「ついさっきまで元気だったのに、突然倒れて亡くなってしまった」。脳卒中は、突然死を招く可能性があるとても怖い病気だ。たとえ命が助かっても、後遺症によって生活が激変してしまうこともある。脳卒中とはどのような病気なのか、そして予防するために必要なこととは何か、脳神経外科専門医の松前光紀さんに聞いた。
脳卒中とはどんな病気なのか?
――脳卒中は、常に日本人の死因の上位に位置していますね。改めてどのような病気なのかを教えてください。
いま日本人の死因において、1位のがん、2位の心疾患、3位の老衰に続き、4位に位置しているのが脳卒中です。
まずは「脳卒中」という言葉がしめす意味を考えてみましょう。「卒中」とは、「卒然として邪気や邪風に中[あた]る」という意味です。つまり脳卒中とは、〝突然始まる脳の病気〟ということですね。ついさっきまで元気だったのに、突然に手足が動かなくなる、手足がしびれる、言葉が出なくなるなどの症状があらわれます。
ちなみに歴史上の人物では、戦国大名である上杉謙信が脳卒中で亡くなったのではないかと言われています。上杉家の歴史をまとめた『謙信公御年譜』には、謙信が厠で突然意識を失って倒れ、その後亡くなったと記録されています。
脳卒中という疾患には、〝脳の血管が詰まるもの〟と〝脳内や脳の表面に出血を起こすもの〟の2つのタイプがあります。
まず、脳の血管が詰まるタイプのことを「脳梗塞」と言います。そして、脳内に出血を起こすタイプのなかには脳の中の血管が破れる「脳出血」と、脳の血管にできた脳動脈瘤が破裂して、脳表面を覆っているくも膜の下に出血が拡がる「くも膜下出血」があります。
「脳出血」は脳の内部で出血が起こるもの、「くも膜下出血」は脳の表面に血液が拡がるものと理解しておくといいでしょう。
――なるほど。脳卒中とは脳梗塞と脳出血の総称で、脳の出血には2種類あるということですね。
もう少し細かく言うと、脳梗塞にもタイプがあり、血管の詰まり方によって「ラクナ梗塞」「アテローム血栓性脳梗塞」「心原性脳塞栓症」の3つに分けられます。
「ラクナ梗塞」は脳の細い血管で起きる小さな脳梗塞です。小さい脳梗塞であるため、症状が比較的軽かったり、症状が出ない場合もあるのですが、気づかないうちに数ヵ所に梗塞が起きることで、認知症などの原因になることがあります。
2つ目の「アテローム血栓性脳梗塞」は、脳の太い血管にできた動脈硬化が原因となるものです。アテロームというのは、血液中の余分なコレステロールなどが溜まったもので、これによって血管内が狭くなっていき、血管が詰まりやすくなるわけですね。
そして、3つ目の「心原性脳塞栓症」は、心臓内でできた血液の塊(血栓)が飛んで脳の血管を詰まらせるものです。

発症すると後遺症が残ることも
――先ほど、脳卒中は日本人の死因の4位ということでしたが、かつては順位がもう少し高かったように記憶しています。
そうですね。1980年ぐらいまでは死因の第1位でした。その大きな理由は、高血圧の人が多かったからだと考えられます。当時は、高血圧と関係する脳出血で亡くなる方が多かったのですが、減塩などの取り組みが進んだり、血圧を下げるよい薬が出てきたりして、脳出血はすごく減ってきています。ただ、その一方で脳梗塞は増えてきているんですね。
――脳卒中が起こってしまった場合、どのようなリスクがあるのでしょうか?
最も大きなリスクは寝たきりになる割合が高いということです。介護保険制度における区分の中で最も重い状態である要介護5となった原因を見ると、第1位は脳卒中で26.3%です。要介護4で見ても1位はやはり脳卒中で28%となっています。
治療法も進んできていますので死亡率は低下しているのですが、発症してから時間が経つほど壊死していく脳細胞がどんどん増えていきますから、発症した部位と拡がり方によっては、何かしらの後遺症が残ることが多いんです。
――後遺症が残ってしまうのは怖いですね。
そうですよね。状態によっては、社会復帰が困難になることもあります。ですから、脳卒中の治療後は、低下した機能をできる限り回復させていくためのリハビリが、非常に大切になってくるのですね。

キーワードは「片方だけ」「突然に」
――脳卒中の治療法としてはどのようなものがあるのでしょうか?
