【連載】世界は音楽でできている◎東海大学教養学部芸術学科――第9回 近藤真由/音楽で人と人とのつながりを作る!

第9回 音楽で人と人とのつながりを作る! ——近藤真由

 神奈川県秦野市にある団地で音楽療法を使った高齢者向けの活動を始めてから、気がつけば三年目になりました。 

 会場となる集会所には、活動開始の予定時刻よりも早い時間から、多くの参加者が集まっていて、あちこちで楽しそうに会話が弾んでいる様子がみられます。「これから始めまーす」と大きな声でお伝えしないと、なかなか始められないほどのにぎやかさです。 

 けれど、活動を始めたころは、今とはまったく違う雰囲気でした。参加者たちはそれぞれが少しずつ距離を取りながら座っていて、会話もあまりありませんでした。 

 私が担当した第3回のコラム『音楽が心と体を整える!?』では、音楽が私たちの心や体に与える働きについて紹介しました。好きな音楽を聴くと気持ちが落ち着いたり、元気が出たり、歌うことで呼吸や体のリズムが整ったりします。 

 では、その音楽が、人と人との関係にも働きかけるとしたら、どうでしょうか。私は、この団地での活動を始めたときから、「音楽を楽しみながら、認知症予防にもつながる場」であると同時に、「人と人とのつながりが育つ場」にしたいと考えていました。 

 高齢になると、退職や転居、家族構成の変化などがきっかけとなり、人と会う機会が少なくなりがちです。こうした社会的孤立は、認知症の発症とも関係することが知られており、近年では健康づくりの大きな課題として注目されています。

 だからこそ、この活動が、地域の中で安心して集まり、お互いを気にかけ合える居場所になればという願いがありました。 

「同調」により人との距離が縮まる

 音楽には、一人で楽しめる魅力があります。しかし、それと同じくらい、誰かと一緒に楽しむことで生まれる力があります。みんなで歌うとき、私たちは自然と同じメロディーを歌い、同じタイミングで息を吸い、同じリズムに合わせて体を動かします。合奏では、周りの音を聴き、お互いの音を合わせながら演奏します。 

 このように、人と動きやリズムが自然にそろっていく現象を「同調」といいます。人は同調すると、相手との心理的な距離を近く感じるようになり、一体感や安心感を抱きやすくなることが知られています。同じ歌を歌い、同じリズムを感じ、同じ時間を過ごす。その体験そのものが、「一緒にいる」という感覚を育ててくれるのです。 

 音楽には、もう一つ大きな特徴があります。それは、「話し」をしなくても、人と関われることです。初めて会った人と仲良くなろうとすると、「何を話せばいいんだろう」「うまく話せるだろうか」と緊張してしまう人がいます。 

 しかし、歌を歌ったり、手拍子をしたり、楽器を鳴らしたりすることには、正解も不正解もありません。そこでは、「上手に話すこと」ではなく、「一緒に音楽を楽しむこと」が共通の目的になります。 

 だからこそ、無理に会話をしようと頑張らなくても、自然と笑顔が生まれます。活動が終わるころには、「楽しかったですね」「また来ますね」と声を掛け合うようになり、その積み重ねが少しずつ人と人との距離を縮めていくのです。 

 最初はお互いに言葉を交わさなかった人たちが、一緒に歌い、一緒に楽器を鳴らし、同じ時間を重ねるうちに、自然と笑顔を向け合い、声を掛け合うようになります。音楽を使って「一緒に何かをする時間」をつくることで、結果として人と人との関係を育てていく。私は、それが音楽の大きな力の一つなのではないかと考えています。 

 団地での活動でも、その変化は少しずつ現れました。「今日は○○さん、まだ来ていないね」「この前、旅行に行ってきたんだけどね」。そんな何気ない会話が、あちらこちらから聞こえてきます。 

 活動が終わったあとも、参加者の多くはすぐには帰らず、集会所の外で数人が輪になり、おしゃべりを続けている姿をよく見かけます。「今日は○○さんがお休みなんだって」「さっき連絡があったよ」。そんなふうに、参加者同士が互いを気にかけ、連絡を取り合う関係も生まれてきました。 

