第14回 サメハウスカフェの一押しメニュー
「コンカフェ」という言葉がある。これはコンセプトカフェの略で、コスプレ系やアニマル系など、独自の世界観やテーマに沿ったメニューや接客を体験できる飲食店を指す。サメが大好きな私は、サメをコンセプトにした飲食店に行くのが夢だった。サメのコンカフェを求めていたとでも言えようか。
しかしながら、ついぞそのようなカフェを見つけることが叶わなかったので、サメサメ・サメ博物館をオープンするこのタイミングで、博物館に併設するサメのコンカフェをオープンしてみることにした。名付けて「サメハウスカフェ」。メニューは次のとおりである。

一番の推しメニューはなんといってもシャークナゲット。これは、気仙沼産のアオザメとヨシキリザメの肉をミックスしてあるもので、東北地方を代表するサメの食育として提供する。
宮城県気仙沼市では学校給食にも提供されているとか。少し甘めの衣に包まれているため、おかずやおやつとして年配の方から子どもまで好んで食べられている。食感はチキンナゲットよりも柔らかく、上質さが感じられる。
昔ながらの白いはんぺんにはサメが不可欠
ヨシキリザメのお肉は大変みずみずしいため、調理する際は、雑巾を絞るように肉を絞って水分を十分にとるという作業をしなければならない。ひと手間かかるので、水分量が少ないモウカ(標準和名ネズミザメの地方名。サメ食文化のある地域ではモウカという呼び名の方が一般的である)と比べ、美味しいにもかかわらず、本種の肉は正肉としてあまり流通していない。
しかしながら、もともと関東などで昔から食べられていた白いはんぺんは、ヨシキリザメが原料に入っている食べ物であったという。そのみずみずしいお肉がひとたびはんぺんの材料として使われると、ふわふわした食感に生まれ変わる。
江戸時代から続く老舗「日本橋神茂[かんも]」が提供しているはんぺんは、材料にヨシキリザメとアオザメが使われ、昔ながらの製法で作られている。はじめてそれを口にしたとき、泡のように口の中で溶けていったことに驚いた。例えるならば、メレンゲのそれに近い。
築地でフカヒレ業を営んでいた方は言う。「コンビニのおでんの中に入っているはんぺんにはヨシキリザメが入っていないから、あれははんぺんとは言えないな」。確かにこのメレンゲのような食感を体験してしまった後にコンビニのはんぺんを食べると、全く違う食べ物であるように思える。シャークナゲットが柔らかくて美味しいのはヨシキリザメが入っているからかもしれない。
サメハウスカフェでは、器やカトラリーをサメで統一することに徹した。特注ではなく、一般販売されているサメグッズが急激に増えてきたおかげで、それらを揃えることは難しくなかった。サメ好きにとって大変良い時代になったものだ。
また、サメハウスカフェの店内には、一般展示していないホホジロザメの剝製をはじめ、サメ標本をいくつか展示している。博物館から続く秘密の部屋でくつろぐ。そんな世界観を出せたらいい。
サメサメ・サメ博物館がいよいよオープン!
食べることばかり考えていたら、お腹がグゥッと鳴った。この原稿を書きながら、気づけば、深夜をまわっていたのだ。今日は記念すべき日になる予定の令和8年8月8日。深夜2時。つまり、あと8時間ほどで念願のサメサメ・サメ博物館はオープンを迎える。東京や仙台から、研修生が前乗りしてきてくれた。頼もしいサメ好き女子4名という精鋭たちである。
前日の午前中は展示の最終調整を行なった。引き出し展示にアクリル板が取り付けられ、無事に博物展示へと昇華した。チケットは研修生がデザインしてくれたシャーキビリティが高いデザイン。チケットは200枚ほど準備した。
次に実際に提供するワークショップの説明だ。彼女たちにはトートバッグにサメのハンコを押すという新たに導入されるワークショップをプレ体験してもらった。想定時間は30分だったが、気づけば2時間も経過していた。没頭するほど楽しかったのだと理解した。


その後、各担当のリーダーを決めて、オペレーションや命令系統の確認を行なった。今回、来てくれた研修生の多くは水族館や博物館への就職を希望している。博物館スタッフとしてのお客様対応について、多くを学ぶことができる研修にしなければならない。
オープン初日に考えられるリスクの共有を行い、対処方法をディスカッションした。そして最後に、サメサメ・サメ博物館でいちばん大切にしていることを研修生に伝えた。未就学児であろうと大人であろうと年齢問わず、同等の敬意を持って対応するということ。博物展示も完成し、4年越しの計画が実現する準備は万端だ。いざ、プレオープン初日へ。
ちなみに初日の来館者は10名、2日目は5名だった。入館者第一号はサメサメ倶楽部のメンバーで、千葉県からきた中学3年生。また、山形から宮城の実家に帰ってきていた親子は、自由研究のテーマをサメに変えることを決意し、2日後の解剖実習の申し込みをしてくれた。
岩手県から来てくれたカップルは、サメの博物館がこんなに面白いとは思わなかった。解説があることで、標本の見えなかった部分が見えて、次々と興味が湧くと感想を言ってくれた。
また、予想外のこともあった。たまたま通りかかってお腹が空いていたからカフェを利用したという男性。サメハウスカフェは博物館を利用する人がゆっくりできる場所としてだけ考えていたが、看板を出すことによって、サメにまったく関心がない人が来てくれることがわかった。
博物館の目的はサメに興味関心のない人にサメの魅力を伝えるということだが、これが難しい。なぜながらそのような人はサメの博物館へ積極的に足を運ぶことがないからだ。今回の方はカフェ利用だけで、博物館への入館はなかったが、そのような人たちをターゲットにした動線やサービスの提供を検討していくことが重要だと感じた。
長年、頭の中で妄想してきた博物館&サメカフェ。具現化にあたり、あとは邁進するのみだ。しかしながら、ひとつだけ、注意しなければいけない点があるので付け加えておく。サメの資源は限られており、サメ食ブームを作ることはしたくない、という強い思いがあるということだ。
本を出版するときやサメのイベントを開催するときに決まっていわれることは、サメブームの火付け役になるといいですね、という言葉だ。これは非常に危険な考え方である。ブームはひとつの生物を絶滅に追いやる危険性があるからだ。もともとサメの食文化があった地域で地産地消することが、本来、野生生物にとっても人にとっても良い環境循環となる。ひいてはサメの資源管理につながると信じている。
正直なところ、来館人数は想像していたよりも少なかった。だが、顧客満足度はすこぶる高い。来館者の方に口頭で意見を聞くことができたことも、来館人数の少なさ故だろう。サメサメ・サメ博物館は良いスタートを切ることができたのだ。
サメサメ・サメ博物館へ、ぜひご来館よろシャーク!

ぬまぐち・あさこ 1980年生まれ。東海大学海洋学部を卒業後、
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