【望星インタビュー】柴田昌平さん―――映画『百姓、わらう。』で伝えたいこと

ドキュメンタリー映画監督の柴田昌平さんはここ数年、〝百姓〟をテーマにした作品を続けて世に出している。その二作目にあたるのが9月26日公開の『百姓、わらう。』だ。「私たちの『毎日のごはん』の向こう側で生きる、全国の若い農家たちを4年にわたって見つめた」映画から見えてくる「百姓の真の意味」「本質的な豊かさ」、そして「日本の食の未来」とは――? 

野菜づくりは「いい土」があってこそ

――『百姓、わらう。』でまず驚いたのは、若い農家のみなさんの土づくりに対する情熱です。「土を焼く」という驚きの工夫をしたり、微生物を最大限に活用したり、本当にすごいなと思いました。

 作物や牧草を育てるサイクルは長くても一年くらいのことが多いですけれど、生育の土台となる土は百年単位で作り上げられてきたものなんですよね。先人たちの知恵や技術の積み重ねによって、生育に適した土ができていく。そこへ、いままさに「農」に携わっている人たちの知恵や技術が積み上げられて、よりよい土ができあがっていくんです。土壌微生物の研究も日々進められていて、その土に合わせた微生物との付き合い方を真剣に考えている農家がたくさんいます。土の世界って本当に奥深いんですよ。

――じつは一年前から家庭菜園をやっていて失敗ばかりしているものですから、映画を観る前には「何か参考にできるんじゃ?」という下心もあったのですが、いや、とんでもない。おこがましい考えでした(笑)。

 でも、畑仕事ってやっていて楽しいでしょ? 僕も家庭菜園をやっていますけれど、野菜が育っていく喜びは大きいですよね。 

――そうですね。失敗もまた「次こそは!」と思うと楽しいです。柴田さんは2022年公開の『百姓の百の声』と続編となる『百姓、わらう。』、二作続けて「農」をテーマに映画を撮影されていますね。

 学生時代から「農」には興味があったんです。大学では文化人類学を専攻していて、実習で山梨県の標高900メートルの場所にある村に二週間ほど滞在したことがあるんですが、そこで農家の人たちと仲良くなって、その暮らしの豊かさを実感したんですね。そのまま大学を一年休学し、農業を手伝いながらお年寄りたちの暮らし方を聞き書きしたりもしました。

 卒業後も農的な世界や農村といったものにはずっと興味はあったんですが、焼き畑をやっている村や山村を映像で記録する仕事などをしてきたものの、農業そのものをじっくり見つめるチャンスがなかったんです。気づいたら55歳になっていて、「そろそろ取り組まないと体力もなくなっていくし……」と思うようになり、とにかく行動を起こそうと。それで、農業のことはよくわからないまま全国の農家を訪ね歩き、出会った「農」の巨匠たちを軸に一作目の『百姓の百の声』を制作しました。

「百姓」には農家の矜持と誇りが込められている

――タイトルで放送禁止用語になっている「百姓」を使っているのは、どのような思いからですか? 

 百姓とは、もともと「百の仕事ができること」「百の技術をもっていること」を指す言葉でした。ちょっとした大工仕事をしたり、農具や生活用具を作ったり修理したり、自然を観察して畑や里山の環境を整えたり……そういう生活に根差したさまざまな仕事ができるという意味で、「百姓」は本来ポジティブな言葉なんです。「自分はまだ百姓じゃなく十姓だから」といった言い方をする方もいるし、「自分は百姓だから」と言うときには知恵と技術を介して土と共に生き、作物を作ってきたという矜持が込められている。それぐらい農家にとっては誇りある言葉なんですよ。

 戦後、人を蔑むニュアンスがあって差別的だということで放送では積極的には使えなくなりました。けれども、言葉そのものがもつ意味を考えると、百姓には「農業従事者」や「生産農家」といった言葉では表せない豊かさがたくさんあります。実際、百姓は作物を作るだけでなく、その土地の環境や風景、文化や風土などを守ってきた側面がある。そう考えると、いまある〝日本〟を多面的に形作ってきた存在とも言えるんじゃないかな。

 それにもかかわらず、いろいろな意味で貶められてきた言葉なので、もとの意味に正せたらなとの思いがあって、前作も今作もタイトルに使ったんです。

若手の農家はいまや絶滅危惧種!?

――『百姓、わらう。』の登場人物はみんな49歳以下です。比較的若い世代のお百姓さんたちに焦点を当てようと思われたのは?

