【連載】今日もサメ日和◎沼口麻子——第16回/館山サメ合宿で「ニタリ」について学ぶ 

第16回 館山サメ合宿で「ニタリ」について学ぶ 

 私が運営しているオンラインサロン「サメサメ倶楽部」では、年に数回リアルイベントを開催している。そのうちの1つが「館山サメ合宿」だ。千葉県館山市で2泊3日を共にして、サメについて体験的に学ぶのだ。その折々に漁港で水揚げされたサメをサンプリングするので、どんなサメと出会えるかはお楽しみ。サロンメンバー向けに毎年10月に開催している。 

 今年の合宿で水揚げされたのは「ニタリ」というオナガザメの仲間だった。学生時代に小笠原諸島の父島でよくサンプリングしていた、私にとって親しみのあるサメだ。目もクリッとしていて可愛らしいので、初見でも怖いという印象は抱かない。オナガザメは尾鰭が体長と同じくらい長く、魚体のサイズと比較して口が小さいサメだ。 

ニタリのスケッチ。著者が大学時代に描いたもの

ニタリってどんなサメ?

 ニタリは狩りの仕方に特徴がある。小魚の群れに向かって直進し、鞭のように長い尾鰭をしならせながら、ブンッとひと振り。尾鰭がヒットした小魚は瀕死となる。彼らはくるっと翻って、その弱った小魚をパクり。釣り人によれば、オナガザメの仲間は、釣り針が尾鰭にかかった状態で上がってくるというから、尾鰭を使って狩りをしているのは間違いなさそうだ。 

 オナガザメの仲間は3種類に分けられる。1つ目の「ハチワレ」は、深海にいる種で全体的に茶色みがかっており、ハチワレの名前の由来でもある頭に溝がある。そのため、他の2種と簡単に見分けられる。サメサメ・サメ博物館でハチワレの解説をすると、「ちいかわ!」と言われることが多い。どうやら人気漫画のキャラクターと同じ名前らしく、とても盛り上がる。 

 残る2種は「マオナガ」と「ニタリ」だ。『日本産魚類検索 第三版』(東海大学出版会)によれば、鰭の尖り具合や鰭の位置関係で別種となるとあるが、両者とも体色がグレーに近い色合いで、外見が非常に似ているサメである。マオナガに似ているからニタリと名前がついたのではないかという説もある。 

 今回水揚げされたニタリについて、驚いたことが3つあった。まずは、千葉県で水揚げされたということだ。例年だとこの場所ではハチワレやマオナガが多く、ニタリが水揚げされたところを見たことがなかったからだ。 

 もう1つは、妊娠個体がいたということ。水揚げされた3個体のメスのうち、2個体が成魚、1個体が未成魚だったのだが、成魚はいずれも妊娠していたのだ。私自身、ニタリの妊娠個体は小笠原諸島で1例しか確認したことがなかったので、こんなところで出会えるものなのかと驚いた。3つ目は後ほど解説する。 

 早速、メンバーたちと、その生殖腺を観察してみた。まずは卵巣だ。通常、サメは左右に1つずつ卵巣があるものだが、2個体とも大きな卵巣が1つしか確認できなかった。また、卵巣には5mm前後の卵巣卵が無数にあることが見てとれた。たとえばアブラツノザメのようなサメ類の成熟個体であれば、卵巣卵の大きさがピンポン玉くらいある。明らかに卵の直径が小さかった。 

 次に、子宮を開けてみた。目がクリッと大きく、シルバーメタリックに輝く胎仔が1尾、顔を出した。黄土色に濁る羊水の中に、尾鰭をくるっと丸めて下向きに入っていた。左右の子宮に1尾ずつ胎仔が確認された。 

子宮の中から出てきたニタリの胎仔

 サメは哺乳類ではないので子育てはしないが、妊娠中だけは生育に手厚い体内システムを持つ。とくにニタリなどが属するネズミザメ目の仲間は特殊である。妊娠後期においては、無精卵を母ザメが子宮内に排卵するという仕組みがあることがわかっている。お腹の中にいる胎仔は子宮に落ちてきた卵をたらふく食べ、大きいものでは1m50cm前後まで成長してから生まれてくる。 

 胎仔の腹部を切開してみると、胃袋からは黄色い粘度の高い液体が出てきた。子宮には、胎仔以外に何も入っていなかったが、胃内容物を確認した結果、排卵された卵を食べていることがわかった。 

 今回出てきた胎仔のサイズは全長85.7mm、体長39.9mmだった。出産まではまだまだ先のようである。母ザメの卵巣卵が直径5mm前後と小さかったのは、胎仔が食べやすいからだろうか。急激に大きく成長するために、胎仔はこれから大量の卵を食べる必要がある。 