脳梗塞の場合は、血栓を溶かす血栓溶解療法があります。発症から4時間半以内であれば血栓溶解薬(t-PA)を点滴することで血管が再び開通して、それ以上脳細胞の壊死が拡がるのを防ぐことができます。また発症6~8時間以内(条件により24時間以内でも考慮)であれば、カテーテルという器具を使って血栓を除去する血管内治療も有効です。
脳出血に関しては、薬で血圧を下げる降圧療法が主な治療法です。ただし「くも膜下出血」のように急激に症状が起こって意識障害を起こし、突然死につながるような危険がある場合は、手術で開頭して動脈瘤の根元をクリップで挟むなどの外科手術やカテーテルを使った血管内治療を行います。
いずれにしても大きな後遺症を残さないためには治療に至るまでの時間が勝負となります。血栓が小さいうちに溶かしたほうが、機能しなくなる脳の範囲を小さくすることができます。
――脳梗塞から脳出血につながることもあるのですか?
脳梗塞の時間が長くなるほど血管全体も弱っていきますから、時間が経った脳梗塞に血栓溶解薬(t-PA)を使ったり、血液の塊を取り出す治療をしたりすると、弱くなった血管が破れて脳出血を起こしてしまう可能性があります。ですから発症してから治療を始めるまでの時間は非常に大切です。脳卒中が疑われるときは、ためらわずに、すぐさま救急車を呼んでください。
――どんな症状があったら脳卒中を疑うべきなのでしょうか?
片方の手足や顔面が動かない、片方だけしびれる、片方の目が見えない、ろれつが回らなくなる、言葉が出なくなる、めまいがする、バランスがとれなくなる、激しい頭痛が起こる、意識がもうろうとする、意識がなくなる、こうした症状が突然、急に出た場合は脳卒中の可能性がとても高いです。
――ろれつが回らない、しびれやめまいが起こる、意識がもうろうとするなどの症状は、夏場の熱中症の症状とも重なるような気がします。見分けるポイントはありますか?
ひとつは徐々に具合が悪くなっているのか、突然に具合が悪くなったのかがポイントです。もうひとつ、しびれや手足が動かしにくいということでは、両方なのか片方だけなのかもポイントになります。「片方だけ起こる」「突然に起こる」が脳卒中の特徴と覚えておいていただくとよいでしょう。

脳卒中を防ぐために日常生活で気をつけたいこと
――脳卒中を予防するという面ではいかがでしょうか? 日常で気をつけるべきことがあれば教えてください。
まずは血圧の管理です。脳卒中の最大の危険因子が高血圧ですので、血圧が高い方はきちんと治しておきましょう。目標は130/80mmHg未満です。自宅で普通に過ごしているときでしたら125/75mmHg以下を目標にしてください。
現在では、血圧を下げる効果の高い薬がいろいろと出ています。また、食事や運動についての指導もきちんと行われるようになっていますから、それらをしっかり守っていただくことですね。
それから糖尿病や脂質異常症も、高血圧と並ぶ脳卒中の危険因子とされています。これら3つは生活習慣病といわれているものです。定期的に健康診断を受けて自分の体の状態を知り、数値に異常があったら医療機関を受診して必要な治療を受け、生活習慣病を治していくことが大切です。
――生活習慣の改善が、脳卒中を防ぐ上でも大切といえそうですね。
そうですね。薬を飲んだりすることだけが予防や治療ではありません。食事に気をつけたり、適度な運動を心がけたりして、生活習慣を改善していくことも日常でできる脳卒中の予防になります。
食事については、「地中海食」のようなバランスの取れたものがよいと言われています。地中海食とは、肉類や乳製品を少なくし、魚や野菜を多めにして、ナッツ、豆類、全粒粉といった未精製の穀物を取り入れたバランスのよい食生活で、オリーブオイルを使用しているのも特徴です。
オリーブオイルには、悪玉コレステロール(LDL)を下げる作用があることから注目されています。ただ、体によさそうなイメージのオリーブオイルですが、カロリーが高いため、量を使い過ぎないことは大事です。
――悪玉コレステロールを減らすことも意識していくとよいのですか?