 49歳以下の農家の担い手は日本の全人口の0.1%しかいなくて、日本の農家だけで見ても1割に過ぎません。当の本人たちは明るく「僕らは絶滅危惧種なんで」と言っていますが、これからの「農」の未来を作っていく世代がどんなことを考えて、何に取り組んでいるのかを知っておかないと、農業の未来が見えないなと思ったんですね。

 もうひとつ、49歳以下って高度経済成長期を知らない世代なんです。経済的な発展や効率ばかりを追いかけていた右肩上がりの時代を知らない分、彼らは地に足がついているというか……僕自身、1963年生まれで高度経済成長のなかで育ってきたわけですが、僕たちの世代とはまったく違う感覚と価値観で「農」を捉えている。100年前から続く知恵と技術を生かしながら、100年先の未来を見据えているんです。そこがおもしろいと感じたんですよね。それと同時に、僕たち世代は何をやってきたんだろう、日本の長い歴史のなかで大事なものを壊してきた世代として後世に記憶されるんじゃないかと、申し訳ない気持ちでいっぱいにもなりました。「ごめんなさい」と心の中で唱えながらカメラを回しつづけていました。

――個人的に、なんとなく新規就農を目指す若い人たちが増えているイメージがあったので、若手農家が自分たちを絶滅危惧種と言っているのが、ちょっと意外でした。

 統計上の数字では、新規就農の人の数は増えてもいないし、減ってもいないんです。ただ日本の人口は確実に減っていくわけですし、現在の農家の平均年齢は68歳ですから、その方たちが抜けていくと、農作物を食べる人より作る人のほうが圧倒的に少なくなっていきます。最新技術を駆使したスマート農業にも限界があって、生産者が減少していくなかで生産性を上げることは、かなりむずかしい。

 ということは、米も野菜も間違いなく足りなくなることが目に見えている。乳製品だって同じです。ですから農業に興味をもってくれる人、農業を支えてくれる人がちょっとでも増えていかないと、日本の食の未来は暗いものにならざるをえないんです。 

「僕たちはどこまでも豊かに生きられる」

――『百姓、わらう。』を観て印象的だったのは、絶滅危惧種の若いお百姓さんたちが「農」と「食」についてしっかりと考え、創意工夫している姿でした。

 農業を取り巻く環境は、楽しく明るいことばかりではありません。

 たとえば国は盛んに規模拡大やスマート農業による効率化を推進していますが、そこに足を踏み込んだ人を待ちうけているのは借金の連鎖です。作付面積や放牧面積、家畜の頭数を増やすほど経費が跳ね上がっていきますから、規模を拡大しても「儲かる農業」にはならないような構造になっている。

 政府がいま推進している農業政策は、小さい農家たちをどんどん排除していこうとするシステムなんです。けれども4年をかけて彼らを取材・撮影してみて、小規模農家に冷たい農業政策や思い通りにならない自然を相手にしながら、すべての喜怒哀楽を飲み込んで生き抜く強さを感じました。大変なことはもちろんたくさんあるけれども、彼らはそれらを笑い飛ばしながら、本当の意味での「豊かな生活」を営んでいるんですよね。

――一般消費者である私たちが農業や農家と聞くと、「休みがなくて大変そう」「きついわりには儲からない」などネガティブなイメージになりがちです。けれど、そんなイメージを覆すような豊かな暮らしが、映画の中では営まれていました。

 週休1.5日で、夕方6時には仕事を終えて子どもを毎日お風呂に入れている若手の有機農家もいるし、直接契約している100軒の顧客と信頼関係を築きながら棚田米を届けることで年間400万円の所得を実現している若手農家もいます。そのうちの一人が「たくさん稼がなくても、僕たちはどこまでも豊かに生きられる」と言っていました。「足るを知る」という感覚が、この映画に登場する若手農家みんなの思いでもあるんじゃないか。撮影を通して、そんなことも思いました。

――登場する一家の子どもたちがまた、とにかくたくましいですよね。田畑や自然の中で全身をフルに使って遊んでいたり、小さな子が鉈で薪割りをしていたり。

 遊んだり家の仕事をしたりしているうちに、子どもは自然との付き合い方、周りの人との付き合い方、体の動かし方なんかを経験的に学んでいる。大人はそれを見守っている感じでしたね。「所得400万円で子育てできるのか?」と思う人もいるかもしれませんが、「村の人が子どもたちを見ていてくれるし、農村の教育力ってすごいんですよ」とも言っていました。若手農家がいて子どもたちがいると、地域もまた元気になるみたいですよ。 

若い小規模農家を支えるために必要なのは?

