道路や橋などのインフラは私たちの生活を支えている大切な公共施設。しかし、日本ではここ数年だけでも、水道橋の崩落や道路の陥没、水道管が破裂して水が噴き出すような事故が多く起きている。いまなぜそのような事故が頻繁に発生しているのか? そして、これからどのように対応すればよいのか。インフラや地震工学に詳しい三神厚さんに聞いた。
日本のインフラの多くは「50歳」を超えている!
――最近、インフラ事故といわれるようなニュースを耳にすることが多い気がします。まず基本的なところですが、国土に関するインフラといった場合、どういったものが範疇に入るのですか?
橋、トンネル、道路、上下水道、河川堤防・ダム、港湾施設などの土木分野の公共構造物に加え、公共建築物をインフラといっています。要は人や社会の生活を支える基盤、ライフラインとなる施設や設備ですね。
――最近では下水道管の劣化による道路陥没なども起こっています。日本のインフラは全体的に、かなり老朽化が進んでいるのでしょうか?
進んでいると言わざるを得ないでしょうね。日本でインフラ整備が急速に行われたのが1960年代から70年代のいわゆる高度経済成長期です。64年の東京オリンピックなどもありましたので、環境整備の意味も含めていろいろな構造物が大量に、そして一気に整えられていきました。
それから50年以上が経っています。50年というのは、管理上の基準で老朽化が顕在化しやすい年数とされています。現在は、「50歳」を超えた構造物がたくさん出ているため、いろいろと問題が発生してきていると思われます。
――このままだと老朽化していく一方になるのでしょうか?
国土交通省が発表した資料によると、2040年までに多くのインフラが加速度的に老朽化していくとされています。たとえば道路や橋は2040年時点で75%、トンネルは52%が建設後50年以上となります。老朽化した施設や設備がどんどん増えていくわけです。そのスピードに対して、メンテナンスのためのお金と人が追いついていけば問題はないのですけれど、実際はなかなかそうもいかないというのが現状ではないかと思います。

笹子トンネルの事故を転機に変わったメンテナンスの考え方
――メンテナンスは当然行われていると思いますが、今どうなっているのでしょうか?
以前は「事後保全」といって、たとえば壊れてから対応するというように、何か事が起こってから保全にあたるという考え方が中心でしたが、今は「予防保全」を目指す考え方へと変わってきました。大きく損傷してから修理・修繕をするのではなく、インフラが致命的なダメージを受ける前に計画的にメンテナンスを重ねて事故を防ぐ方向に転換が進んでいるんですね。特に重要な構造物に関してはこの傾向が顕著です。
建設から始まって維持管理、それから解体に至るまでのトータルの費用である「ライフサイクルコスト」も、事後保全より予防保全のほうが低減できることが多くの分野で示されています。国土交通省の2048年度までの試算によると、予防保全にすることで、分野によっては累計で約3割のコスト縮減ができるとの見積もりも出ています。
――人間の体と同じで、インフラも早期発見・早期治療によって「健康寿命」を延ばせるし、コストも抑えられると。事後保全から予防保全に考え方が変わってきたのはいつぐらいからなのですか。
メンテナンスの重要性が強く言われ出したのは、2012年に起きた中央自動車道上りの笹子トンネルの天井板崩落事故からではないかと思います。あの事故がメンテナンスの考え方を変える大きな転機になりました。もちろん、それ以前にもインフラメンテナンスに関する研究をしていた研究者はいて、ある時点から急にゼロがイチになったわけではないのですが。
――笹子トンネルの事故は記憶に残っています。世間的にインフラ設備の老朽化がクローズアップされ出したのも、その頃からだったような……。
そうですね。重要設備のメンテナンスもその辺りから急速に進められるようになったと思います。
それから耐震補強に関しては、1995年の兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)を契機に盛んに行われるようになりました。優先度の高い緊急輸送道路から、現在も継続的に耐震補強のための整備が進められています。
予算も人も足りていないのが現実
――日本は地震大国ですし、近年はあちこちで震度の大きい地震が起きるようになっていますよね。さまざまな設備のメンテナンスが追いつかない状況で大丈夫なのかと心配になったりもするのですが。
ヨーロッパなどの地震がほとんどない国と比べて、日本ではもともと耐震基準に沿った、地震に対して強い構造物が造られてきているんです。さらに、大きな地震が来て想定外のことが起こったりするたびに、そこで得られた知見を取り入れた設計基準の見直しが行われています。
ですから、一般に新しい構造物ほど耐震性は高い。現在の耐震基準を満たしていないような古い構造物については、前述したように耐震強度を上げていく努力がなされています。
ただ日本の場合、地震だけではなく、台風や豪雨による洪水や河川の氾濫、火山噴火といった自然災害も非常に多いですよね。インフラ構造物も、自然災害によってさまざまな試練を受けていますので、劣化速度も早くなりやすい傾向にあると思います。
災害だらけということもあって「インフラは大丈夫なのか?」と心配になると思いますが、2013年からは「国土強靱化基本計画」に基づいて、計画的にインフラの耐震化、老朽化対策が進められていますし、橋の点検なども国土強靱化の以前からしっかり行われてきています。
とはいえ、予算も人も足りていないのが現実です。お金がたくさんあって、人もいくらでも使えるということであれば、すべてのメンテナンスが一気に進むと思うのですが、現実的には難しいので、優先順位をつけて対応していくしかありませんね。
――お金と人、より足りないのはどちらなんですか?
