〝科学って不思議で、ちょー楽しい‼〟。神奈川県内を中心に科学実験教室やサイエンスショーを行い、小中高生から大人気の「ドクターアキヤマ」こと東海大学工学部の秋山泰伸先生。楽しくて面白い、人気の科学教室のエッセンスをご紹介します。お家でもできる簡単なものばかりなので、ぜひ実験してみてください。

第9回/混ぜるのは簡単、分けるのは難しい!?
ドクターアキヤマの科学教室へようこそ! 今回は、「クロマトグラフィー」の実験をしていきます。ところで、クロマトグラフィーって聞いたことありますか? 日常では耳にしない言葉ですよね。でも、このクロマトグラフィーは、〝化学〟にとって重要な技術なんです。
化学の世界では、いろいろなものを合成する実験をしています。たとえば、薬を合成したりとかね。人の役に立つ新しいものを作り出すための研究をしているんです。
そういう実験をしていると、合成したものの中には欲しいもの以外にも、いろいろなものが混ざってしまいます。そのため、合成した結果どのようなものができているのかを確認するために、一つひとつ成分を分けて確認をする必要があります。
この混ざったものを分けるという作業は、けっこう難しいんです。たとえば、食塩と砂糖を用意します。これを混ぜるのは、簡単ですよね。コップに食塩と砂糖を入れて混ぜれば良いだけですからね。
でも、いったん混ざった食塩と砂糖を、元の別々の状態に戻すって難しいんですよね。どうやったら良いと思いますか? コップを振り回しても、食塩と砂糖には分かれてくれませんよ(笑)。
なぜかというと、エントロピーが減少する方向にはふつう進みませんからね。エントロピー覚えていますか? 忘れた人は第5回の『スーパーボールっぽいものを作ってみよう!』を読み直してみましょう。
この混ざった物を分けるという難しそうな現象ですが、今回の実験はとっても簡単です。小さな子どもでもできます。紙に水性ペンで絵や文字を書いて、水にひたすだけです(笑)。
紙を使って物質を分ける
では、実験を始めていきましょう! 紙を使って物質を分ける技術「ペーパークロマトグラフィー」の実験です。これは実際に化学の研究でも使う技術なんですよ。さすがに薬品を使った実験をお家でやるのは大変でしょうから、ここでは水性ペンを使ってインクを分ける実験をしてみましょう。
皆さんも経験したことがあると思いますが、水性ペンで書いたところを水で濡らすとインクが滲みますよね。あれは、水性ペンのインクは水に溶けるという性質を持っているからです。油性ペンではだめですよ。水に溶けないインクが使われていますから。
まずは、ろ紙を折って、折り目をつけていきます。ろ紙を半分にして、さらに半分にして、もう1回半分にして、開くとほら、〝ひだ折りろ紙〟の完成です。ちょっとだけ、山折りと谷折りをかえないといけないところもありますが。

開いたひだ折りろ紙の中心から2cm以上離れた所から縁までの間に、好きな色の水性ペンでデザインを描いていきます。あとで、ろ紙の中心を水に浸けるので、そこに書いちゃうとインクが水に溶けだしちゃいますよ。
いろんな色でいっぱい絵や文字を書きましょう。ちなみに油性ペンは水に溶けないので使えないと言いましたが、水にぬらしてもインクが滲まずに残るので、上手く使うとデザインの幅が広がりますよ! 自分のデザインですとわかるようにペンネームを書いていても良いですよ、私の場合なら〝ドクターアキヤマ作〟って具合に(笑)。

次に、ペットボトルのキャップの縁ギリギリまで水を入れて満杯にしましょう。好みのデザインを描いた〝ひだ折りろ紙〟を、また軽く折って、中心をキャップの中の水に浸けて、しばらく置いておきます。ろ紙が少し開いたぐらいにするといいですよ。さて、どのようになるでしょうか?
そっとしておくと、ろ紙を水がどんどん昇ってきて、水性ペンで描いたデザインが滲んで、思いもよらない形に変わっていきますよね。ろ紙の縁まで水がしみてきたころを目安に、ペットボトルのキャップからろ紙を取り出しましょう。

