【連載】投稿の広場◎マーサ・ナカムラ——第26回

「投稿の広場」は、詩の投稿を募り、作品の一部をご紹介するコーナーです。選者は詩のとびらの著者である詩人のマーサ・ナカムラさん。今回は2026年5月25日から月25日の募集期間に投稿された三十四篇の中から選考を行い、全作品にマーサさんから講評をいただきました。 

クリックすると拡大します
クリックすると拡大します
クリックすると拡大します
クリックすると拡大します

ぱるこ  光枝ういろ

ぱるこぱるこ的な 何か
或いは
きぎょーたいのそういとしての
び、意識 が
ちゅうーしょーてきこじんたい、
の僕には
あらかじめ引き算されていたのだろう
む、意識 内の
煉獄とてんごくのはざまでは
おそらくこんなPARCO的なこーけいを迎えるに違いない
(楽園のひかりとはこんな具合ですかね!)
引き伸ばされた白、白、白
ぱるこぱるこ的な
その内部の厳密な収束空間は
僕の視覚には眩しすぎた
ぱるこぱるこ的な 何かは
若い頃の僕のアイデンティティを
ハゲシク侵食する概念としてそこにあった

はじまりは天神の
春、確か大学四年生のとき
「新生PARCOの一号店として開業」とかなんとか
新生もなにも、田舎から出てきた僕には
ぱるこ、の響き自体がしんせんで
ぱるこぱるこぱるこ
おぱーる、みたいな
ぱるしぇん、みたいな
真珠色の輝きに満たされたその建物の壁面だけで
心がまっさらになった
初めてその内部に足を踏み入れたとき
しゅくさいのムードでいっぱいになった
僕の頭 も
地下街から湧き上がる人のカタマリも
等しく春の息吹に浸されるわけで
西鉄福岡の 天神駅の隣の
(そらりあの大画面から直結するつーろの)
ぱるこぱるこ的な
モードー感性(学園)に呑み込まれようとしては
ことごとく失敗した
エスカレーター横の開けたスペースの
つるりとひかる三人組のマネキンをみて
なんとなく、ぱふゅーむじゃん、と
   「香水」なら分かる
  男性でも身だしなみとして
 つけるものよと母から諭された
その時、女性の店員から呼び止められ
 プレゼントをお探しですか?と
  そこに本当に香水があって
   シャネル、エルメス、でぃおーる
(雑念はここで断ち切られ、)
僕は何万円もするロクシタンの香水を
故郷にいる母と妹への(後悔せる)土産としたのだった

池袋にも当然のごとくPARCOは存在し
首都への旅では決まって
ブクロの宿を利用する僕にとって
あ、懐かしい存在(概念)
として
ぱるこぱるこ的なものは
すでにかつてのぱるこぱるこ的なものではなくなっていた
明治神宮球場の
乃木坂ふぉーてぃーしっくすの公演を観に行く前の
時間つぶしに池袋PARCO本館へふと立ち寄る
涼しい!の僕の(或いはそーいとしての客の)一言が
三階分に渡るタワレコ店内のエレベーター間の場を
無限に木霊した(物色すること三時間)
一回に古本屋、のようなものがあり
そこでは海外のモード誌と
色とりどりの洋書があった
ゴーガンの
我々はどこから来たのか我々は何者か我々はどこへ行くのか
(あるいはゴーガンの他の作品かもしれないが)
が表紙となった英語版のペーパーバックがあった
THE WAY TO PARADISE
ここに僕のぱるこぱるこ的な通路があった
ぱるこへ
PARCOではなく
ぱるこぱるこ的なナニカの方へ
でも、さ
結局ゴーガンと僕は
フランスのモード誌も一緒にリュックにぎゅう詰めにしながら
乃木坂の待つ明治神宮球場の方へ駆けていった

岡山にPARCOは存在しない
したがってぱるこぱるこ的なナニカもあるわけがない
モード誌はどこかへ消えた
バルガス = リョサの洋書だけは
今も机の引き出しに大事にしまってある
(第三章の半ばで線引きは終わってしまっている)
PARCOの存在しない岡山の地に秋の匂いが侵犯、す
欅坂ふぉーてぃーしっくすの
「渋谷からPARCOが消えた日」という曲が
日本のアイドルに嵌っていた頃の
かつての脳裏に刻まれているだけ
渋谷PARCOのことは知らないし
欅坂という名前は真っ白なものにけがされてしまった、という
したがって
ぱるこぱるこ的な
鮮烈
目眩
酩酊
うしなわれたらくえん、への寄り道
あれは
若い頃の僕の中だけにしか存在しえなかった
あゔぁんちゅーる的な あどれっせんす的な
なにか
何にも代えがたかった、それでも、なにか

クリックすると拡大します
クリックすると拡大します

身分証明   森林みどり

真冬の海のめくる波濤
押し寄せる波の間に入っていく姉弟
彼らの服装は黒
白に揉まれて
姉の手にしたパラソルが高く掲げられ
彼らは生還する
歴史の遠くから来た人たち
私の姉兄たち
姉のあとを追うように 海に入っていった兄
私は彼らに私の脱いだものをかけるか考えている
黒い服の中の体は芯のように硬く
濡れた衣服が皮膚になって張り付いている
砂浜にたどる彼らの足跡は
私の足とぴったり一致する