両方ともですが、人材はとにかく不足しています。土木に限らず、その他の分野も全般的に人が足りてはいませんけれど、特に土木分野の人手不足は深刻ですね。
「選択と集中」「AI活用」がインフラ持続のカギ
――予算も人も足りないというなかで、日本のインフラを持続させていくにはどうしたらよいでしょうか?
残念ながら、これまでのように「今あるものはすべて維持管理しよう」ということは、もう無理になってきています。ですので、これからは「選択と集中」が必要になってくるでしょう。優先順位をつけて、優先度の高いものから計画的に進めていき、人も予算もそこに充てていく。当然、人の命に関わるようなものほど、早く進めていく必要があります。
人口減少が進むような地域においては、点検結果や利用状況などを踏まえたうえで施設の集約化や撤去、あるいは機能を縮小させるといったことも考えていく必要があるかもしれません。インフラ全体を持続させていかなければなりませんので、そうした点からの話し合いをするべきと考えます。
あとは技術的なことで言うとAIの活用ですね。私自身も人手不足を補完するためにAIを使ったインフラメンテナンスの研究に取り組んでいます。
――インフラメンテナンスにAIを活用するというのは、どのようなものなのですか?
構造物にセンサーを取り付けて、センサーで取得されたデータをAIで分析し、構造物に損傷が発生しているかを自動で判定する損傷検知のシステムを研究しています。センサーを通じて、構造物の揺れから損傷が発生しているか、発生していないかを判断するというものです。
今とくに力を入れて開発を進めているのは、日頃の小さな地震による構造物の揺れをセンサーで感知して、その際の構造物の揺れを大量にAIに学習させ、いざ大きな地震がきたときに即時かつ自動で損傷の有無を検知できるようなシステムです。 基本的なアイデアは、『土木学会論文集』(三神厚、2023)で発表しています。
損傷が生じているかをすぐさま判定できることが、その構造物から避難すべきかどうかの1つの判断基準となります。たとえば「この橋は損傷が生じているかもしれないから、通行をすぐに止めましょう」とか、「この道路は大丈夫だ」とかですね。
ダムや高速道路であれば、地震の後に、どの施設から優先的に点検や検査に行けばよいかをAIが判断してくれますし、危険と判断したらアラームを鳴らして付近の人々を避難させるといったこともできるでしょう。建物であれば、そのまま住み続けて大丈夫なのか、安全なのかを判断することもできるようになるかもしれません。そうしたことを目指して研究をしているところです。
――大きな地震がいつ起きてもおかしくないですし、ぜひともはやく社会実装していただきたいです。

土木分野の学生は就職戦線で大モテ!?
――インフラの「健康寿命」をどう延ばしていくかにおいては、土木に携わる人をいかに増やしていくかも課題ですね。
AIを導入するなどして人手不足の問題を解消していきつつ、私たち大学もがんばって人材を育成・輩出していかないといけないなと思っています。
ただ、最近では土木工学を学びたいという学生が少し増えているんですよ。2025年に埼玉県八潮市で道路陥没事故が起こり、陥没穴に落ちたトラック運転手の方が亡くなりました。悲しい事故ではありましたが、あのときの映像のインパクトが大きかったのか、土木の重要性や必要性を若い人たちも実感してくれたようです。
――土木の必要性を感じて志望してくる学生さんが増えているというのは心強いですね。
じつは土木工学科への求人も、ものすごく増えています。どうも土木作業から連想するのか〝体力的にきつい仕事〟のイメージあるようで、「土木」という名前そのものは学生の保護者の方にはあまり評判がよくないようですが……(笑)。いま土木分野の学生は、企業や自治体から引く手あまたなんですよ。
世の中の流れも変わってきて、税金を老朽化対策に回すべきだといった声も多く聞かれるようになってきています。事故が起こるのは決して喜ばしいことではありませんが、老朽化が目立ち始めたことで、多くの方に土木の大切さに気づいてもらうことができたのではないでしょうか。
「コンクリートから人へ」と言われるようになって以降、公共事業に対して「土木=無駄」みたいなイメージができてしまって、これまで土木は逆風にさらされてきました。だからこそ、近年、インフラを支える土木が大切なんだと気づいてくれる方が、一般の方々のなかにも増えてきているのは、我々としても非常に励みになることです。
平時には気づきにくいけれども、自然災害から人々の安全・安心な暮らしや財産を守っているのが土木の分野なんですよね。災害の多い日本では土木工学の役割が今後ますます重要になっていくと確信しています。
(構成・八木沢由香)
みかみ・あつし 1993年、東京大学大学院工学系研究科土木工学専攻(修士課程)修了。東京大学助手(生産技術研究所)、徳島大学大学院准教授などを経て、2016年から現職。研究分野は構造工学、地震工学。

