第20回 熊のしっぽは長かった? 北空をめぐる北斗七星
6月、北の高い空に見える北斗七星。その名は漫画『北斗の拳』で知っているという方も多いでしょう。
北斗七星は、七つの星が、水を汲む道具である柄杓[ひしゃく]の形に並んでいる星座です。北斗の「斗」は柄杓の意味ですから、「北の空で柄杓の形に並ぶ七つの星」という意味を持っています。
もとは中国から来た呼び名で、天上の最高神である天帝の乗り物に見立てられています。ちなみに中国では北極星を北辰と呼んで、天帝に見立てていました。万物を支配する天帝の周りを他の星がぐるぐる回っているというイメージです。
北斗七星は、夜空にあがった七匹の豚という見立てもあります。同じ中国でも、かなりイメージが違いますね。
北斗七星はわかりやすい星の並びですから、世界中でいろいろな見立てがあります。おもしろいのは韓国で、いびつな家を建ててしまったため、逃げる大工さんを家族が追いかけているという見立てです。逃げる大工さんを追いかけるという構図は、星が日周運動をするため、まるで追いかけていくように見えるからなのですが、なかなかよくできていますね。
日本では、北斗七星と北極星は、北斗妙見(妙見菩薩)をあらわし、信仰の対象となってきました。中国の北極星への信仰が日本にも伝わり、妙見信仰となって広がっていったのですね。妙見様は各地の神社仏閣で祀られていて、近年ではパワースポットになっているようです。そこには北斗七星をかたどった模様が施された旗や刀などが残されています。
北斗七星の並びは、北極星を見つけるための鍵にもなっています。柄杓の水を汲む側の二つの星の距離を北に五倍伸ばすと、北極星が見つかります。北極星は常に真北の夜空で輝くため、方角を教えてくれる大切な星であり、昔の船乗りなどにとっては、方角を知る手がかりとなっていました。
北の夜空の星は、北極星を中心として一日に一回、時計回りに回るように見えます。これは、地球の地軸の北をまっすぐに伸ばした天の北極方向に北極星があるためです。北の夜空をじっくりと見ていると、北斗七星が時間とともに北極星の周りを回っていくのがわかります。
星座では、こぐま座のしっぽの先に北極星があります。ちなみに、北斗七星はおおぐま座の背中からしっぽの部分にある星です。熊にしてはしっぽが長すぎるのですが、ネイティブアメリカンの神話によると、森の大王である樫の木がおおぐまと、こぐまのしっぽを振り回して夜空に上げたため、しっぽが伸びてしまったという言い伝えがあります。
ギリシャ神話では、大神ゼウスの妻ヘラの呪いによって熊にされた妖精カリストと息子アルカスを助けるために、ゼウスが二頭のしっぽをつかんで空に投げ上げたという話が伝えられています。
どちらにしても、しっぽが長い熊の姿とは面白いですね。
先日、NHKラジオ番組『子ども科学電話相談』で動物担当をしている成島悦雄先生とトークイベントをしたのですが、成島先生によると、はるか昔は熊のしっぽは長かったのだそうです。とはいえ、神話が成立した当時はすでに、熊のしっぽは短かったのですから、なんとも面白い気がしました。
古代の人々がしっぽの長い熊をイメージした理由は謎のまま……でも、おおぐま座やこぐま座、そしておおぐま座の中にある北斗七星は、今夜もかわらず北極星を中心として北の夜空をめぐっています。


ながた・みえ コスモプラネタリウム渋谷チーフ解説員。東京・品川生まれ。東京理科大学理学部物理学科卒業。キャッチフレーズは「癒しの星空解説員」。2000年からNHKラジオ第一『子ども科学電話相談』の「天文・宇宙」の回答者を務める。ご自身の名がついた小惑星(11528)Mie がある。著書に『カリスマ解説員の楽しい星空入門』(ちくま新書、2017年)など、監修に『小学館の図鑑NEO まどあけずかん うちゅう』(小学館、2022年)、『季節をめぐる 星座のものがたり 春』(汐文社、2022年)などがある。 コスモプラネタリウム渋谷の公式ホームページはこちら
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