日本人にとって土は、当たり前のように身の回りにあるもの。日々の暮らしの中で、土に意識を向けることはほとんどないのではないだろうか。しかし、私たち日本人が美味しいお米や野菜、きれいな花を楽しむことができるのは、土の恵みのおかげといえるだろう。土はどのようにできるのか、そして日本の土にはどのような特徴があるのか。土壌の生成に詳しい井上弦さんに聞いた。
土はどのようにできるのか?
――私たちの周りには当たり前のように土があって、とても恵まれた環境にあるように感じます。あらためて、「土」はどうやってできるのでしょうか?
簡単に言うと、岩石が風化したり氷河に削られたりして粉状になったものに、有機物や動植物の活動が関与して、長い年月をかけて「土」ができあがっていくイメージです。
――有機物というのは、たとえば生物の死骸や落ち葉、枯れた草木などを土壌微生物が分解したものと考えてよいのですか?
そうですね。土の有機物としては、そう考えていただいてよいと思います。生物の死骸や落ち葉、枯れ草などが微生物によって分解・変質したものが土の有機物になります。普通、岩石が雨や風によって砕け、その上に苔がまず生えてくるのですが、そこには必ずと言っていいほど微生物がいます。それらが酸を出して、その酸が岩石の表面を風化させて土ができ、そこにまた違う植物が生えてきて、それらが枯れて堆積していく。その繰り返しで土ができていきます。
ただ、海外であれば岩石が風化を受けて土ができていくといったプロセスで考えてもらってよいのですが、日本の場合は火山灰が多いので土のでき方が少し異なってくるんです。
――火山灰には苔はあまり生えないと思うのですが、どんなふうに土に変わっていくのでしょうか?
火山灰自体も粉々になっていて、それがさらに風化を受けることで粒子がどんどん細かくなっていきます。すると植物が育ちやすくなってきますから、有機物が上にたまりやすくなります。そこに微生物や動植物が関与して有機物が攪拌され、土になっていくんです。しばらくするとまた火山灰が降ってきますので、同じようなことが繰り返され、土が厚くなっていくわけですね。
世界で1%しかない日本特有の土
――ひと口に「土」と言っても、茶色い土、黄色っぽい土、黒い土、赤い土といろいろあります。日本の場合、土の種類は何種類ぐらいあるのでしょうか?
分類方法によって分けようと思えばいくらでも分けられるのですが、主要なものとしては10~12種類ぐらいあります。世界的な分類では32種類、アメリカで使われる世界的な分類でも12種類ぐらいになります。
一方で日本ならではの特徴もあります。日本では「黒[くろ]ボク土」と「褐色森林土」が同じくらいの比率を占めていて、この2つが日本の中では多い土なのですが、このうちの「黒ボク土」は地球全体で見るとわずか1%程度で、世界的にはとても珍しい土なんです。
――先ほどの火山灰から作られていく土というのが、その「黒ボク土」なのですか?
はい、火山灰から作られていく土の代表が黒ボク土と考えてもらって構いません。日本の場合はありとあらゆる場所が火山灰で覆われた歴史があります。したがって日本の農業では、必然的に「黒ボク土」を使うケースが多くなるんですね。ただ、「黒ボク土」は土壌改良をしないと作物が育ちにくい土の代表でもありました。

「黒ボク土」は作物が育たない土の代表だった!
――畑の土には黒土がよいとよく言われます。「黒土=黒ボク土」ということでいいのでしょうか?
黒土は確かに作物をよく育ててくれるイメージがありますよね。日本では黒土=黒ボク土と考えてもらってもいいのですが、今お話ししたように「黒ボク土」自体は作物が育ちにくい土なんです。
――そうなんですか!? 日本は豊かな土壌というイメージがありますが……?
土の黒い色は有機物の色なのですが、「黒ボク土」の場合は、有機物と火山灰由来のアルミニウムが結合することで、分解されずに黒色を保っています。同じような黒い色をした土がロシアとかウクライナあたりにもありますが、こちらはカルシウムが豊富な環境で有機物がカルシウムと結合しています。
カルシウムは植物の成長に欠かせない成分なので、この地域の黒土は非常に肥沃な土として知られています。一方のアルミニウムは植物が育つためにどうしても必要というわけではありません。
つまり黒ボク土は、リン酸肥料をやっても、アルミニウムとリン酸が結びついて固定されてしまうため、植物がリンを吸えない状態になってしまうんですね。ですから戦前までは、「黒ボク土」はよい土として評価されておらず、むしろ作物が育たない土の代表とされていたんです。
――それが今は農業で圧倒的に多く使われている。どうしてでしょうか?
「黒ボク土」の場合、通気性や水はけの面ではよい土なのですが、先ほど言ったようにリン酸が効かないという特性があったので、戦後になってから大量のリン酸肥料を施して土壌改良が行われたんです。
たくさんの量を与えることで、アルミニウムとリン酸がくっついたとしても、結びつく相手がいなくなったリン酸が土中に残ります。その結果、農業に適したよい土になったんですね。
――よく「ミミズがいる土はよい土だ」と言われますけれど、植物が育つよい土とはどういうものでしょうか?
農作物にとってよい土というのは、ある程度の厚みがあって硬すぎず、保水力がある一方で土中に隙間が多く通気性と水はけがよいこと、それから肥料である窒素、リン酸、カリウムを保てる保肥力があることなどが挙げられます。土壌の物理性、化学性、生物性がバランスよく整っている土がよいということです。
ミミズに関しても適度にいることが大事で、たくさんいればいいというわけでもないんですよ。数が多すぎると、穴をいっぱい開けてしまうなど何かしら影響が出てきますから、やっぱりバランスがいいというのが一番大切です。

砂を土にしていくことってできるの?
