〝科学って不思議で、ちょー楽しい‼〟。神奈川県内を中心に科学実験教室やサイエンスショーを行い、小中高生から大人気の「ドクターアキヤマ」こと東海大学工学部の秋山泰伸先生。今回は、「科学」と「化学」の違いについて解説します。
第8回/「科学」と「化学」って何が違う?
ドクターアキヤマは、東海大学の工学部応用化学科で教授をしています。教授というのは、簡単にいえば大学の先生のことですね。そんな風に見えないかもしれませんが……、日ごろはちゃんと学生に授業をしたり、ゼミで指導したりしているんですよ(笑)。
大学教授という仕事柄、外部の方とメールのやり取りをしたり、いろいろなメディアで紹介していただいたりすることがあるのですが、ときどき私のプロフィールの肩書が間違って書かれていることがあるんです。
では、ここで問題です。こちらのプロフィール「東海大学工学部応用科学科教授 秋山泰伸」は、どこが間違っているかわかりますか? 名前がドクターアキヤマじゃない? 残念ながら、本名は秋山泰伸なんです(笑)。わからない人はこの文章の初めに出てきた肩書と、よーく見比べてみてください。
そう、私が所属しているのは、〝応用科学科〟ではなく〝応用化学科〟なんですよね。英語では、「科学」のことをScience(サイエンス)、「化学」はChemistry(ケミストリー)と呼ぶのでわかりやすいのですが、日本語では音が同じ「かがく」のためちょっと紛らわしいんです。同じ音の科学と化学を区別するために、化学のことを〝ばけがく〟と呼んだりすることもあります。
科学には心理や社会現象も含まれる!?
それでは、科学と化学って何がどう違うのでしょうか? まずは科学とは何かから紹介していきましょう。
小学校や中学校では科学という科目はありませんよね。でも、小学校では生活科(1、2年生の教科)の一部や理科、中学校では理科の第一分野、第二分野。高校では、物理、化学、生物、地学……というような科目があったと思います。習った時代によって微妙に科目名が違ったりもしますが、いかにも〝理系〟っていうイメージの科目を全部ひっくるめて、科学という学問になります。
もっと広くいえば、人間の心理だったり、社会現象だったりも、心理科学や社会科学など科学の分野にも含めたりしますが……。まあ、ここでは、自然現象を理解して、役立てたり、何か新しいものを作ったりしようという〝自然科学〟のことをイメージしてください。
古代のエジプトやメソポタミアでは天体観測をおこなって合理的な説明を試みていたらしいですから、天文学を専門とする科学者がいたのかもしれません。皆さんが知っている有名どころでは、地動説を唱えたガリレオ・ガリレイが天文学者・地学者であり科学者ですね。
ニュートンは物体が地球に引っ張られる力(のちの万有引力)を発見した物理学者であり科学者です。メンデルはエンドウ豆のさやの形や色から遺伝の法則を発見した生物学者で科学者です。メンデレーエフは元素(水素や酸素など)の性質に周期性があることを発見し、表にまとめた化学者であり科学者です。ドクターアキヤマは……まあ、みんなと実験するのが大好きな科学者ですかね(笑)。
ここまでで、もう答えが出ている気がしますね。つまり、「科学(自然科学)」の範疇に「化学」は含まれることになりますね。他の例でたとえるならば、公務員には、警察官もいれば、学校の先生もいる、市役所の職員もいます。公務員が「科学」で、警察官が「化学」ってことになりますかね。イメージ湧きましたか?
化学反応を起こすのが「化学」
次にドクターアキヤマが専門とする〝化学〟って、どんなものかを紹介していきましょう。先ほど少し触れたように、科目としての〝化学〟は高校で学びます。学んだ時期で数字やアルファベットがついていたり基礎って言葉がついていたりもしますが、ドクターアキヤマが高校生のころにもありました。もちろん、大学の受験科目にもありますよね。
人と化学が関わった歴史は、かなり古いものと思われます。たとえば、人類が〝火を起こす〟方法を発見したことなどもそうでしょう。だって、原料(木など)を化学反応で酸化させて二酸化炭素や水に変えて、その際に熱エネルギーを得たということですからね。
それ以前にも、火を起こさなくても、自然に生じた火を使って煮炊きしたら、これも化学反応を利用して食材を料理に変えたといえます。まあ、もっと言えば、地球上に生き物が発生したのもそうですし、植物や動物も、基本、たいていは化学反応で生きるためのエネルギーを得ているわけですけどね。
化学は〝化学反応を起こす〟というのが特徴です。じゃあ、化学反応って何かというと、簡単にいうと、〝あるもの〟から〝違うもの〟に変えるってことです。木から二酸化炭素や水に変える、すべて化学反応が起こっています。生の野菜を野菜炒めに変えるのもそうかな?(笑)。
化学では反応を伴わないこともあります。例えば水はH2Oという分子の集まりです。水は冷やせば氷にもなりますし、水蒸気となってお空に消えていくこともありますよね。だって、濡れた洗濯物は乾きますし(笑)。見た目はかわっても、氷も、水も、水蒸気も同じH2Oです。これも化学で取り扱うんですが……まあ、でも、化学の特徴は、やっぱり〝化学反応〟ですね~ 。
さて、人類が意識的に化学反応を起こさせた例として火を起こす話をしましたが、現代の〝化学者〟の始まりって何だと思いますか?
