「投稿の広場」は、詩の投稿を募り、作品の一部をご紹介するコーナーです。選者は「詩のとびら」の著者である詩人のマーサ・ナカムラさん。今回は2026年7月18日から8月18日の募集期間に投稿された三十五篇の中から選考を行い、全作品にマーサさんから講評をいただきました。



ようたし/取っ手のうつり 里見ひつじ
銀の光のと、銀の炭のと
を
一纏めに抱いている
ましたに折れる四本はうえから、まよこに折れ
る一本はしたから、空洞を埋める銀ははざまと
も呼ぶことができ、手は端から端から
吸い、
吸い
と
体温に香るのを嗅ぎとっている
青い域、赤い域、深読みせずとも巡りますよ
と、身体には注釈が入っていて
ひと(ヒト)は為のない煙
ふかれふかされ一旦溜め
あとは流れるだけの
もらいものの線香
すぅー
ふう、
ふう
と
。
風のうまれないカットに、ひと(ある人)はひ
と(自分)を重ねない、流動性のおきてをやぶ
れない、身体の忠臣。滞在するトンネル内のラ
ンプの一々が流星し、足元の泥をふむことを、
もう構わないとすら思う、盲目に駆け回れたら
をいくどもしてみせる
鎖骨から線をひき、二回角を曲がったところに
取っ手がしまわれ、 家のひとつのこらずひと
(住人)に採択されたものなんですと、揚々降
りこむ水滴の果たして生涯よ、床となり壁とな
りここにへばりつけるか
銀は何色をもうつし、くずし、しかし銀のまま。
境目に茂るところもかぶせながら、私の素手を
介して白く
すくう、
すう、
すう
と
。
きしゃきしゃ指がつまずき、水は端から端から
流れます、脚と脚との別れるところ、もううえ
へは伝いませんから、濡らした紙を浸し、一枚
ずつ二枚を履き、白鳥と湖は筒へおち、私は銀
をしたへおしこんで外へ
廊下の天の星はひと(ヒト)にとって末短く、
水はうえへは伝いませんから、ぶら下がること
は星々の逃避にまさしく、落胆したブレーカー
は炭をのもうと希求するが、くだれどくだれど
ああひとりでに、眠り姫にはなれない。指につ
ままれ、再び星の為働く
―
ひと(ヒト)の炭の草に光があたるとき
銀はぬるく曇り、しかし酷くうつし
繫茂の奥に締めこまれたいのち、
無防備に
洋
々
と
。



火種 あらいれいか
あかぎれを瞠る
それだけの祝祭
枝分かれしながらまだ
名前を考えている
舌にしがみつく とおくとどろく潮騒が
いま歩幅を変えても 速度を緩めても
乾くたびの苑内で 扉むこうを扣いている
黄ばんだ膝がみえる、呼吸が数えられるたび
断を増し、立ち上がる赤をツンと腫らし
しろい息はかたちを忘れる。ね、
あだばらを抱えた
潰れる
ずぶずぶすぎて寝返った
ヌルい炎に押し花される
これは再生の槌が沈む手前へ
天は展と出会って転転へほつれ
連れてきたあらい息だけを
戻すルミナスに 曲がった動作
すべてが揃えられ
一斉に傾くからだから増えた
歩幅のぶんだけ字体は折れ
いつの日か 投げ出した足
それでも 霜の羽根
撓みが語りそこねた針金は
湿りすぎるトイピアノの軋みを撫で
旧套だけが 動きつづける
きこえる
トランペットを喰い破り
ロータリーをくどくど
いぶる
瞬きもせず
逃げ道を探して
駅ビルの屋上までのぼる
制した宙にあたる彗星の
生まれくる道は
さかしまに、弱い
手を振る
拗ねたようにしたたらずの段は深い
風船のこわいろが火薬に近づく、風が
栞の翠で立ち止まり、うしろがみを濡らし
よろめき残り、びりびり小さくなる
芽の色はすべて霧の街。雨に
駅前の花屋を擦り抜け
路傍のポストが半分だけ吸収する
ざらつきは肺の裏側へ回りこみ
日差しの残り香を振り落としただけ
そこへ遅れて 頭がうなずく
忘れられていった
音響信号を追い越して
いまに帰らず
ここで揺らしたからだ
引き攣れたエスカレーターを逆走して
帰宅ラッシュへ紛れこむ
(なんともない)
ひとつになり 赤土を触れば拓く
あとの領域は馨る ひくい雨脚の奥で
さけびは届けられた。子午線の接吻
それは、みなもに映る太陽
飢えたぬくもりが傾き
見ず知らずの吊革を着て
背を向ける濡れ衣の皮膚
足を停めて置いた
帰りぎわ、躊躇する裸眼
わたしと含んだ水
吐き出しては味がしない火花