市場では父がルーレットをしている
抽選会と書いてあるレモン棚のまえ
彼らがずぶぬれよ
私は父に報告する
父母が産んだ彼ら
彼らが産んだ父母
抽選に外れた父は
黄色いレモンの匂いを凝らせている
私は見知らぬ男から頼まれた
身分証明書をコピーする
何度やってもうまくいかない
その間も ずぶ濡れの
姉兄たちの体の冷たさを感じている
彼らのブルーの唇 頬から流れ落ちる潮水が
私の指からもつたって
床に小さな流れを作っている
火を焚けばいい
しかし 私には火をつける勇気がなかった
早く 父が到着すればいい
私は見知らぬ誰かの身分証明書を
もどかしく手に絡め
コピーをつづける

クリックすると拡大します
クリックすると拡大します

Coat hanging on the wall   あらいれいか

壁のコートは誰のものでもなく、誰のものでもある
退屈になるたびに、はずれ、バラバラとこぼれる
ランウェイを照らす 風もないのにわずかに揺れて
だから騒がず、ただ目を伏せていればよい
eat / heat / seed / lead
声を吹き入れなければならない〝木目〟であり
ただ、きらめきを「家族」と呼ぶふりをして
引き出しの中で増殖した、アンカーは絡みつく

ほら、手をあわせて。乳白色のつもりで飾る
ネイル・ライフ・ハンド・コイン
そのものだ。乾いていないので いびつに撓ませ
わたし と わたし を抱き、締めつける難破船
ひざまずき眠るものたちは柔らかく、重なりあって
まるくなり 抱き合っている。いた、
(スクリーンに誘導する。知らない街を記録する)
パーキングに汗がにじむ ピュリティ
けれどあまりに多弁すぎて、匂いは甘く、鼻につく
ただ背中は振り向かない。着水する。拡がって
オーガンのざわめきを差し替えす
中空でぶつかり、弾かれ、断片となって再び硬化する
a piece of cake とるにたらないこと、みてごらんよ

警句― Cake ―は発酵していた
エレジーは巻き添え、刑期は回転を止めない
ラングに沈み、正しい扉を開けることではない
シグナルが触れたほうが負けという欠損
つまむ のせる よそう わける
笑ながら受けとめる、過程にだけ宿る
幻想のエロージョンにボディをおさめ
つまらないな セルフダウンして
ペンキの匂いは、たまに拾うが剝してゆく
たとえば厳めしく裏返っただけのユートピアに
投げ出されたマガジン
咀嚼/反芻:食べる――Continue
拾うと形が変わっていて、もうどちらか判別できない

起き上がった体は すでに 泥のこびりついた
ドロップ・トランプ・ハンバーガー・コピー
ひと口ごとになぞってく 答えのために
雨が降る。と、小さな声が聞こえたという
空になったハンガーから わたしは伝って落ち
逆立ちしているといまに気づくだけなのです
ゆるやかに吐き出しては、鼻塞を喫む
アフタヌーンシティに 細く伸びた地上に
触れた頬はただただ柔らかいのです
アラザンと腐敗 または アットホームな職場です
パン屑の粒はひどく白く、全部、微妙に傾いて
上書きと塗り潰し、盲目に押し寄せる慣性に似ている
The cake is a lie  ほらね、毎晩 嘘だった

階段のない穴は窓しかない塔として騙られる
リング・ギャザー・パーカー・アイズ
問い詰めるには、なりそこないで、飲み込むと焼けただれる
少年器に製造された肉体は、空き缶の傍に、踵をおとす
首筋に芽吹く弱さは、陽を浴びるように
ただ会いたいと願うだけで。 すべてこちらを向いていくこと
こすれては溶けるたび ざらついて、ゆっくり煮えたぎって
膨らみかけのしびれに違いない、そこではもう、なにも欠けない
mail / navel / sail / tale――Continue

クリックすると拡大します
クリックすると拡大します

double  落下宙

遊離の合図 耳小骨がくつりと鳴って (わらったの
かもしれないね、 )濾過を待っているから瞬きをし
ている
部屋として裁断された断片には屈葬の手順が書き込ま
れていて足の踏み場がなく、天井の低さに自然と屈ま
なければいけなくなる、「月」として仮構される細々
としたひかりの一束、ぼくの薄くなる体躯の緩慢さを
ぬるく照らし、鷲掴みにされる感覚が先にくる、誰か
が尾骶骨を叩くからぼくは洞窟になって、反響(もう
ひとりいる)、しまいこんだものは少なくとも時間で
はなかったはずで、形成が終わる、述懐が終わる、
double、これはきっと不十分な説明で、例えば「星
は落ち尽くした」とか言うときのぼくの鼓膜にある微
細な振動だとかを取りこぼしている、生活と呼ばれた
破線、反響(きっと最初の乳歯が抜けた孔で眠るべき
だったのだ)、区別している、波の往復が傾く首の角
度で区別をしている、石灰岩の壁面を支配するぼくの
明晰な影、目蓋に押し込んだ輪郭との遊泳、海面の摩
擦熱が組織する大地は因果律を裏返した から
 立ち方を教えてくれる人はいない
 誰かに見られて初めて
 うぞうぞとまわりだす肢体
 風浴びるなんて、もっと後だよ