 また、会場づくりの時に椅子を並べたり、名札を配ったり、初めて参加された方に声掛けをしたりと、活動を支えてくださる方も増えました。活動を始めたころは「参加する人」と「進行する私たち」という関係でしたが、今では「みんなでこの場をつくる仲間」という雰囲気に変わってきています。 

音楽が持つ「居場所」を育てる力

 実はここで紹介した団地での音楽活動は、大学のゼミの活動として行なっているため、私のゼミに所属する大学生たちが主に進行役となって活動しています。学生たちは歌や楽器活動を支え、ときには参加者の皆さんと世間話をしながら、一緒に活動をつくっています。 

 参加者の皆さんは、学生たちとの時間もとても楽しみにしてくださっています。「最初は緊張していたけど、ずいぶん頼もしくなったね」「卒業したら寂しくなるね」。そんな言葉を耳にするたびに、まるでお孫さんの成長を見守るような気持ちで学生たちを迎えてくださっていることを感じます。学生たちも、地域の方々との何気ない会話や笑顔に励まされながら、人と関わることの楽しさや、音楽が人と人との距離を近づける力を学んでいます。 

 音楽は、世代を超えた新しい関係を育ててくれるのです。もちろん、この変化は音楽だけの力ではありません。同じ場所で顔を合わせ、時間を重ねてきたことも大きな理由でしょう。しかし、会話だけで関係を築こうとしても、人によっては話題が見つからなかったり、人見知りをしたりして、距離はなかなか縮まりません。 

 しかし、音楽には、「一緒に歌う」「一緒に演奏する」「一緒に笑う」という共通の目的があります。そこでは、年齢も、立場も、経験もあまり関係ありません。同じ歌を口ずさみ、同じリズムに合わせて楽器を鳴らし、一つの演奏をつくり上げる。その体験を重ねることで、「この人と一緒に過ごす時間は心地よい」という感覚が、少しずつ育っていくのです。 

 こうした例は高齢者だけに限ったことではありません。きっと皆さんにも、似たような経験があるのではないでしょうか。学校の合唱コンクールで毎日練習したこと、吹奏楽部や軽音楽部で演奏を重ねたこと、友達とカラオケで思い切り歌ったことなど。 

 最初はそれほど親しくなかった相手でも、同じ音楽を共有する時間を重ねるうちに、自然と仲良くなっていたという経験は、多くの人にあるのではないでしょうか。音楽は、人と人との間に共通の思い出をつくります。そして、その思い出は、「また会いたい」「また一緒に歌いたい」という気持ちへとつながっていきます。 

 私は、音楽の価値は、上手に演奏したり、美しく歌ったりすることだけではないと考えています。人が安心して集まり、誰かを思いやり、自分も誰かに受け入れられていると感じられる場所をつくること。そんな「居場所」を育てる力も、音楽の大切な価値ではないでしょうか。 

 前回担当したコラムでは、音楽が心や体に与える働きについて紹介しました。今回は、それに加えて、音楽には人と人との関係を育てる力があることをお伝えしました。団地での活動を続ける中で、参加者同士が互いを気にかけ、学生たちの成長を一緒に喜び、活動の場を皆で支え合う姿を見るたびに、その力を実感しています。 

 音楽は、人の心を動かすだけではありません。人と人との距離を少しずつ縮め、誰もが安心して集える居場所を育み、暮らしを豊かにしていきます。私はこれからも、そんな音楽の力を信じて、地域での活動を続けていきたいと思っています。 

 次回は、檜垣智也先生に、知っているようでよくわからない〝不協和音の効果〟について、作曲家の立場から、そのおもしろさと謎を紹介していただきます。どうぞお楽しみに! 

近藤真由(東海大学教養学部芸術学科准教授)

こんどう・まゆ 愛知県生まれ。東海大学教養学部芸術学科音楽学課程卒業。東海大学大学院医学研究科修了。博士(医学)。日本音楽療法学会理事、日本音楽医療福祉協会理事を務める。認知症予防を目的とした音楽療法の実践や講演活動を通し、音楽が人びとの健康や幸せに貢献できることを目指す。

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