そうそう、デザインを書いた直後と水でインクが滲んだ後の写真をスマホで撮影しておくと、絵や文字がどう変わったか比較できて面白いですよ。
取り出したらキッチンペーパーに乗せて余分な水分をとって、乾かしましょう! ちなみに、乾いたろ紙をフィルムを使ってラミネート加工すれば、世界でただ1つのオリジナルコースターとしても使えますよ(笑)。
なぜ水性インクの色が分かれるのか
ろ紙を水に浸すと、紙の繊維の隙間の中を液体が移動する「毛細管現象」により、液体が重力に逆らって上に向かってしみこんでいきます。水性ペンのインクは水に溶けますから、水の流れに乗って一緒に移動していきます。
ところで「カラフルスライム」や「人工イクラ」の実験で、色の三原色というのを勉強しましたよね。覚えていますか? そう、青緑(シアン)、赤紫(マゼンタ)、黄色(イエロー)でしたよね。この3つを混ぜ合わせれば、すべての色を作ることができました。
ということは、水性ペンの緑や紫、黒、その他のいろいろな色も、青緑、赤紫、黄色のインクが混ざって、その色に見えているのかもしれませんよね? どうですか、クロマトグラフィーで滲んだインクを良く見てみましょう。
もともとの緑のインクは緑色のまま滲んだだけですか? 黒のインクは黒のまま滲んでいますか? 紫はどうですか? 青は? 赤は? 滲んだだけでなく元の色と違う色が見えていませんか?
じつはインクの色素によって、水への溶けやすさ、紙の繊維へのくっつきやすさが違うんですね。そのため、色によって移動するスピードが異なってきます。たとえば、川の中で石が流されるときに、大きさや重さ、ツルツルかトゲトゲかで流れるスピードが変わりますよね。それと同じようなものです。
そのため、色を混ぜて別の色を作っていると、水に溶けて流れるときに元の色素に分かれるんですよね。だから、使ったインクの色と違う色が出てくるんです。ほら、難しいといった〝混ざったものから混ざる前の別々のものに分ける〟ことができていますよね !

そうそう、使っているインクが3原色で色を作っているのではなく、もともと緑やオレンジの色素でできているってこともあります。だから何色が出てくるかは実際にペーパークロマトグラフィーで分けてみないとわからない。 それに、同じ黒でも作っているメーカーが違うと、違う結果になるかもしれません。これもやってみないとわからないです。だから、実験は楽しいんです!
化学の世界では、いろいろな種類のクロマトグラフィーがあります。たとえば、ガスにして液体や固体の詰まったカラム(分離装置に取り付けられる細い管)の中を移動する速度で分ける「ガスクロマトグラフィー」なんてものもよく使います。合成実験後に、作りたかったものが本当にできているか……。「じゃあ、ガスクロマトグラフィーで分離してみますか」って、感じです。
そうそう、さっき油性ペンで書くと水に溶けないから、描いたデザインが変わらないと言いました。でも、それはあくまでも水につけた場合ということなんですよ。水の代わりにメタノールなどのアルコールにつけると、油性ペンの色も同じように分かれていきます。
ただ、アルコールはとっても燃えやすいですから、皆さんが家で実験するのは危険です。お家でペーパークロマトグラフィーの実験をする場合は、ちゃんと水性ペンを使って実験しましょう。あくまでも油性ペンはデザイン用に。ペンネームを書く以外にも、たとえば油性ペンで幹を書いて、水性ペンでクロマトグラフィーで花を咲かせるとかも、楽しそうですね!

取材協力:東海大学付属相模高等学校中等部の皆さん
イラスト=ヒットペン

ドクターアキヤマ(本名:秋山泰伸) 1966年福岡県生まれ。九州大学大学院理学研究科博士前期課程修了。博士(工学)。九州大学助手を経て、現在は東海大学工学部学部長補佐。計算機マニアとして知られているほか、神奈川県内を中心に、主に小中高生を対象とした科学実験教室を開催している。テレビ、ラジオ、新聞などマスメディアやSNSに多数登場。著書に『愛しの昭和の計算道具』(東海教育研究所)。
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