――日本の土は10~12種類ぐらいあるということでしたが、植物が育ちにくい土もあるのでしょうか?
もちろん、植物が育ちにくい土もありますが、日本の環境は少し特殊かもしれません。植物の成長には水がとても重要ですから、降水量の多い日本の場合は、土の条件が多少悪くても、どんな種類でもある程度育つと言えば育つんですね。
――オーストラリアには植物の生えない赤い土が広がっているので、日本も赤い土のところでは植物が育ちにくいのではないかと思ったのですが、土の種類というよりは水分量が関係しているんですね。
そうですね。オーストラリアの場合は降水量が少ないんですよ。あとは土の中の養分も大いに関係します。水耕栽培を考えてもらうとわかりやすいんですが、土がなくても水と養分さえあれば植物は育ちますよね。でも、オーストラリアの赤い土にはその養分がほとんどないんです。
ですから降水量が多い日本では、赤い土だから植物が育ちにくいというわけではありません。たとえば長崎県では、赤い土を活かしてジャガイモをたくさん作っています。長崎県で使われる赤い土は酸性で病気にかかりにくいタイプの土ですから、ジャガイモ栽培には向いているんです。
――ちなみに砂を土に変えていくことってできるのですか?
はい。たとえば、砂に堆肥を加えてよく混ぜ、定期的に水を与えてやれば土にしていくことは十分可能です。堆肥の中には微生物もいますから、水を加えることで、微生物が活動し、だんだん土に変わっていきます。
――砂だけだと有機的な栄養素がない分、やっぱり植物は育ちにくいのでしょうか?
砂自体にはすぐに植物が使える養分はほとんどないので、砂だけだと植物は育ちにくいでしょうね。ただ、砂のような場所を好む植物もいますから、必ずしも「育たない」とは言えません。何を育てるかが重要だと思いますし、土壌改良剤を少し加えることで砂の上でも育てることはできます。スイカも砂地で栽培されていますよね。
土が減っている? 大事な土を守るには
――土が「土」としてできあがっていくには、やはり長い時間がかかるのですか?
岩石が風化して土になっていくまでは数千年単位の時間が必要になってくるかもしれませんが、火山灰から土に変わっていく場合ですと、100年で1cmぐらいの土ができると言われています。
――100年で1cmですか。そう考えると土ってやっぱり貴重ですね。その大事な土がどんどん減っているといった話も耳にします。それは農業にも影響する深刻な問題だと思うのですが、土が減少しているとしたら要因は何なのでしょうか?
たとえば風が強い場所ですと、畑の土が風で飛ばされて量自体が減ってしまいます。要は風によって侵食されるというのが一つですね。それから、大雨などで削られた土が、川や海に流れ込んで溜まっていくことで、地上の土がなくなっていくケースもあります。
使える土となると農業ベースで考える場合が多いですから、畑で考えたときに土がなくなっている、あるいは使いにくくなっていると言われているのではないかと思います。
――土を守るためにはどんなことが必要になってくるのでしょうか?
まず「裸地」と言って、土を野ざらしの状態にしないことですね。風で土が飛ばされてしまわないよう、芝を植えるとか、常に何かしら草を生やした状態にして、劣化を防いでいくことが大切です。また普通に言われることですけれども、過度な宅地開発や土地開発をしないことも必要でしょう。
土壌を専門としている立場から言うなら、貴重な土壌を保護していただくのも一つだと思います。北海道や東北などの標高が高い、主に寒い地域に分布している「ポドゾル」と呼ばれる土があります。
「ポドゾル」は、上のほうが漂白されて白い色に抜けている珍しい土なんですね。こうした土が開発で失われたりしないように保護してもらうことも、土を守るという意味ではよいことではないかと思います。
「黒ボク土」にはまだ謎がいっぱい
――今回お話を伺って、日本の土壌の中心が火山灰からできた「黒ボク土」で、しかも本来は作物ができにくい土だったと知って驚きました。
じつは「黒ボク土」については、どうやってできたのか、何で黒くなったのかが、まだ明らかにされていないんです。縄文人が野焼きをやって、その炭が影響して黒くなっているという考え方がある一方で、草原など草地が続いているところは、火を入れなくても黒い土ができていく。
なぜそうなるのか、まだ結論には至っていないのですが、ススキやササといった草地だと有機物が毎年供給されます。有機物が多いほど黒い色になっていきますから、有機物の供給が毎年毎年あることで黒い層が分厚くなっていき、「黒ボク土」になっていくのではないかと考えられます。
とはいえ私たちもいまだに研究し続けている最中です。いくつかの説はありながらも、まだわかっていない部分も多い。そういう意味で「黒ボク土」は、すごく不思議でおもしろい土なんです。
(構成・八木沢由香)
いのうえ・ゆづる 福岡市出身。宮崎大学農学部卒業、同大学大学院農学研究科修了。2001年、鹿児島大学大学院連合農学研究科修了(博士(学術))。2004年、東京工業大学大学院総合理工学研究科助手・助教。2008年九州大学中央分析センター学術研究員、2012年、同大学院工学研究院学術研究員・助教。2014年、埼玉大学大学院理工学研究科産学官連携研究員(兼 JICA短期専門家:スリランカ)。2016年、神奈川県農業技術センター臨時技師。2018年、長崎総合科学大学准教授。2023年、東海大学農学部特任教授を経て、2025年、東海大学農学部教授。

