夏の暑さが少しずつ和らぎ、徐々に涼しい風を感じられる季節になってきた。屋外で遊んだり、体を動かすには最適な季節ではないだろうか。そこでお勧めしたいのが「キャンプ」だ。キャンプは、ただ楽しいだけの遊びではなく、そこにさまざまな学びがあるという。キャンプが持つ効果とはどのようなものなのか。野外教育や環境教育に詳しい岡田成弘さんに聞いた。
キャンプには2つの種類がある
――キャンプと聞いて、「自然のなかでテントを設営して、野外料理や自然体験を楽しむもの」とイメージする方が多いと思うのですが、改めてキャンプとはどういうものかを教えていただけますか?
おっしゃるように、一般的にはキャンプ場でテントを張ってバーベキューをしたり、ちょっとした食事をしたりしながらテント生活や野外活動を楽しむのがキャンプのイメージでしょうね。キャンプという言葉には、もともと「広い野原」「兵士の野営地」「人が集まる場所」などの意味があります。
ここでいうキャンプの定義はどういうものかというと、「自然環境の中で簡易的な道具を使った生活や活動を行うこと」を言います。でも最近では、電化製品などの便利な道具を自然の中に持ち込んで、日常の生活様式を再現しながら楽しむキャンプも行われています。
現代社会においては、なるべく簡単な道具を最低限だけ使った生活や活動という定義は少し狭すぎるかもしれません。コテージに泊まって外でバーベキューをしたりするのも、広い意味では十分キャンプと呼ぶことができると思います。
――キャンプって、私たちがイメージするものよりもかなり広い意味で使われているんですね。
そうですね。一方でキャンプの種類はというと、大きくは「レクリエーションキャンプ」と「教育キャンプ」の2つに分かれています。
レクリエーションキャンプは、家族や友達などと一緒に楽しく遊ぶ娯楽を目的とした、いわゆる楽しいキャンプのことです。もう1つの教育キャンプ、こちらは組織キャンプやオーガナイズドキャンプと呼ばれたりもします。
たとえば学校であったり、地域の団体であったり、指導者がいて、何かしらの教育目的を達成するために行うキャンプのことを言います。私は野外教育を専門としていますので、普段は地域の子どもを集めて学生たちと一緒にキャンプをしたり、大学の実習で学生にキャンプを提供したりしています。
キャンプは子どもをどう成長させる?
――教育キャンプという種類があるということは……。野外での体験は、子どもの成長にどのような効果をもたらしてくれるのでしょうか?
野外教育の分野では、心理的な成長として「自己」「他者」「自然」の3つの観点から効果を説明しています。
まず、野外活動やキャンプでは普段とは違う自分と向き合うことになりますので、弱みも強みも含めて自分自身を見つめ直し、自信をもてる部分を発見したり、自分とは何者かを理解したり、何かしらの自己成長につながっていきます。
2つ目が、他者に関する学びや成長で、協調性やコミュニケーション力を育ててくれるということですね。1人で行うソロキャンプや野外活動もありますが、誰かと一緒に行くことのほうが多いと思いますので、意見の相違やトラブルが起こったときどう乗り越えていくかも含めて、社会性や人間関係を学ぶ機会になります。
この2つに関してはスポーツでも学ぶことはできると思うのですが、3つ目の自然や環境との関係を考える機会が持てるのは、キャンプならではの教育効果と言えるでしょう。
自然を好きになる、自然に興味をもつ、人間が自然に対してどんなインパクトを与えているのかを知る、どのように行動すれば自然を保護できるのか考えるなど、自然をどのように捉えるかという自然観が育まれたり、地球温暖化や気候変動といった環境問題を考えたり、キャンプを通じて自然とのつながりを深めていくことができます。
私は、野外教育は「つながりを豊かにする教育」だと言っているのですが、自分とのつながり、他者とのつながり、自然とのつながりを強めてくれるのがキャンプだと思っています。
あとは他にも、心身の健康を養ってくれる、体力を向上させてくれる、野外活動に必要な技術が身につくといったことも含め、広い意味でキャンプにはさまざまな効果があります。とくにAIがこれだけ発達してくると、「人間らしさ」を育むうえでも有効な活動ではないかと感じています。
――サバイバル能力みたいなものも身についていきそうですね。
水がなくなったときにどうすればよいかなど、生きていくために必要なサバイバルスキルを学ぶことももちろんできますが、身につく力として言えるのは、もう少し広い意味での「問題解決能力」です。サバイバルスキルは、その中の1つですね。
自然の中で過ごすと、とにかく普段では起こり得ないような問題であったり、ストレスだったり、ハプニングがありますので、それに対して、今ある自分たちの人的リソースや道具を使って、どう対応するかを考えなくてはいけません。
時には耐えないといけないでしょうし、レジリエンスと呼ばれる柔軟な対応力も求められます。リーダーシップも必要になってきます。そうした適応力、問題解決能力が磨かれていくと考えています。

リアルな自然だからこそ体験できること
――自然は不規則ですから、キャンプではアクシデントなんかも起こりますよね。そうした「ままならないこと」を経験するのは、ものすごく成長につながりそうです。
そのとおりで、自然には人間がコントロールできない不確実さがあります。私たちの日常社会は基本的に何事もコントロールができて、統制されていますよね。家電のほとんどはタイマーセットで時間のコントロールが可能ですし、最近はAIに何でも聞くことができます。
でも、自然の中にいると、雨が降ったら濡れや寒さに対応するしかありませんし、道具がなかったらそこにあるもので何とかするしかない。ときには、理不尽だと思うことも受け入れるしかないんです。
当然ながら、ゲームやバーチャルの世界と違ってリセットボタンもありませんので、リアルな自然の中では「うまくいかなかったらやり直し」もできません。失敗しても、それを受け入れて、なんでこうなったのだろう、変えていかなくてはいけないことはなんだろうと振り返らざるを得ない。こうしたことをリアルに体験することが自然体験とかキャンプの意味の1つだと思います。
心理的に居心地のいい安心領域のことを「コンフォートゾーン」と言うのですが、人は自分の居心地のいいところに居続けると、なかなか成長していかないんですね。自己成長には、少しストレスを感じる状況に自分を置いて、コンフォートゾーンを広げていくことが大切です。
キャンプや冒険は、少しストレスのかかった不便な状況に自分を置くことになりますから、コンフォートゾーンを広げていく機会にもなるんです。
年齢が小さいほど変化や成長は大きい
――キャンプを経験すると、子どもたちはやはり大きく変わるものですか?
