第6回 激減するキゴシジガバチ
キゴシジガバチは体長2センチ前後、黒と黄色のいでたちをした細身のハチだ。まるで糸のように細いウエストは、鮮やかな黄色が映え、世に数あるハチの中でも殊更に凛々しくセクシーな成りをしている。
このハチは見た目のみならず、その気性さえも精悍でカッコいい。狩人蜂たる彼女らは、自身以外のこの世の全てを嫌う、孤独なハンターだ。夏、メスはたった一匹で水辺のぬかるみに降り立ち、巣材の泥をかき集める。これを、民家の物陰や石垣の隙間などに持っていき、タコ壺状の形に成形して巣とする。この中に、周辺から狩り集めた小型のクモ類を多数搬入し、自身の卵と共に封印する。一つ封印すると、これに併設して同様の巣を数個作るのが通例だ。
獲物となるクモは、造網性の種が多い。ハチは自身が逆にクモに捕らわれて餌食となるリスクを冒しつつ、それでも果敢にクモの網に飛び込み、そこの主に無理矢理掴み掛かるか地面に突き落とす。慌てて逃げんとするこれを取り押さえた彼女は、あの細いウエストを思い切り前方に曲げて、獲物の急所に毒針を打ち込む。クモは体が麻痺して動かなくなり、生きた貯蔵食としてハチの幼虫に供されることになるわけだ。


このキゴシジガバチ、かつては日本中の広範囲に分布し、民家の周りや里山的環境でごく普通に見ることができた。私自身、幼少期の夏に虫採りで家の近所を練り歩く中、何百回これを視界の端に入れたか知れない。ところが、近年このハチは全国的に、尋常ではない勢いで姿を消しつつある。既にいくつかの都道府県では、本種を絶滅危惧種として扱っているくらいだ。かく言う私も、日本各地を日々虫採り行脚している身だが、少なくとも過去十年間でこのハチの生息安定を確認できているのは、北関東のたった二箇所しかない。
よく似た生態を持つ、近縁かつ大柄の外来種アメリカジガバチに、餌や住処を奪われたからという理由付けがなされているようだが、私はこの説を(少なくとも主要因としては)疑問視している。この外来種が日本に入ったのは1950年代にまで遡るのに、キゴシジガバチをめっきり見かけなくなったのは、本当にここ10~15年くらいのことだから。
明らかに、最近発生した何か別の事案が、このハチの激減に関与しているとしか思えない。探せばまだキゴシジガバチのいる場所は日本のあちこちに見つかるだろうが、わざわざ探さねば見つからないという今の状況が、あまりにもおかしすぎる。こいつは探すまでもなく、外に出れば自然と視界にイヤでも入るような虫だったのだ。当たり前に見慣れていた、夏の日の風景。それを形作る要素が少しずつ剥がされて失われ、そしていつの間にか別の知らないモノによりすげ替わっていく。私はそれが、何よりも恐ろしく悲しい。
キゴシジガバチ、それは「失くしそうなパズルのピース」。



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「虫めづる奇人の回想」 文・写真 小松 貴

こまつ・たかし 1982年神奈川県生まれ。九州大学熱帯農学研究センターを経て、現在はフリーの昆虫学者として活動。『怪虫ざんまい―昆虫学者は今日も挙動不審』『昆虫学者はやめられない─裏山の奇人、徘徊の記』(ともに新潮社)など、著作多数。
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