講評
◎は作品掲載ありの佳作、●は掲載なしの佳作、〇は選外佳作、それ以外は作品の投稿順に掲載しています。
◎「ようたし/取っ手のうつり」里見ひつじ
タイトルに歌舞伎の外題の調子を感じた。一、二連目は静脈・動脈といった肉体のイメージを伝えるが、三連目からの破調によって、まさにつかみどころのない、銀の美しさを放つ。「足元の泥」は車のアクセルの感触だろうかと思ったが、それ以降はわからない、見たことのない景色をみた。
◎「火種」あらいれいか
読み手によってみえる情景・感じるテーマが全く異なる作品ではないだろうか。私は生誕をテーマにした詩だと思った。「生まれくる道」と「引き攣れたエスカレーター」は産道を表していて、赤色のイメージは血と赤ん坊、水のイメージは羊水や体液を表しているのではないか。最後には何かを言い当てられた感じがある。杉本真維子の詩と通じる美意識があるように感じた。
◎「INTEGRATION」アリサカ・ユキ
強いメッセージを感じる。( )内の「でも、月を見ると、……」の箇所など、筆者自身の発見はこの世界を同じく生きている仲間に励まされているような感じがすることに気づいた。最終連の「水平線」は何なのか、直感的に読み取れず立ち止まってしまったことを伝えておく。しかし、小さな花から真理が世界全体に広がっていくような書き方が素晴らしい。
◎「未開領域」森林みどり
やるせなさと焦燥の末に、最後読み手にカタルシスをもたらす書き方が見事だと思う。「花のすき間に虫」から一気に勢いが増していく。「乳首」「背中に光る硬い金属製の虚」「ひらがなの鼻濁音」などは一瞬意図がつかみにくいが、意図も意味も理由も超えた、筆者の描く美に目を奪われる。
◎「乳の雨」三明十種
筆者の心の清らかさが詩を通して伝わってくる。私は雨に「乳」の色を感じたことはないが、もしそうだったら美しいと思う。世界と出会い直させる力がある。童謡のような調子があるが、子どもには絶対に書けない、境地のある詩である。
●「お水をください」長澤沙也加
若い女性という肉体のくくりで消費され、個性をないがしろにされる悲しみを表現している。読み手ひとりひとりの苦い記憶は、スープの「脂」のように浮きあがり、この情景と重なりあう。最後、「水」をなぜ全員に(消費した側の人間にも)与えるのか直感的に理解できず、ここの筆者の意図を明確にすればより洗練されると感じた。
●「腐りかけのマクワウリ」何人
声に出して読むと音楽の調子があり、「トちゅう」の「ト」にはト音記号、「っ」には休符を感じた。半角文字にすると軽くなりすぎるような気もしたが、意見が分かれるだろう。音と情景がお互いを追い越し合う感じが読んでいて面白かった。
●「嫋やかな鰭」月舟あまね
「教室」の中でまるで酸欠のように自分の生を失っていく感じが生々しくていい。筆者の一つ一つの言葉には確かな重さがあり、それは今後の武器になる。この作品を必要とする読み手がいると思ったのは、私自身、高校生の時にこの作品を読んでいたら救われたかもしれないと思ったからだ。あえて最後を着地させないことで余韻を残せる。たとえば最後の一行を四連目の最初にもってくるなど。
●「flow」落下宙
性交によってしか交わすことのできない、生のコミュニケーションを感じる。描こうとする世界の凹凸に言葉をあてはめていく当意即妙さに筆力を感じる。構成を意識すればもっと洗練される。この作品は時系列を大事にしているが、緩急がつけばより面白いだろうと思った。けれども、この方が良いと思う読み手もいるだろう。
○「はじまり」村口宜史
「逆立ち」して書いた「最後の一文」は「はじまり」でもある。作品から筆者の詩の書き方も見えてくる感じがあって、それを覗き見しているような楽しさもあった。醜いものと美しいものをあえて並べて描いた迫力ある浮世絵を見たことがあるが、「やまんば」と「詩」を並べるのも面白い。
○「消印」井上正行
窓ガラスに切手を貼るというたわいない遊びが耽美的な情景に見えるのは、その美しさを誰よりも書き手自身が実感しているからだ。最後は「消しゴムのカス」ではなく、別のモチーフを選んだ方が、この作品に満ちている良い緊張感を保てるだろう。うたとしての空気感もよく、最後のモチーフだけ再検討して、別の投稿欄に送ってみたらいい。
○「たそがれ」丸山茶々
散文の調子が強いが、これが詩であることを内容が証明している。「巨人」と小さな蛾である「私」のつながりに、不思議な必然性を感じる。わざと古風な言い回しをしているが、筆者の作品世界はあたらしく、令和時代に生きる自分自身の言葉を使用した方が、よりそのあたらしさと美点を生かすことができる。
○「闇の底で目覚める翼」山河恩子
情景が映像としてはっきり見える。独自の世界が立ち上がっている分、「ぎゅっと」といった慣用句的なオノマトペを使うと独自性が薄れてもったいない。自分にしか書けないオノマトペ、比喩を書く練習をすればもっと書く幅の広がる書き手だ。