コレステロールは食事から入ってくるだけではありません。その多くは肝臓でつくられ、血液を介して全身に運ばれています。肝臓でつくられたコレステロールを全身に運んでいるのが悪玉コレステロールです。反対に、余ったコレステロールを回収して肝臓に戻す役割をしているのが善玉コレステロール(HDL)です。
このバランスが崩れて悪玉コレステロールが増えてしまうと、血管にコレステロールが溜まって動脈硬化を起こし、脳梗塞や心筋梗塞を起こすリスクが高くなります。したがって食生活や適度な運動で悪玉コレステロールを下げることも大切なんですね。
それからお酒に関してですが、厚生労働省が適量としている純アルコール摂取量は、一日あたり20g程度です。生活習慣病のリスクを高める接種量は、成人男性で1日当たり40g以上、成人女性で20g以上です。過度の飲酒は生活習慣病につながるので、ここも気をつけてほしいですね。
飲んだお酒に含まれるアルコール量はインターネットなどで簡単に調べられます。「ボトル半分のワインのアルコール量」などと打ち込んで検索すれば、すぐに純アルコール量が出てきますので活用してみてください。運動に関しては、無理のない範囲で、日常のなかに有酸素運動などをとりいれていきましょう。
ちなみに、脳卒中の危険性を高める最も悪い生活習慣が喫煙です。くも膜下出血の原因となる脳動脈瘤は、喫煙を続けるほど破れるリスクが増えていきます。脳卒中を防ぐためにも、タバコを吸っている方は禁煙をしましょう。
症状が軽くても様子見は絶対NG
――脳卒中の症状が自分や家族などの周りの人に出たときには、とにかくすぐに119番に連絡して救急車を呼ぶ。これだけをしっかり覚えておけば大丈夫ですか?
落ち着いて〝発症した時間〟を救急隊員に伝えてください。救急隊を呼んだときは、救急隊員も必ず「いつ具合が悪くなりましたか? 何時何分に症状が出ましたか?」と聞いてきます。いつ具合が悪くなったのかわからない、気づいたら倒れていたというような場合は「最後に元気な姿を見たのは何時何分ですか?」と聞かれます。
4時間半以内なら薬で血栓を溶かすことができると先ほどお話ししましたが、病院に着いてから点滴が始まるまで40~60分ぐらいはかかります。発症した時間は、どのような治療を選択するかにかかわってきますので、時間がわかる場合はなるべく正確な時刻を伝えましょう。
――なかには救急車を呼ぶことに遠慮を感じて、「しばらく様子を見よう」と思ってしまう方もいそうな気がしますが……。
脳卒中の症状は秒単位でどんどん悪化していきますので、たとえ症状が軽かったとしても、しばらく様子を見ようというのは絶対にダメです。電話で「突然に具合が悪くなりました」と伝えれば、救急隊も脳卒中の可能性を考えてすぐに駆けつけ、医療機関に搬送してくれます。症状が重いか軽いかに関係なく、異変が突然起こったら遠慮なく救急車を呼んでいただいて構いません。
――他に気をつけておきたい点はありますか?
一時的に脳の血流が悪くなり脳卒中の症状が出たものの、すぐに症状が治まる「一過性脳虚血発作」というものがあります。これは、脳梗塞の前触れと考えられており、症状が消えたとしても油断はできません。一度はよくなっても、10~15%の人が3か月以内に脳梗塞を起こしていますし、このうちの半数は2日以内に脳梗塞を発症しているんですね。
ですので、ちょっとろれつが回らなくなったり、右手に少し力が入らなかったりしたけれど、すぐに(あるいはしばらくしたら)症状が消えてよくなりましたという場合でも、決して軽く考えず、必ず病院を受診していただきたいと思います。
(構成・八木沢由香)
まつまえ・みつのり 1982年東海大学医学部卒業。国立病院医療センター(現・国立国際医療センター)にて臨床研修を行い東海大学大学院へ進学。1988年医学博士号取得。1990年から1992年までハーバード大学医学部・ボストン小児病院で基礎研究に従事。2005年より東海大学医学部脳神経外科教授。2022年4月より東海大学名誉教授。2022年4月より医療法人社団三喜会横浜新緑総合病院院長。2025年10月より医療法人横浜未来ヘルスケアシステム医療政策アドバイザー。 2026年6月より戸田中央メディカルケアグループTMG本部医療連携特別顧問。脳神経外科学会専門医。日本脳神経外科学会特別会員。