 合宿最終日は、施設の大掃除をした後、参加してくれた子どもたちみんなで、調理実習を行なった。ランチの食材は自分たちで釣った魚と、解剖したニタリの肉。一般に流通しているサメは「モウカ」といわれるネズミザメという種であり、ふんわりとした食感の美味しいサメだ。ニタリも同じネズミザメグループに属するので、ふわふわのフライができるかと期待した。 

 結果は、繊維がしっかりしてぎゅっと詰まった硬めのフライができあがった。これが、今回驚いたことの3つ目、ニタリの肉の食感だった。オナガザメの仲間はネズミザメに比べて繊維が粗いこと、また、全長3mを超える妊娠個体であったことが理由として考えられる。次回、未成魚のニタリが水揚げされたら食べ比べをして検証してみたいと思う。 

ニタリのフライ。モウカと比較して味は濃い。しかし、硬い。カツカレー、もしくは薄切りにしてピカタにしたら良かったかもしれない

環境汚染の被害にあうサメ

 サメの解剖をしていると、胃袋の中からプラスチック製品が見つかることがある。以前に東京湾で漁獲された推定500kgのカグラザメの胃袋からは漁網の破片のようなものが確認された。また、小笠原諸島周辺海域では、水深800mで漁獲されたハチワレの胃袋から漁網の切れ端とコンビニのビニール袋が出てきたこともあった。  

ハチワレの胃袋から出た海洋ごみ

 今年は台風がとても多く、9月に予定していた沖縄サメ合宿も中止になってしまった。大型の台風が来ると、どんなに対策していても、漁網が丸ごと流されてしまうことがある。人知れず大海原を漂う網をゴーストネットと呼ぶのだが、それに絡まり、身動きが取れなくなって死んでしまうサメが後を絶たない。 

 一昔前であれば、漁網は主に藁や麻紐で作られ、浮き玉はビン玉と呼ばれるようにガラス製が一般的であった。それらは自然素材のため、たとえ流されたとしても海の中で自然に還った。しかしながら、今は頑丈なナイロンやポリエステルなどでできた漁網や、強化プラスチックでできた浮きを使うようになったので、細切れになったり割れたりしても、何百年も分解されずに海を漂う。 

 海洋へ流出したプラスチックごみの99%は回収が不可能だというデータがある。つまり、一度でも海へ流されたプラごみは二度と見つからないのである。漁網の切れ端も、風で流れてきたプラごみも、私たちが日常生活で排出する汚水も、回りまわってサメたちを苦しめる。 

 サメは恐竜が現れるよりはるか昔、約4億年前から地球に存在する生き物である。人間の生活が、サメや海の生き物を苦しめているとしたら、なんとも悲しいことである。 

 今日も今日とてサメ日和。よろシャーク。

 ◆館山サメ合宿スケジュール

 今回は、解剖や標本制作の実習に加え、釣った魚を捌く体験、プロの剝製師による剝製作りの見学会、サメフライ調理実習などを行なった。

《初日》
 昼  集合、ブリーフィング、サメフライ調理教室
 午後 サメ標本の解凍、観察、解剖実習、サメ骨格標本制作
 夜間 サメ剝製標本制作見学会

《2日目》
 朝  標本制作続き
 午前 釣り実習
 午後 魚捌き講座、お刺身作り
 夕食 自分で捌いた魚を実食、片付け

《3日目》
 午前 施設の大掃除
 昼  サメのフライ定食
 午後 忘れ物確認、解散

サメサメ会議2026シンポジウム、日帰り参加者募集中!

今年は、竹島水族館の副館長とサメ自宅飼育インフルエンサーの特別講演ほか、人気YouTuberサメ社会学者リッキーやサメキッズたちの発表、日本中のサメグッズ作家さんによる販売ブースなど盛りだくさんです。

【サメサメ会議2026 参加申し込みページ】
 https://www.samemu.org/symposium

シャークジャーナリスト沼口麻子の「サメサメ倶楽部」
一緒にサメを学ぶメンバー募集中! サメが好きな人が集まり、サメについて学び、サメの魅力を世の中に広めていこうというコミュニティです。 https://lounge.dmm.com/detail/645

沼口麻子

ぬまぐち・あさこ 1980年生まれ。東海大学海洋学部を卒業後、同大学院海洋学研究科水産学専攻修士課程修了。在学中は小笠原諸島周辺海域におけるサメ相調査とその寄生虫(Cestoda条虫綱)の出現調査を行う。現在は、世界で唯一の「シャークジャーナリスト」として、世界中のサメを取材し、その魅力をメディアなどで発信している。著書に『ほぼ命がけサメ図鑑』(講談社)、『ホホジロザメ』(福音館の科学シリーズ)。

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