舌先には塩
trillの群生
閃きだった勾配と溶け合って
口腔を拡充するからぜろ、
崩れる骨格の反響が
別の身体を素描するからぜろ、
double、奥歯から繕った土塊を
浚う走馬灯で綺麗だったことにする
複写紙になる視線の
祈りみたいにうずくまり
 にく
  ずれる
双眸に流し込まれる風景写真に
渇き、ひどく義務的で
クリシェとなる背面跳び
誰のせいか sideB
鈍く発光するぼくの蠕動運動が
鋳造の過程ですと 飾られる

副作用としての外縁が象る竜骨には見覚えがあって、
傍に立っているぼくに船の行き先を尋ねると、ぼくは
黙って水平線を指差した そこに何があるかも知らな
いままぼくは「へえ、いいね」とぼくを見ないぼくに
答える

クリックすると拡大します
クリックすると拡大します

Mojo dancing  いなつき きゅー

この道を歩くときだけ
わたしは無力にも自由だ
銀色の田の一つ一つに埃を被せていく
覚えるべきこと
忘れていいこと
弄ばれた涎、ぐったりと貝のまばたき
ほら 今なお
誰かのものになってしまった手足がきしきし振れて
かき分けた前髪がおれだけのものになろうとえずいている

「知らない」と言うときだけ
わたしは無力にも自由だ
あの日飲み込んだ風こそ
あなたの脈動、であるならば
確かにわたしは
夏を生きていたのかもしれない
柔らかな腕にくるまれた冬を
歪みのない球を温めていたのかもしれない
いつか苦しそうな反芻のさまを
そのまま手のひらの上に広げて見せてくれたね
それだけでわたしが抱き抱えるのは
枯葉色のカフェオレがおいしい臓器

 あえぎあえぎ
 きたないわるい獣のからだ
 燃やし尽くせ
 お前の花でおれを叩きのめしてくれ

またとない絶世を
町ゆく誰もが幼少のうちに
あっけなく手放してしまうこの世界で
氾濫する巨大な音叉の波に乗せて
都市色のペンキ構造体を切り刻んでみせればいい
単位がほぐれる一瞬、そうここでポーズだ
どんなお前とやらが機構やデザインの顔をして
宇宙の縁側に寝そべる夢を見ているか
みんながみんな
自ら傷つけた血みどろの足を
忙しく駆けさせてサッカーをしている
ああ! 千切れてしまう千切れてしまう!
わたしも爆発する爆発する!
福笑いで作る赤ん坊だ!
本質も構築もわたしの足元で大きくカーブを描き
天国駅と書かれた防波堤の顔色をうかがいながら
今しがた無酸素運動胎児が練られ続けている
少しずつでも、一緒に変わっていければいいとたかを括っていた
衣擦れの男女はさぞ驚くことだろう
誰にも見せたくない本の一つや二つ持っていないで
「わたし」とはなんたる醜態だ
翼を持たない親指よ
歯ブラシの無数のひずみで削がれていく肉よ
わたしの歩幅が引き出しから飛び出し
次々に乱れていく、これは喜び
毒そのものの笑顔で完敗を認めるように
かちこちのレールを叩き壊して
惑星という惑星に海を設けてやるように
こういう夜は
なあパティ・スミス、一緒に
徹して踊ろう
余計に踊ろう
みっともなくざわざわからだを揺する鬼になろう

クリックすると拡大します

光ってるみたいだわ  大庭颯隼

空気中のプランクトンが傷まない肘に噛みついた。流し込まれるガ
ッシュ、メディウム。こんなにも、つぱ、つぱ、と張り巡らされた
壜のような早朝を通り抜ける、その一瞬は惹かる。家の前の小道。
ここには誰も居ないように思えるが、無数、大勢の、みーんな僕々
々々。くぼみ、林檎のへたが植るくぼみ。昨日と今日のあいだに浴
びたシャワーの水が、ある。詰まる、オーガンジーの網目からのぞ
いたり、鼻を擦り付けたくなる空と話してみたり、「おはよう」 、
埋まった予言と申します。ようやく魅えてきた小さいやつらを指先
でこね、こね… 子猫は上京したよ。母猫が釣り人のクーラーボッ
クスから盗ってきたイワシを咥えているよ、まだ、いまだ、咀嚼が
できないんだって。このアスファルトの親戚を探して!ブルー、ブ
ルー、何処にでも漂うガーネットが肺を揺らせ。こんなにもひろが
りっぱなしだと、紅潮すらもしたり顔の点描だわ。

講評は次ページに続きます

1 2
この記事をSNSにシェア