○「開店時刻」まつりぺきん
読みながら、私自身の抱える焦燥のようなものがなだめられていく感じがあった。達観と青さが、かえって大人らしさのようなものをはっきりと感じさせる。「もやし」「ゆりかもめ」は文脈・作品の空気感からはすこし突飛に感じられ、驚いてしまったが、これは筆者にとっては狙い通りなのかもしれない。
○「うそのなきかた」古倉凪紗
正反対の性質をもつ「石」と「真綿」が詩の中で重なりあい、やがて石に生命のやわらかさがみえてくる。筆者のうちにある世界と哲学の重厚さに対して、構成と語り口がやや軽すぎるように感じ、私には惜しいように思えたが、それが読みやすさにもつながっているので意見の分かれるところだ。しかし試しに、最終連を最初に持ってきて、クレッシェンドの感じに構成しなおして、別の詩誌の投稿欄に送ってみてはどうだろうか。
○「書く」多賀嶋
「インク」が染みていく「脳」が、まるで海綿のような手触りで感じられる。短いが熱量が高く、読み応えがある。「雨」と「雪」のモチーフにはどうしても透明・白っぽいイメージがあるため、白い紙に文字をつづるインクや言葉とのつながりを感じにくい。筆者の目には雨と雪がどのように映っているのかを書き込むといい。
「宇宙岬」佐藤ことひら
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』をまず思い浮かべる。こちらの「鳩のような形の宇宙列車」はSFの空気感もありつつ、自分で操縦できてしまうのが面白かった。時系列順に物語が展開していくが、「声」が聞こえてからすべてが操縦不可能になっていく、クライマックスへと向かう高まりもいい。『ニーベルンゲンの歌』は物語詩を書く上で良い参考になるかもしれない。
「邂逅」ナカタサトミ
「ゴーギャン」「孔雀」「茶碗」「漢籍」など、西洋と東洋のモチーフの混ざり合う冒頭が独特の空気感を醸している。「雪」に対する見方が面白いので、ここをもっと書き込んでほしい。本当に「きみ」にあてて書く手紙のような文体で書けば、この作品の良さがより伝わりやすくなるかもしれない。
「雲」遠野ましろ
「かなしみ」といった重たい感情はいったん宙に浮かび上がって雲になり、それから地に落ち、かなしみを感じた人の立つ地面を豊かにするという発想が面白い。読み手の心も、ふわりと宙に浮かんで軽くなる。最後をあえて着地させず、「恵みとなる/不思議」と「乾いた土に/染み込んで」を入れ替えれば良い余韻が残るだろう。
「使者」中明和聖
独自のオノマトペが、世界をあざやかに開いている(別の場所で発表することがあるかもしれないと思ったのであえて引用しない)。不思議な神様のような「犬」が、まさに詩を読んでいる私のもとにやってくるような感じがした。素描のような書き方をあえてしているが、この独自の世界をもっと詳細に見たいと感じる。情景を書き込むことで、言外に心象もあらわれる。
「都だった場所」西村トキ
詩で世界を包むように、大きなものを描こうとしている。「クーラー」の強く効いた電車内は、確かに「秩序」を取り戻させるような空気感がある。クライマックスに向けてうまく緩急がついているが、「十二単」が登場したことで「都」が東京なのか京都なのかぼやけてしまい、すこし読みにくく感じたことをせっかくの機会なので伝えておく。『田村隆一詩集』の文体・書き方は筆者にとって良い参考になるのではないか。
「原稿用紙」宮崎 隆
いま私の手元にある、この詩が書かれた原稿用紙がどのようにここまできたのか、思いを馳せさせる仕掛けが面白い。詩だけでなくモノとしての面白みもあり、詩とアートを融合させるように、現代美術として並べてみたらどうだろうかと考えさせられた。言葉の美術家・福田尚代氏の仕事は良い参考になる。
「擦り切れたソファ」吉岡幸一
私の祖母も亡くなる直前に、誰の目にも見えない「訪問客」について話していたことがあったのを思い出した。時系列に沿って進んでいく作品であることもあり、行分け詩より散文詩の形にしてしまった方が、情景を書き込みやすくなっていいのかもしれないと考えたが、意見は分かれるだろう。情景にマンガのタッチを感じるのが不思議だった。
「白いミルクティ」雪代明希
雨のそぼ降る冷たく薄暗い外と、ファミレスの蛍光灯に照らされた、手元にある温かな「白いカップのミルクティ」。「私の聖域」という言葉から、大切な場所は青い鳥のように、実はそばにあるものというメッセージを感じた。筆者の作品は、日常というお茶に白いミルクを入れて優しい味にかえるような感じがある。
「問い」春元彩歌
「問い」が「美術館の壁」に展示されているという暗喩的な情景が面白い。問いとは何か? という、二重構造の問いになっている。最後は「問い」に「わたし」は飲み込まれるが、やがて「問い」という「繭」をやぶった「わたし」は自由の羽を手にしているのだろう。「・・・」は単に遊びにならず、良い緩急をもたらしている。