よく、化学者のはじまりは「錬金術師」だといわれます。なんだか、異世界での話みたいですが(笑)。異世界の物語だけでなくて、錬金術師というのは実在していたんですよ。その役割は、ありふれた金属を貴重な〝金〟に変えることでした。ただし、〝金〟を作ることには成功しませんでした。
現代の知識では、化学で違うものを作ることはできても、酸素を酸素以外の元素にすることや水素を水素以外の元素に変えることはできないことがわかっています。でも、中学校で水素と酸素から水を作ったり、逆に水から水素と酸素を作ったりすることは学びますよね。これはどういうことかというと、水は水素と酸素でできた化合物というもので、水という元素ではないのです。
たとえるならば、おもちゃのブロックを使えば、橋ができたり、城ができたりしますが、ブロック自体は変わっていません。青くてL字のブロックや赤くてT字のブロックは橋になっても城になってもそのままです。
化学反応というのは、ブロックの組み合わせでいろいろなものを作れますが、元素というブロック自体は変えられないのです。金というのは水素や酸素と同じく元素ですから、鉄や銅、アルミニウムという元素から、金を作り出すことはできません。だから、金を作ることが成功しないのは確実なのです。これは断言できます。
錬金術師は〝錬金〟は成功しませんでしたが、論理的な思考や数学的な概念で〝もの〟の変化を理解して、欲しいものを作ろうという努力とその方法、それから失敗にめげない根性は確立されたと言えるでしょう(笑)。〝化学〟で金を作ることはできませんが、金にも匹敵するような便利で貴重ないろいろなものを作ることができます。
人類は化学のおかげで生存している!?
生き物は、基本的には炭素と酸素と水素、あと、窒素や硫黄などの微量な元素でできています。皆さんの周りに多様な生き物がいますよね。植物も動物も、深海魚も昆虫も、もちろん皆さんも、炭素と酸素と水素で、できているといえます。すごいと思いませんか。元素というブロックを組み合わせれば無限のものが作れそうですよね。
私たちの身の回りには、化学によって生み出された物がたくさんあります。化学繊維でできた服、コンクリートでできたビル、スマホやパソコンなどに必要不可欠な半導体、病気を治すための医薬品など、化学反応が大活躍です。現在、地球上に80億人の人類が生存できているのも、空気中の窒素を植物が利用できるようにした化学の力だといわれています。
どうですか、化学で人類の未来を作るのも良いと思いませんか? そうそう、先ほど、科学の分類わけの話をしましたが、化学や物理、生物、地学などの分野はお互いに関連しているものでもあります。生き物を扱うのは生物学のイメージでしょうが、生きているということは体の中で化学反応が起きているからです。また、地学や化学の追究に物理学の知識が不可欠です。さらにいうと、物理の実験で使う装置はたいてい化学製品でできています。このようにお互いに補い合って発展していくんですよね。
ということで、ドクターアキヤマが目指すのは、人類の未来を照らす化学者であり、科学者です。皆さんも、科学の世界への一歩を踏み出してみませんか? この連載がそのきっかけのひとつとなれば、とてもうれしいです。

ドクターアキヤマ(本名:秋山泰伸) 1966年福岡県生まれ。九州大学大学院理学研究科博士前期課程修了。博士(工学)。九州大学助手を経て、現在は東海大学工学部学部長補佐。計算機マニアとして知られているほか、神奈川県内を中心に、主に小中高生を対象とした科学実験教室を開催している。テレビ、ラジオ、新聞などマスメディアやSNSに多数登場。著書に『愛しの昭和の計算道具』(東海教育研究所)。
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