私がやってきた組織キャンプ、教育キャンプで言うと、幼児から低学年の子は3~4泊のキャンプで本当にガラリと変わります。保護者の方はみんな「うちの子はご飯のお手伝いもしないし、洋服もたためない。何もできない」と思っているんですよ。
でもキャンプを始めてみると、自分で野菜を切ろうとしますし、火をおこしたりもする。積極的に何でもやろうとします。もちろん、できないこともたくさんありますからサポートはしますけれど、数日ですごくたくましくなって、自分のことは自分でやるようになります。年齢が小さいほど変化や成長は大きいですね。
高学年以上の場合は、トラブルとかハプニングが起こりがちなインパクトのある体験やプログラムを行うと、ガラリと変わることが多いです。楽しいだけのキャンプもいいのですが、道に迷ってしまったり、大雨の中でテント泊をすることになったり、少しストレスや負荷があるほうが、ものすごく変わるきっかけになりますね。
――数日でガラリと変わるというのはすごいですね。
子どもが何もやらないのは、やらなくていい環境にいるからなんです。掃除もご飯をつくるのも洗濯も大人がやってくれますから。けれども、やらなければいけない状況になれば案外やりますし、やると自信もついて、目に見えて変わっていきます。
さらに、キャンプに参加すると知らない子と数日過ごすことになりますから、自分の周りにはいないタイプの子と出会ったり、普段と違った自分を演じることもできたりするんですよね。少し年上のお兄さんやお姉さん的なロールモデルがいたりもします。そうしたことも、子どもを成長させてくれます。

――組織キャンプは効果も大きそうですが、家族キャンプのようなレクリエーションキャンプの場合はどうなんでしょう?
家族キャンプのよさは、日常から離れた場だからこそできる関わり方がある点です。そこから、たとえば親子が互いの新たな一面を発見することにつながったり、親子の関係がよいほうに変化したりするかもしれない。家族と離れて過ごす教育キャンプでしかできないこともあれば、家族キャンプでしかできないこともあるんです。
「〇〇すべき」を捨てることがキャンプを楽しむコツ
――なかには、「子どもにキャンプを体験させたいけれど、自分はやったことがないからどうしてよいかわからない」という方もいるかもしれません。キャンプビギナーのご家族は、どの辺りから始めていくとよいでしょうか?
いきなりテント泊とバーベキューの用意といったところからスタートしてしまうと、いろいろな事前の準備が大変ですし、ハードルが上がってしまいイヤになってしまうと思います。最初はテント泊にこだわらず、キャンプ場のコテージのような宿泊施設を利用するところからスタートするのもよいのではないでしょうか。
キャンプ場によっては、いろいろなアクティビティやサービスが用意されていますし、とりあえず出かけて、遊んで、泊まってみる。食事も、どこかで買ってきたり、ケータリングを利用したりで十分です。子どもにとっては、家を離れて自然の中で家族と泊まるだけでいい体験になりますから。
もう少しキャンプらしいことをやってみようかなと思ったら、テントで泊まってみたり、1食は自分たちで作ってみたり、少しだけステップアップしてみるといいですね。本格的に子どもに野外体験をさせたいという場合は、子どもだけを組織キャンプや教育キャンプに送り出す方法もあります。
――家族でキャンプに行ったときに気をつけたいことはありますか?
まずは、いろいろ詰め込み過ぎないことです。それから、「キャンプに行ったらテントに泊まるべき」「ご飯は自分たちで作るべき」「バーベキューをやるべき」など、「〇〇すべき」と思い込まないことも大事です。他の人たちはこうしているから、自分たちもこうすべきと思ってしまうと、あれもこれもと詰め込んだり、義務感が増えてしまったりして楽しくなくなってしまいます。
キャンプ場に行って何もしないというのも、キャンプの1つの楽しみ方ですし、食事は外食で済ませてもいいんです。最近では、キャンプ場でUber Eatsを頼んでいる人を見たことがありますが、私としてはそれもありだと思っています。
親子キャンプは、子どもも親も楽しめればそれがいちばん。キャンプは自由なので、こだわりを持ち過ぎず、自分たちなりの方法で楽しむことが大事です。
(構成・八木沢由香)
おかだ・まさひろ 1983年生、兵庫県出身。博士(コーチング学)。高校生・大学生時代にラボ・パーティーで組織キャンプの魅力を知り、筑波大学大学院に進学して野外教育を専攻。2011 年から 9 年間、仙台大学体育学部で野外教育を教える。20 年より現職。25年に東海大学の特別研究期間を利用し1年間ニュージーランドに滞在。日本野外教育学会理事。