「電力低下」早川ひと美
各連でつづられているシーンが独特で面白く、この一連のイメージだけで一つの詩に仕上げる書き手もいるだろう。語り手の一日という長尺のものを描いているが、ワンシーンワンシーンにじっくり向き合い、その情景を書き込めば興味深い変化が起こるような予感がある。試してみてほしい。
「固有時の彼方へ」川越敏司
最後の「鈴カステラ」が、御茶ノ水駅に鈴音を鳴らしているように感じるほど、場面と言葉がいきいきと躍動している。「君」への思いにはどこか悲しいものも含まれているが、あくまで向日的で、読み手の心も日に照らして温める感じがある。最初「のように」はカットして「連分数/割り切れない」と暗喩にした方が、するっと世界に入り込める。
「臨む爪切り」浪市すいか
「わたし」を遠くへ運んでいく足の「爪」に、月・星・夢を重ねる。「うなり」は「わたし」の声なのか、または違うものなのかを直感的に読めるようにすれば、読み手は作品世界を自由にたゆたうことができる。遠い夢と、ここにいたから見られた「北極星」というモチーフが温かい。
「カモフラージュ」こはく
「わたし」の声がそのまま文体となり、太く強い力がある。反転させると「対角」になるという「あなた」は、「わたし」と同じ位置にいたのか、正反対の手の届かぬ場所にいたのか、読み手によって解釈が分かれるだろう。文体を通して筆者のエネルギーのようなものが伝わってくる分、最後は「かき足してほしい」より「かき足す線がほしい」の方が個人的にはしっくり読める。他力ではなく、自力でなんとかしそうな「わたし」である。
「むしばむ」いなつき きゅー
五七五の音数になっていないのに、不思議と定型詩を読んだ時に感じる音の調子がある。萩原朔太郎の詩の空気感があるような気がする。「焼けた骨の匂い」でぐっと作品が締まるのは、ここにこそ実感がこめられているからではないか。ペンネームが独特でいいので、文体をもっと筆者に寄せた方が洗練される。言葉は道具と同じで、毎日使っている言葉こそ光る。現代詩文庫シリーズを大きめの図書館で片っ端から読み、自分の書きたい文体を探してみるのもおすすめ。
「メタモルフォーゼ」各務あゆみ
本当に美しいものを描きたいという心が伝わってくる。硝子細工のように繊細で読み手を恍惚とさせる世界を作り上げている分、筆者の目に見えているものがどのようなものなのか、もっと詳細に読みたいと感じさせる。情景描写をもっと書き込んでほしいと思ったが、この余白に硝子細工の透明感があるのかもしれず、読み手によって意見は分かれるだろう。
「ドームへ」桜庭紀子
夜店から放たれる光の空間を「ドーム」と言い切るところがこころよい。読み手の心を揺り動かす、言葉の力強さがある。詩は美しいものとは限らないと、私は自分の詩の教室でよく話しているが、詩人の目はやはり世界を輝かせるものだと思った。「彼」が父親なのか恋人なのか近所のお兄さんなのか、直感的に読めるようにすれば、読み手はこの世界に思いきりひたることができる。
「歌姫へ。」紺野真
『竜とそばかすの姫』の世界観が思い浮かんだ。書き手が自分の描く世界を心から愛し、楽しみながらこの作品をつづったことが、明るい声の調子から伝わってくる。丁寧語と話し言葉をどのように使い分けているのか、その意図をわかりやすくすれば作品がより洗練される。
「プリズム」三波 並
「撥水性」という言葉の選択が面白い。雨を弾いている自身の肩の輪郭から、自分の魂の形を確かめようとしているような情景を感じた。繰り返される「わたしは、」が、雨の下に一人でいる「わたし」を視覚的にも表現している。「あの人」よりも「わたし」の方が私には強く見える分、「でしょう」より「だろう」の方が合っているような気がしたことを、せっかくなので伝えておく。
「地球のまわりで」花山徳康
現実世界に、空想を描いた硝子をあわせて見ているような情景がみえる。「軒下にあった/ふわふわの耳」「ばしゃばしゃばしゃ」という行のインパクトが強い分、これが何を指しているのか直感的にわからないと、作品に置いていかれてしまう感じがある。しかし語り手の声はあくまでのんびりとしていて読んでいて心地いい。
講評を終えて
大学時代、文芸創作の講義で教授が次のようなことを言っていた。
「病室の窓に、カラスが現れる。黒いカラスを、死の象徴として書いてしまう。そんな誰もが書くような、ベタなことを書くために、君たちは書き手になりたいのか」
この言葉を今でもふとした瞬間に思い出す。自分にしか書けない言葉を、書き手として追い求めていきたい。自分にしか書けない比喩やオノマトペを書く練習を、投稿者の皆さんにもぜひおすすめしたい。(マーサ)

1990年埼玉県生まれ。詩人。第五十四回現代詩手帖賞受賞。『狸の匣』(思潮社)で第二十三回中原中也賞、『雨をよぶ灯台』(思潮社)で第二十八回萩原朔太郎賞受賞。