――先ほど、「農業に興味をもってくれる人、農業を支えてくれる人がちょっとでも増えていかないと、日本の食の未来は暗いものにならざるをえない」とおっしゃっていましたが、そうした人が増えていくには、消費者である私たちの意識を変えていく必要がありそうです。

 そうですね。買って支えることも大切ですが、まずは「農」の世界に少しでもいいから触れてみてほしいです。

 家庭菜園はもちろん、プランターで野菜を育ててみるだけだっていいんです。実際にやってみると、自分が口にするものを自分の手で育てるむずかしさがわかる。むずかしさがわかると農業や農家、農作物への思いも変わってくるのではないかと思います。家庭菜園をやっている身としては「多くの人が野菜作りを始めちゃったら、市場がなくなって若い農家は困るんじゃないか」と思って彼らに申し訳なさを感じていたのですが、「野菜作りをする人が増えたほうが、僕たちの作ったものがどれだけすごいかをわかってもらえる」と言われたときには目からウロコでした。

――確かに一回やってみれば、作り手のすごさや、スーパーなどで簡単に買えるありがたさがわかりますよね。私自身、家庭菜園をやるようになって、農家さんたちの技術力や農業に対するひたむきさを、身をもって感じています。

 種の蒔き方、水やりの仕方、土の扱い方をはじめ、農業は知恵と技術のオンパレードですからね。しかも農家は自分の知恵や技術を隠さず、広く共有していくんですよ。開発した技術があったら、周りに惜しみなく教えていく。それをまた教えられた人が自分なりに広げていく。これを繰り返し、互いに知恵を共有し合うことで成り立ってきた世界なんです。 

――それを、これからも連綿とつないでいきたいですね。DJから農家に転身した方が「五年後、若者たちは必ず山に戻ってくる」と本編の中で話していて、都会から「農」をやりたくて移住してくる若者が増えていくと予見されていましたよね。映画自体、全編を通して希望を感じさせてくれましたが、最後にこの言葉を聞いて、大きな希望をもって観終わることができました。

 いまは学生をはじめとする若者が、就職を考えるときに農業を選ぶケースはほとんどないと思います。「大儲けはできなくても、自分の手で育てたもので人や自然とつながることができる。そんな健やかで豊かな生活もあるんだ」と気づいてくれたら、農業も選択肢のひとつになり、「農」の若い担い手も少しずつ増えるのではないかなと思います。

「農」の豊かさを共有できる人を増やし、未来につなげたい。だから若い人たちにも、この映画をぜひ観てほしいなと思っています。

(聞き手・文 八木沢由香)

写真はすべて映画『百姓、わらう。』より ©プロダクション・エイシア
公開情報

東京・ポレポレ東中野   9月26日(土)~
大阪・第七藝術劇場    10月17日(土)~
京都シネマ        10月23日(金)~11月5日(木)
横浜・ジャック&ベティ  10月31日(土)~
神戸・元町映画館     10月31日(土)~11月6日(金)
札幌・シアターキノ    11月7日(土)~11月20日(金)
フォーラム仙台      11月13日(金)~11月26日(木)
フォーラム山形      11月13日(金)~11月26日(木)
フォーラム福島      11月13日(金)~11月26日(木)
新潟・高田世界館     11月21日(土)~
広島・横川シネマ     11月28日(土)~          
その他、順次公開

詳しくは、映画公式サイトをご覧ください。

https://www.100sho.info/

柴田昌平さんには2015年5月号特集「和食探偵が行く ―その1 だしって何者?―」で映画『千年の一滴 だし しょうゆ』についてインタビューしています。こちらも、ぜひご一読を。

【望星アンコール あの日あの記事】
だしは自然と人間の叡知の結晶です――世界に、何より日本人に知ってほしい食文化――
https://web-bosei.jp/?p=13239

ドキュメンタリー映画監督 柴田昌平

しばた・しょうへい 1963年東京都生まれ。NHK(沖縄放送局、東京・報道局特報部)に4年間勤務の後、日本全国の農山漁村の生活文化を記録する「民族文化映像研究所」で記録映画に従事。31歳で独立し、プロダクション・エイシアを設立。NHKの特集番組のほか、海外放送局との国際共同制作の最前線でも活躍。劇場公開作品に『ひめゆり』『森聞き』『千年の一滴 だし しょうゆ』『陶王子 2万年の旅』『百姓の百の声』がある。

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