INTEGRATION アリサカ・ユキ
白からスノーホワイトに、ゆびさきを這わせ
ると、あなたは表情を、よろこびからあわい
菫へと変えることがある。まだ、夏の風鈴は
鳴っていて、音が、空気に沁み渡り、とおく、
冷厳な山までとどき、あなたは魂を、あなた
の存在から引き剥がした。
七部袖からでた腕をのばし、あなたは、初秋
の姿を掴もうとする。段差をのぼる蜃気楼の
ように、えいえんにとおい。ニアミスする風
たちを、「ひとつ」であり「同じ」だと
感じる人たちを、あなたは、軽蔑していた。
(生きている。でも、月を見ると、わからな
くなる)
あなたは、魂という概念を返還し、ただひと
つきりの、からだでいようとおもった。空と
湖水は雫で感応し、外気と水中は、婚姻を繰
り返す。ひとつひとつの寿ぎが、あなたの意
味と等しい。あわくまじった、ぜんたいの色
彩が、いちどの呼吸で、からだに入ってくる。
記憶は、壊れることがないだろう。土が、消
滅することもない。空が青いのは、不変なの
だ。まして、人が死ぬことはない。あなたは、
信頼をした。失うことを前提に、人は生きて
いけない。魂のために、地上をないがしろに
していいわけではない。永遠をうちたてるこ
とを、あなたはしないだろう。
にくたいは、厚みがあって、においがする。
空間を割って、あなたの質量は時間に触れた。
そして、むらさきの花弁が、自重により崩壊
していくのをみていると、水平線をつくる両
面が、わずかに噛み合っていないのが、あな
たには、わかった。


未開領域 森林みどり
キャッチする
領域を広げていく
それぞれがそれぞれのままで
発している
白いブーゲンビリアは
どこからが葉で
どこからが花か
染まり具合をたしかめるのは
指か目か
それとも喉か
根は葉ではないので
光に向かうことは
できない
器官は綺麗に分けられている
のだろうか?
肩に黒ずんだ乳首を持つ人は
首を傾げている
あなたはおとこ おんなではない
だれかが宣告している
ここにもうひとつの
浸潤する領域を熱波する
あうる sぷる くぁくあうる
押し間違う
混線する
崩れ、なだれていく
はざまに乙
だれもかれも皮を剥いたら
赤い帽子のマッチ棒になる
のだろうか?
指を広げて
キャッチする
そのしかたは わたしの
だれかのではない
花のすき間に虫
背中に光る硬い金属製の虚
叩く 逃れる
ひっかかる
ここはひらがなの鼻濁音
でなければ ならない

乳の雨 三明十種
羊歯のうえ
乳のいろした雨が降る
あまりに甘酸く匂ふので
あまりにうまく誘ふので
乳の雨いろ
乳に灰を混ぜたいろ
灰を多目に混ぜたいろ
乳液の瓶に透けるいろ
羊歯の弓なり
雨の重みで
乳の混じりが重くするのか
貴女の搾つた乳のいろ
ぬるみがまるみを帯びだせば
乳の雨の降るころだ
講評は次ページに続きます

