので、数値はそのまま水揚げされる尾数だ。多ければ多いほど、もうかの星が出回る数が増えると考えられる。前日に更新されるので、気仙沼を訪れる予定のある方はチェックすると良い。
参考までに、「吉切」という項目はヨシキリザメのこと。ヨシキリザメはドレス状態で水揚げされ、山のように積み上げられて入札がかかる。そのため、表示されている数値は尾数ではなく、単位はトンである。
購入する際、もうかの星に傷がついていないかは必ず確認すること。傷がついていると必要以上に血抜きがされてしまっていて、おいしさが半減する。心臓の大きさにもよるが、一つ5000円前後はする高級食材なので、適切な処理をして最高品質で食べたいもの。
地元の人によれば、血の気が多ければ多いほど、ネズミザメは美味しいのだそうだ。魚の血はすぐに洗い流したくなるが、ネズミザメに関してはあえて血を洗い流さないのが良いという昔ながらの考え方がある。これまた興味深いサメ食文化の一つといえよう。
次に心臓の捌き方を解説したい。心房以外は全て食べることができるので、刺身にするための捌き方は比較的簡単だ。朝どれの心臓が手に入ったら、心房を除去する。その後、心室を半分にカットする。食べ応えを求めるのであれば、贅沢に幅5mmほどの刺身にすると良い。
また、心室から出る血管の基部が膨らんだ心臓球も美味であるので捨てないこと。パイプ状になっている部分は薄めにカットしてコリコリした食感を楽しみたい。血は酸化すると色が変わりやすいので食べる直前に切ると良い。写真のように氷で冷やして冷たいうちに食べる。決して氷は直接触れさせないこと。
サメを食べる人は減っている?
ネズミザメの心臓について長々と解説したが、本種はそれ以外の部位も利用されている。肉はソテーやみそ漬け、フライとなる。鰭はフカヒレ、脊椎骨は医薬・食品原料など。新潟県上越市では皮は煮凝りとして食される。しかしながら、近年、サメを食べる人が減少傾向にあるという。
2025年12月27日に上越市のサメ競りを見学したのだが、気仙沼から陸送されてきたサメは20尾だった。昔に比べると入荷するサメの数は大幅に減っているという。また、サメの水揚げ量が日本一の宮城県で、海洋生物を専攻する学生さんに聞いてみたところ、サメを食べたことがあると答えたのは全体の10%ほどだった。
2026年1月7日、私は仙台の専門学校にネズミザメを搬入した。宮城県で水揚げされたサメについて、骨の髄まで学んでもらいたい。今回の実習に使うサメは気仙沼産ネズミザメにすると決めていた。

まず外部形態を観察し、捌き方や解剖手法を学んだ。次に各グループに分かれて、胃内容物を観察したり、寄生虫を探したり、標本を制作したり。余すことなく利用するというのが目的であるので、ひととおり実習が終わった後、肉の部分を料理して食べることにした。
料理する過程で、サメの皮を引くのが難しかったという意見があった。サメを食べる人が減少傾向にあるという理由は、加工の問題もあるのかも知れない。魚体が比較的大きいサメを入荷して皮を引いて販売できる形に持っていくまでが、他の肉や魚と比べると手間がかかるのだ。
料理においては、唐揚げを作ったグループが一番人気であった。淡白であるサメ肉はしっかり味をつけることで美味しさが増す。みずみずしくふわふわだった、柔らかい、意外と美味しい。そんな意見が飛び交い、サメ丸々一尾はあっという間に完食となった。
トッププレデター(頂点捕食者)であるサメ類は個体数が多くないので、獲り過ぎは禁物であることは言うまでもない。しかしながら、資源量を守ることができる範囲で漁獲するのであれば問題ない。もともと食文化のある地域で地産地消することが、本来のあるべき姿だと思う。
今年は専門学校でのサメ教育に引き続き力を入れていくことに加え、新しいことにも挑戦する。サメの生態、人との関わり、食文化、保全について考えていくサメに特化した学習施設「サメサメ・サメ博物館」をつくる。
サメの多くが絶滅の危機に瀕している現状を伝えるために、好奇心を刺激する体験型学習に力を入れる。一人でも多くの人がサメに関心を持つきっかけ作りに専念したい。2026年はサメについて真剣に考えていく時代の幕開けだ。
今日も今日とてサメ日和。よろシャーク。
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ぬまぐち・あさこ 1980年生まれ。東海大学海洋学部を卒業後、
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