第24回/トイレの〝カッコイイ〟と〝使いやすい〟の両立は可能?
――今回はインダストリアルデザイナーの澁谷邦男さん(東海大学名誉教授)に「トイレのデザイン性と機能性」について話を聞きます。世の中のトイレを見ていると外観は斬新だけど、使い方がわかりにくいというトイレを見かけますが。
マスコミなどで話題になるような奇抜なデザインのトイレが、必ずしもよいとは言えません。おっしゃるようなトイレは、そもそも優れたデザインのトイレではありませんね。
――「デザイン=見た目」ということではないのですね。
その通りです。公共のトイレに求められるのは、使い手がわかりやすく、安心して使用できることです。でも、駅や空港、病院、観光地、娯楽施設などのトイレが、皆同じ外観であったら、味気ないですね。その場の雰囲気を活かしつつ、使いやすいトイレをデザインすることが肝要なのです。

デザイナーは、まず、利用者の行動を時間軸に沿って「デザインマトリックス」を作成して活用します。トイレの場所はどこが適切か、その案内図やサイン(ピクトグラム)はどんなものがよいか、個室内の設備や配線、レイアウトなどを考えていく。表にして一つひとつチェックしていくことで、客観的なデータが得られます。
公共トイレの一つの特徴として背景にあるのが、多様な人が使うということです。ですから、トイレ個室の設備配置の標準化(JIS規格採用)は、視覚障害者や肢体不自由者だけでなく、子どもや高齢者、外国人などにとっても有効です。

しかし、現場の施工の都合(例えば配線処理や手すりの追加設置による干渉、建築構造上の制約)や、予算削減などのために、規格から外れてしまうこともあるようです。また、コンパクトなコントロールボックスにまとめれば、すっきりとして見えるしコストも抑えられる。そんな理由で採用してしまうケースもあると思います。最優先に考慮すべき事柄に共通認識がないと、誰のためのトイレなのかはっきりしないトイレになってしまいます。そのためにもマトリックスは有効です。
もう一つ、公共トイレに重要な要素はメンテナンスのしやすさです。地方の公園トイレなどは自治体が管理を任されることもあります。誰もやりたがらない仕事なので、責任感の強い町内会役員の方々が掃除を担っている、というケースがありました。たとえプロが担うにしろ、掃除がしやすい形状で汚れにくい素材を使うなども配慮すべき点だと思います。
――清潔を維持するためにも大切な視点ですね。
公共トイレをデザインする上で最も重要なのは、メンテナンスも含め使い手の声を拾うことです。私も高齢者になってトイレの手すりを利用することが増えました。若いデザイナーは手すりが必要という知識はあっても、どこにどのようにつければ一番有効か、という実感がありません。トイレを設置する側もヒアリングはしているとは思いますが、形式的になっているのではないかという懸念はあります。
――東京国際空港ターミナルの設計時には「ユニバーサルデザイン検討委員会」を立ち上げ、多くの人を巻き込んで4年にわたってワークショップを開催し、話し合いを進めたそうです。
それはいいですね。ていねいな議論の積み重ねは時間もお金もかかることかもしれませんが、そのような情報を共有し、その上でトイレをデザインしていくことは長い目で見れば、改築費用の削減やメンテナンスの面で、かえって効率的な面もあります。
特に、現在は高齢化社会が急速に進みつつあり、外出を楽しむ高齢者も多い。にもかかわらず、高齢化に伴うニーズの変化や課題はあまり表立っては語られませんね。高齢者、障害者などの話をていねいにヒアリングしてトイレのデザインに活かしていくことが必要になってくると思います。もちろん、すべての人を満足させるトイレというのは難しい。場所や予算の確保はもちろんですが、技術的にも限界があるでしょう。しかし、これらに配慮したトイレは、当事者以外の人にとっても使いやすいトイレになります。
日本のデザイナーはかゆいところに手が届くような細かい工夫や、限られたスペースを有効に使う技などは得意なんです。ですから、このあたりは期待してもいいのではないでしょうか。

――外国から来る人も増えて、文化背景が異なる人も使います。
ええ、こちらも最近の大きな変化の一つですね。外国の人にとって、わかりやすいことが大切ですが、昨今のトイレの個室内は多機能で難しい。使い方に関するたくさんの張り紙があるトイレもありますが、せっかくのデザインが損なわれることもありますし、張り紙の理解も外国の人にとっては難しいと思います。一目で使い方がわかるのがベストです。公共トイレのマナーや使い方をめぐっては教育も大事になってくると思います。使い方は共通であるべきだという認識を持ち、落としどころを見つけることが、良いデザインのトイレを生み出すことにつながると思います。
――もっとオープンにトイレについて語り合うことも必要ですね。

しぶや・くにお 1940年東京生まれ。千葉大学工学部卒業。日産自動車で初代ローレルなどのデザインを担当。独立後は、多くのインダストリアルデザインを手掛ける。その後、東海大学教養学部芸術学科で教育研究の世界へ。地域のデザイン振興、景観デザインにもかかわる。現在、東海大学名誉教授、日本デザイン学会名誉会員、芸術工学会名誉会員、JIDA名誉会員、北のデザイン研究所主宰。

いしかわ・みき 出版社勤務を経て、フリーライター&編集者。社会福祉士。重度重複障害がある次女との外出を妨げるトイレの悩みを解消したい。また、障害の有無にかかわらず、すべての人がトイレのために外出をためらわない社会の実現をめざして、2023年「世界共通トイレをめざす会」を一人で立ち上げる。現在、協力してくれる仲間とともに、年間100以上のトイレをめぐり、世界のトイレを調査中。 著書に『私たちは動物とどう向き合えばいいのか』(論創社)。

